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シャドウベインの背景世界

惜しくもサービスが停止されたオンラインRPG、Shadowbaneに関する世界設定の翻訳

列王時代

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 さて、あなたを霧がかった歴史の深遠に連れていく前に、まずは周囲を把握させなければいけないな。現代と過去を区切る列王時代は暗たんとした結末を迎えたが、そのあらましから切っても切れないのは、シャドウベインという名前の伝説的な剣で、今回はそれの三度目となった出現について話そう。
 人の時代とも呼ばれるこの時代では、ヒトに全盛期が到来し、彼らの十王国はそれぞれが繁栄を競い合った。史上最高の王として名をはせたのは、征服のためでなく、道義のために戦った大王カンブリュワンであり、彼の振る舞いはまさに徳の炎と言えるものだった。王の啓蒙した美徳訓と彼に忠実で精強な勇士隊の働きがなければ、人の子たちの団結は到底実現し得なかっただろう。
 しかし、時代に華やかさがついてまわる一方で、争いもそれと同じくらい凄惨だった。カンブリュワンはもろもろの王を破り、ヒトの統一国家を打ち建てたが、その後に一息つくことさえままならず、北方人の侵攻に対処したり、オークやジャイアントの討伐に長く勤しんだ。とはいえ、それらはエルフたちの軍隊、妖人軍団との戦いに比べれば大変なものではなく、悲涙戦役と名づけられた武力衝突には、双方の勢力に壊滅の危機をもたらすほどの激しさがあった。

 

 かつて三度襲来し、ヒトの領域を荒らし回ったエルフたちは、二十年前に軍を引いたとき以来ずっと鳴りを潜めていた。カンブリュワンが王の上に立つ王になったばかりの頃でさえも。しかし、悲涙戦役はそのまま終わることなく再燃してしまい、結果として膨大な量の絶望と栄光の伝承が生まれ、何十巻にもわたる記録が編纂された。
 一説によれば、エルフの強烈な憤怒を大王国に招いた原因は、カンブリュワン自身の過失によるが、真相はエルフの王、バルディマンソールの非道な人格によるものだと唱える者もいる。カンブリュワンの豪華な宮殿を目にしたとき、彼の心は嫉妬にさいなまれ、悪意を抱いたのかもしれない。もしくは、バルディマンソールの挙兵は、何らかの神託を受けた神官たちの仕業だった可能性がある。彼らはカンブリュワンをあらかじめ殺害することで、のちに起こる天変地異の要因を取り除こうとしたのだろう。あるいは、この戦役自体が、エルフを絶滅に追い込むために、全父が下した罰だと信じる者も少なくない。エルフたちが悠久の時代に全父を軽んじ、反乱を企てたことはよく知られている。どの噂ももっともらしく聞こえるが、誰も真実を伝えられやしない。戦役の始まりと終わりを目撃した者は一握りだし、その上彼らのほとんどが天変地異が起きたときに命を落したからだ。
 伝承として残ったのは、凄惨な闘争についてのものばかりだ。気持ちの沈むような話は後回しにして、初めに栄光輝く伝説を聞いて、胸を高まらせてくれ。どのようにして、カンブリュワンがシャドウベインを手に入れ、その剣が列王の剣、王作り、王殺しなどと呼ばれるようになったのか。偉大な王と至高の剣について述べるときは、カイリク・ブラックハンマーの物語が欠かせない。この最も高貴な勇士が聖騎士になり、独力で聖剣探求を成し遂げた。

 

カイリク・ブラックハンマーの伝承
―第二の聖剣探究―

 

 カイリクは小さな鍛冶屋を営む父親、ゴイリンの息子としてこの世に生を受け、天使のように純粋な精神と高潔な魂に恵まれた。戦乱が終わる兆しは一向に見えず、どの鍛冶屋も注文に追われていたが、 カイリクは熱心に父親の仕事を手伝い、幼少時代を熱気漂う工房で過ごした。
 カイリクの人生は七歳のときに大きく変わることになった。戦場に向かうカンブリュワンと勇士隊の一行が、彼の住む村を通り過ぎるときに。磨き上げられた甲冑の輝きをまとい、整然と行軍する王と騎士たちを目撃したカイリクは、彼らを御使いの一団だと思い込み、大いに喜んだ。その後、彼らが自分と同じヒトであることを知ったカイリクは、強い憧れの思いを抱き、その場で騎士になる決意を固めた。
 五年後、十二歳になったカイリクは、幼き日に見た王、カンブリュワンを探す旅に出た。自分の手で作り上げた甲冑を着込み、意気揚々と歩くカイリクの帯には、剣などのありふれた武器ではなく、鉄槌がさげられてた。道中にて、カイリクは勇士の一人、ロベナーを見つけ、すぐさま従者に志願した。ロベナーはカイリクの要求を何度も断ったが、カイリクは頑として折れないので、しぶしぶ騎士になる方法を話した。それは、カンブリュワンと敵対する五十人の騎士、もしくは大侯を王の代わりに打ち破るというものである。もちろん、これは厄介払いのためについた嘘にすぎないが、カイリクはまったく疑わずにロベナーのもとを去った。
 そのままカイリクは無謀な挑戦を始めたが、驚くべきことに、実際に次々と五十人の敵を鉄槌と揺るがぬ勇気だけで打ち破った。その都度、カイリクは敗北者たちをカンブリュワンのもとに送り、彼らに王への忠誠を誓わせた。最後の騎士に勝利した後、カイリクはカンブリュワンの待つカレドルン王国の宮廷を訪れた。
 カンブリュワンはその場でカイリクの勇気を褒め称え、騎士に叙した。それだけではなく、カイリクは誉れ高く、誰もが憧れる勇士の一人に任命された。その後、カイリクの活躍がカンブリュワンの威光を際限なく高めたことは言うまでもない。ロベナーにからかい半分で与えられた姓、黒槌はのちに栄誉ある称号になった。騎士たちはカイリクの純真無垢な精神に敬意を表し、それに習い、自分たちの武勇を高めるべく、一層の努力を重ねたといわれている。

 

 カンブリュワンが大王の称号を獲得したときも、その側にはカイリクの姿があり、二十年もの間、カイリクは王の最も信頼を置く人物として彼に仕えた。カイリクの勇名は、瞬く間に大王国の隅々にまで知れ渡り、生きる伝説と化していた。内に秘めた徳は、カイリクに天使のごとき無尽蔵の腕力と耐久力をもたらした。試合において、カイリクは敗北を知らず、戦闘の際には常に前線に立ち、数多くの武勲を立てた。
 しかしながら、カンブリュワンの理想的な統治は長く続かず、王の運勢に陰りが見え始めた。大王の治世十年目、列王時代千七十六年、沈静化していた悲涙戦役は突如再燃し、その激しさは過去に類を見ないほどであった。二十年もの間、エルフたちの王、バルディマンソールが厳寒の土地に座し、兵を蓄えていたためである。
 何ヶ月もの研究を経て、エルフたちは創造者である自分たちの手から逃れ、北方凍土に勢力を築いていた怪物、ミノタウロスを従属させる呪文の復活に成功した。それに加え、エルフの鍛冶職人たちが持てる技術の粋を集め、作り上げた装備は、バルディマンソールの軍団に無敵ともいえる強さをもたらしていた。
 前触れもなく、バルディマンソールは大王国に軍団を解き放ち、ヒトを恐怖に陥れた。カンブリュワンの軍隊は強大であったが、エルフの卑劣な計略により、勇士たちも十分な戦果を上げられなかった。妖術と策謀はエルフの伝統的な手段であり、大王国は敗北に敗北を重ねた。
 最悪の事態を恐れたカンブリュワンは、次第に冷静さを失い、誰彼かまわず怒鳴り散らすようになった。泣き叫ぶ国民たちの声と領地の疲弊、それらは王国滅亡の危機という重圧になり、王に重くのしかかっていたのである。
 最後の砦として皆が期待を寄せた賢者、老梟ゼリスタンの知略も、エルフの進撃を食い止めることはかなわなかった。長い戦いによって国土は荒廃し、勇士たちも辛らつになり、弱音も吐くようになったが、ただ一人、カイリクだけはまだ希望を捨てていなかった。
 大王の治世十五年目、カンブリュワンは勇士たちをねぎらうために、メリッサル市で冬の宴会を開くことにした。そして、聖ローンの祭日に奇跡が起こり、皆は希望を見出すことになった。

 

 聖ローンの殉教日前夜、カンブリュワンと勇士たちはメリッサル市の宮廷で卓を囲んだが、彼らの表情は晴れやかではなく、会場は重苦しい空気に覆われていた。宴は静かに始まったが、会場の扉は急に大きな音を立てて閉まり、ひとりでに大暖炉の炎が消えて、部屋中が暗闇に包まれた。
 勇士たちは奇襲を警戒し、すぐに立ち上がり、剣を抜いて周りを見た。言い伝えによれば、このとき、会場には天使たちが歌い上げたような、とても美しい音楽が流れ始めたという。その後、暗闇の中で、突然強い光が発生し、カンブリュワンと勇士たちの目はくらんだ。動揺した皆が、目をまばたきさせながら光の中心を見ると、そこには、宙に浮かぶ一振りの剣があった。剣の柄は美しく、黄金と白金で作られており、刀身は黒く、おぞましかった。
 剣が現れた場所はカンブリュワンの目前であり、王は最も光を浴びていたが、次には、どこからか、高貴で透き通った声が音楽の流れる部屋に聞こえてきた。

 

 「全父の御心たる王よ、ヒトの滅び迫るとも嘆くまじ。国土に災難受けたるも、汝らが影に抗う手段は無し。されど闇秘むる光の輝きいづこにあり。白刃を見よ、ここに示すは闇と時間の彼方に落ちき運命の剣、シャドウベインなるぞ。築きしものの守り望みなば、剣の獲得をはかれ。帰したシャドウベインは地界に希望を与え、敵皆打ち滅ぼさん。
 だが侮ることなかれ、剣ははるか遠くにありて道は暗く進み難し。至るは死すれども生きる者たちの領域、されど戻る人物はかつて有らざりき。類まれな兵士が探索に赴くがよし、勇と徳なくば必ず命終の来るゆえ」

 

 幻が徐々に薄らぎ、消えた後、強風が会場全体に吹き荒れ、元通りに扉は開き、暖炉の炎は再び燃え始めた。奇跡を目撃し、高揚したカンブリュワンはその場で探求の供を募った。すべての勇士が王の要求に応えたとき、北方の大地に吹く、古の風ともとれる声が部屋に響いた。
 「王よ、お聞きください」
 カンブリュワンの相談役を務める呪術師、ゼリスタンである。
 「大王国は存亡を賭けた戦の最中でございます。決戦を前にして、王である貴方が国を離れてはなりませぬ」
 カンブリュワンは渋々忠告を受け入れ、探求は勇士たちに任せることにした。勇士たちは一様に剣を掲げたが、ゼリスタンはそれを遮った。
 「シャドウベインにかけられた古の呪いは、まだ力をなくしていない。あの剣に触れた者は必ず死ぬ。探求の失敗は死を意味する。よく考えられよ。シャドウベインを手に入れたとしても、王が討たれればすべてが無駄になる。王国に留まり、王と共にくつわを並べることは、決して不名誉ではない」
 ゼリスタンの重たい言葉を聞いて、多くの勇士が掲げた剣を下ろし、探求を断念した。しかし、白髭騎士ジェーリアン、マーディオック・ウィルムスレイヤー、ロベナー・オブ・アルバイティア、名の劣る五人の騎士、カイリク・ブラックハンマー、彼ら九人の決意が揺らぐことはなかった。カイリクはカンブリュワンの前にひざまずき、探求に旅立つ許しを請うた。カンブリュワンは
 「余と共に王国を築き上げた、そちが行くのは寂しい。だが、余は喜んでそちを送り出そう。この探求を成し遂げることができるのは、そちだけだろうからな」
 と言い、別れを嘆いた。カイリクは
 「すべては全父の御心のままに」
 と答え、会場を出て旅の準備を始めた。

 

 カンブリュワンに忠義を尽くす、九人の勇士は聖剣探求の成功を王に誓い、長い旅に出た。探求者たちの伝承は輝かしいだけではなく、暗く悲しいものでもあり、それらは今でも語り継がれている。
彼らの末路は哀れであり、心を砕かれ、馬首を大王国に向けた者もいたが、ジロワーズとロベナーを含む、数人の騎士たちはカンブリュワンの側に戻らなかった。カンブリュワンは彼らの死を長く悼んだ。

 

 死の霧に覆われ、誰も寄り付かなくなった土地は虚無軍団の主、冥后イスリアナの領土であり、その場所にシャドウベインは存在していた。地界の果てを目指し、馬を駆るカイリクは、災禍戦役の爪跡が残る荒地、混沌界の化け物が徘徊する場所を、ただ一人で突破した。進み続けるカイリクには、三つの試練が待ち受けており、カイリクはムールヴェ城で力の試練に、苦難修道院では信仰の試練に耐え、忠誠の試練では、最愛の恋人、エロイーズを置き去りにし、探求を続けた。
 そして、ついにカイリクはおびただしい数の怪物がうごめく、人の子の見知らぬ死の土地に馬を進めた。戦いは激しく、生き残りはしたが、カイリクの馬上槍は折れ、馬は殺され、剣は壊れ、盾も使い物にならなくなってしまった。暗黒の土地を長くさ迷い続けたカイリクは、ようやく、霧の立ち込める最奥に到達した。そこでは、生きる屍の大群が、生者であるカイリクを見つけ次第、強烈な妬みと怒りに駆られ、次々と襲いかかってきた。
 カイリクが振るう最後の武器は、少年の頃、共に数多くの武具を鍛え上げ、五十人の騎士を打ち倒し、自分の名字になった、一本の鉄槌であり、魂を亡霊の冷気に晒されながらも、カイリクは全身全霊を傾けて戦い、死を免れた。

 

 どれほど打ち倒しても死者の数は絶えず、消耗したカイリクは倒れてしまい、これ以上前に進むことは望めなくなった。薄れゆく意識の中、カイリクは闇に一条の光を見た。包囲されたカイリクの前に、貴天使テルラネルが姿を現したのだ。天使の顔は、散りばめられた星の輝きのように麗しく、翼が起こす春の風は、毒気に当てられたカイリクを優しく包んだ。
 テルラネルは静かに口を開いた。
 「善き騎士、神聖かつ公正な、人の子よ、私はあなたを助けに来ました。死の国を離れ、治療と休息の家で力を蓄えれば、あなたは回復し、カンブリュワンに迫る危機を取り除けるでしょう」
 カイリクは答えた。
 「それはできない。私は王と約束を交わした。命に代えてもシャドウベインを持ち帰ると。この誓いを破るくらいなら、一万回の死を選ぶ。あなたが本物の天使であり、私を惑わす悪魔でないのであれば、私にこの探求を成し遂げる力を与えてくれ。誓約を果たし、再び地界に希望の炎を灯すために」
 「あなたの望みはかなえましょう。ただし、あなたが求める剣は、あなた自身の命も奪うことを覚えておきなさい」
 カイリクは微笑んだ。
 「私は大王に自分のすべてを捧げた。剣を持ち帰り、王の勝利に繋げることができれば、喜んで二万回死んで見せよう」

 

 「最も高貴なヒトよ、それがあなたの選択であれば」
 テルラネルが答えると、カイリクは光に包まれ、道標のように、真っ暗な土地を照らした。傷が塞がり、痛みも癒えたカイリクは、血脈に天使の力を授かり、聖騎士として生まれ変わったのだ。
 魂を持たぬ闇の手先たちは、聖なる存在に抗う術がなかった。歩く屍だけではなく、亡霊さえも次々と鉄槌で葬ったカイリクは、小さな墓地に放置されていた運命の剣、シャドウベインをついに見つけた。カイリクはシャドウベインを拾い上げ、待ち構えていたイスリアナを倒し、死の国にかけられていた、冥后の妖術は永遠に消滅した。こうして地界の境界を越え、死者の土地に赴いたカイリクはシャドウベンを手に入れたのであり、そのまま王国への帰路を急いだ。

 

 カイリクの旅は長すぎた。最愛の人、エロイーズと彼女の家族は無残に殺されており、血まみれの遺体は木に吊るされ、何匹ものからすがまとわりついていた。号泣の後、カイリクはエロイーズの遺体を木から降ろし、血に染まった、赤い襟巻を彼女の首から外し、自分の首に巻いた。忠誠の試練に払った代償はあまりにも大きく、カイリクは恋人の危機に間に合わなかったのである。業の印として、カイリクは、最期の日までこの赤い襟巻を身に付けた。
 悲しみに暮れたカイリクは、エロイーズの犠牲を無駄にしないためにも、自分の役目を終わらせなければいけないことを思い出し、再び走り始めた。カイリクはシャドウベインを手に入れたが、剣をカンブリュワンに届けるには、まだ何百里もの距離を進む必要があった。ただちに馬を必要としたカイリクは、人気のない土地で、全父と天使に祈りを捧げた。カイリクは二日間走り通し、三日目に彼の願いは届いた。

 

 カンブリュワンは窮していた。エルフの王、バルディマンソールのミノタウロスは邪悪な呪術で狂気に落とされており、今やその怪物たちがすべて集結し、王に差し向けられていたためである。九人の探求に出ていた勇士の内、五人が殺され、三人はあきらめ、帰国していた。カイリクの消息は絶えたままであり、カンブリュワンは最悪の事態を恐れていた。
 カンブリュワンの軍隊は、何度も突撃を敢行し、その憩いはまさに嵐と雷であったが、ミノタウロスたちはそれをものともせず、大波といえども、断崖絶壁の前には何の意味もなく、崖は依然立ちはだかっていた。カンブリュワンは退却し、エルフの廃都、ボディラノン市にほど近い丘陵上の都市、レンゲスト市に残りの兵力をすべて集めた。配下のミノタウロスを従えるエルフたちは、丘陵を包囲し、勝利を確信して喜んだ。
 戦力の差は明白であったが、カンブリュワンは威厳を保ちながら命令を下し、決戦の準備を進めていたため、軍隊の士気は高かった。市民、兵士、勇士、すべての人々が全滅を覚悟していたが、エルフの勝利には、大きな代償を支払わせようと決意していた。

 

 明け方のレネリンド平原にて、両軍は向かい合った。にわとりの鳴き声が朝の到来を示すと、地平線に眩い星が現れ、日の出の太陽よりも明るく輝いた。エルフたちは暁の星を吉兆の印としており、大いに喜んだバルディマンソールの軍勢は一同に戦歌を歌い、それを聴いたカンブリュワンの兵士たちは震え上がった。
 ヒトの陣営は恐怖で静まり、カンブリュワンは膝を突き、全父に祈りを捧げた。王を見た兵士たちも同じように祈り始め、皆が偉大な王のために怖気づかず、勇敢に死ねることを望んだ。静けさの中、カンブリュワンと大王国の命運は尽きようとしていた。その時、ゼリスタンは一歩前に出て、ふくろうのように鋭い目で空を睨み、指を差して叫んだ。
 「大王の兵士たちよ、歓喜せよ。勝利に向かって走るのだ。救いの時が来た。シャドウベインだ。シャドウベインが来たのだ」
 皆が地平線を見ると、暁の星は徐々に大きくなり、平原に近付いてきた。星の正体は、銀色に輝き、白い翼を持つ、風よりも早く駆ける天馬であった。馬の手綱を握るのは聖騎士カイリクであり、彼の手に握られたシャドウベインの柄が放つ光は、明け方の空に浮かぶどの星よりも強く輝いていた。
 予期せぬ事態にエルフたちは放心し、機会を見出したカンブリュワンは攻撃の命令を下した。ここにレネリンド会戦の火蓋は切って落とされた。

 

 カンブリュワンはエルフの近衛剣士、ブレイドウィーバーミノタウロスの集団に囲まれ、バルディマンソールと対決した。奮闘むなしく、カンブリュワンの持つ剣は、バルディマンソールの湾曲刀に絡め取られ、その剣はミノタウロスの手で真っ二つに折られてしまった。カイリクはカンブリュワンの救出を急いだが、無数の矢が射られ、天馬は殺されてしまった。戦場に落ちていくカイリクは、すかさずシャドウベインを投げ、それは彗星のように暁の空を飛んだ。両陣営が固唾を呑み、シャドウベインの行方を見守った。
 カンブリュワンが空に手を伸ばし、全父の御名を唱えると、シャドウベインは王の手に収まった。シャドウベインの柄は数千の太陽に劣らぬ、強い光を放ち、漆黒の刀身はすべての影を飲み込み、あらゆるものが純白の光に包まれた。そして、エルフたちの呪術は完全に消滅した。洗脳が解け、自分の意思を取り戻したミノタウロスたちは、見境なく暴れ始めた。
 カンブリュワンがバルディマンソールに切りかかると、エルフの王は自分の最期を悟り、涙を流した。バルディマンソールは攻撃を防ごうとしたが、シャドウベインはバルディマンソールの剣、イムドララールの刀身をた易く裂き、そのまま彼の首を胴から分断した。それを見て、エルフたちは散り散りに逃げ出し、怒り心頭のミノタウロスたちは、かつての主人たちを全力で追いかけ、平原を血で染めていった。

 

 カンブリュワンはレネリンド平原での戦いに大勝利を収め、エルフの王国は滅亡した。カイリクは墜落した時に大怪我を負ったが、回復後、再びカンブリュワンに仕えた。ヒトはシャドウベインの復活を喜び、剣を王者生み、暁の星、聖騎士の剣、道標の刃と呼んで称えた。エルフの間では、古くからシャドウベインはシルエストールの剣、イスリアナの破滅、報復の剣などの呼び名で知られており、彼らは、剣から逃げるために姿を隠した。
 悲涙戦役の終結はまだ先の事になるが、この戦役以降、エルフは一度も戦いに勝つことはなかった。
 それでは、シャドウベインの伝説における、痛ましく暗い、最後の伝承をあなたに伝えよう。

 

嘆きの日
―大王カンブリュワンの死と天変地異―

 

 伝承によれば、シャドウベインは二度闇の彼方に失われ、その都度英雄の手で復活し、大戦の戦局を覆した。シャドウベインを手にしたカンブリュワンは勝利を重ね、更なる栄光と国民の尊敬を一身に集めた。聖騎士、カイリクも王に次ぐ英雄として称えられた。
 カイリクに憧れる、多くの騎士が彼にあやかり、赤い襟巻を首に巻いた。業を戒めるための襟巻はいつしか誉れの印となり、襟巻会の騎士たちは今日でも身に着けている。しかしながら、騎士たちがどれほど努力を重ねても、カイリクのような聖騎士として名を残すことはなかった。

 

 大戦の終結に向けて、カンブリュワンの軍隊は勝利を重ねたが、王は過去の影に不安を感じていた。三度にわたり、ゼリスタンはシャドウベインを海に捨てて、呪詛から逃れるように言った。しかし、カンブリュワンは一度も彼に耳を貸さなかった。
 「この剣は、時間の始まりに悪を滅ぼす目的で作られたと聞く。善い存在を破壊するためのものではない。この呪いによって命を落としたのは男と女であるが、余はそのいづれでもない。余は王である」
 とカンブリュワンは答えた。カンブリュワンの意志は固く、ゼリスタンはそれ以上の忠告をあきらめたが、のちにゼリスタンの懸念は真実となる。

 

 勝利は目前に控えていたが、宮廷には不穏な空気が流れていた。由緒ある家に生まれ、カンブリュワンと主従関係を結ぶ前までは、大侯として独自の国を治めていた騎士たちは、平民の生まれであるカイリクが称賛されることが面白くなかった。彼らは聖騎士の訓示に不快感をあらわにし、戦争の終結に際して、カイリクを慕う団体、襟巻会が自分たちよりも高く評価されることを恐れていた。試合でカイリクに負けた騎士たちは、聖騎士が不正な手段を用いたという噂を流し、それに飽き足らず、カンブリュワンの著した美徳論の批判を始めた。
 カンブリュワンは宮廷内の動きを牽制したが、シャドウベインの回帰から始まった不和は、日に日に広がっていった。そして、カンブリュワンが自ら召抱えた、一人の騎士が人道を外すことになった。永遠に真実の名を語られない勇士、背信者として。

 カンブリュワンの勝利が近いにも関わらず、背信者は長い間エルフと内通していた。エルフは最後の抵抗として、北方の吹きさらす土地に築かれた城砦、キアハベンに立て篭もっていた。戦いは凄惨であり、伝承によれば、ここでカイリクは命を落とした。流れ矢に当たったためなのか、それとも、カイリクを嫌う騎士たちに、激戦の最中に放置されたのか、原因は判明していない。ゼリスタンは、周りにシャドウベインの呪いによるものだと話した。カイリクは命を落としたが、エルフの砦は陥落し、ヒトは勝利した。

 

 カンブリュワンは森を馬で駆け、残党の追撃をしていた。王の供には、白騎士ジェーリアンと背信者が就いていた。ジェーリアンは背信者の動向を不審に感じていたが、カンブリュワン自身は、信頼する部下の裏切りを全く予想していなかった。背信者は巧妙に二人を誘導し、一本の巨大な樫の木がそびえる、開けた場所に連れて来た。その場所には、矢尻に死の呪法を付与した、エルフの暗殺者が潜んでいた。
 ジェーリアンは、暗殺者の弓がカンブリュワンを狙っていることに気が付き、とっさに王の体を押して、身代わりとして前に出た。その結果、ジェーリアンは矢を受け、死の魔法は彼の心臓に届いた。体勢を崩したカンブリュワンは、シャドウベインを落としてしまい、背信者は機会を捕らえた。
 背信者は運命の剣、シャドウベインを拾い上げ、そのまま、カンブリュワンの心臓に目掛けて突きを入れた。シャドウベインは鎧の背面、王、鎧の前面の順に貫通した。カンブリュワンは太い樫の木に打ち付けられ、心臓から勢いよく流れる血は、地面に吸い込まれていった。こうしてカンブリュワンは裏切りにあい、またしてもシャドウベインの呪いが持ち主に死を招いたのである。

 

 のちに記された剣書から引用すると、背信者の一撃、悲壮刺突は地界に崩壊をもたらし、天変地異の原因となった。なぜなら、カンブリュワンが打ち付けられた木は、太初の樹こと地界樹であり、天地創造の際に、全父がブライアラの目覚めを行った場所だからである。
 カンブリュワンの血液は、全父の厚い加護を受けたものであり、その液体が地界樹に吸い込まれたとき、樹は石に変化した。空は闇に閉ざされ、大地と海は震え、自然の理は崩れた。天界と虚無界は門戸を閉じ、太陽は赤い血の色に染まり、シャドウベインの柄は輝きを喪失した。大王の死と天変地異を目撃したジェーリアンは涙を流し、老騎士は永続死を迎えた最後の人物になった。こうして列王時代は幕を下ろし、現代の争闘時代が始まったのである。

 

 ここにシャドウベインの伝説は終わる。しかし、あなたにはまだ疑問が残されているはずだ。どのような経緯を得て、シャドウベインに呪いがかけられたのであろうか。なぜ、エルフはシャドウベインを恐れていたのか。光の力を宿すシャドウベインが、冥后イスリアナの支配する不浄の土地に眠っていた理由とは。

 これらの答えは、同じく長い、もうひとつの伝承にある。昼日時代にさかのぼり、ヒトの中で最初にシャドウベインを振るった英雄、ベレグント・ブレイドシーカーについてあなたに教えよう。

 

 

固有名詞一覧

 

《あ》:暁の救星(Mornig's Star)

《い》:イスリアナ〔冥后〕(Ithriana the Lich Queen)、イスリアナの破滅(Ithriana's Bane)、イムドララール(Imdralar)

《う》:運命の剣(Sword of Destiny)

《え》:永続死(True Death)、襟巻会(Knights of the Sash)、エルフ(Elf)、エロイーズ(Heloise)

《お》:王殺し(Kingslayer)、王作り(King Maker)、オーク(Orc)

 

《か》:カイリク・ブラックハンマー〔初聖騎士〕(Caeric Blackhammer the First Paladin)、カレドルン王国(Caledorn)、カンブリュワン〔大王〕(Cambruin the High King)、 カンブリュワンの勇士隊(Cambruin's Champions)、

《き》:キアハベン(Kierhaven)、虚無界(Void)、虚無軍団(Unholy Legion) 《く》:苦難修道院(Perilous Abbey)、黒槌(Blackhammer)

《け》:剣書(Book of Swords)

《こ》:ゴイリン(Goerin)、混沌界(Chaos)

 

《さ》:災禍戦役(War of Scourge)

《し》:ジェーリアン〔白騎士〕(Gerriant the White)、時間(Time)、ジャイアント(Giant)、シャドウベイン(Shadowbane)、十王国(Ten Kingdoms)、シルエストールの剣(Sillestor's Blade)、ジロワーズ(Giroise)

《せ》: 聖剣探求(Quest for the Sword)、聖騎士(Paladin)、聖騎士の剣(Paladinsword)、聖ローンの殉教日(Martyrdom of Saint Lorne)、ゼリスタン〔老梟〕、(Zeristan the Wise)、全父(All-Father)

《そ》:争闘時代(Age of Strife)

 

《た》:大王(High King)、大王国(High Kingdom)、大侯(Warlord)、太初の樹(First Tree)、太陽(Sun) 《ち》:地界(World)、地界樹(World Tree)、昼日時代(Age of Days)

《て》:テルラネル〔貴天使〕(Teluranel, Archon of Grace)、天界(Heaven)、天使(Archon)、天地創造(Creation)、天変地異(Turning)

《と》:道義(Justice)、道標の刃(Beacon Blade)、徳の炎(Fire of Virtue)

 

《は》:背信者(Traitor)、バルディマンソール(Valdimanthor)

《ひ》:悲壮刺突(Woeful Stroke)、ヒト(Human)、美徳論(Code)、人の子(Son of Men)、人の時代(Age of Men)、悲涙戦役(War of Tears)、ベルグント・ブレイドシーカー(Beregund Bladeseeker)

《ふ》:ブライアラ〔地母神〕(Braialla the Green Mother)、ブレイドウィーバー(Blade Weaver)

《ほ》:報復の剣(Sword of Vengeance)、北方(North)、北方人(Northman)、北方凍土(Uttermost North)、ボディラノン(Vodiranon)

 

《ま》:マーディオック・ウィルムスレイヤー(Mardiock Wyrmslayer)

《み》:ミノタウロス(Minotaur)

《む》:ムールベ城(Castle Mourvais)

《め》:メリッサル市(Mellissar)

 

《ゆ》:勇士(Champion)

《よ》:妖人軍団(Elvish Host)

 

《れ》:列王時代(Age of Kings)、列王の剣(Sword of Kings)、 レネリンド会戦(Battle of Rennelind)、レネリンド平原(Field of Rennelind)、レンゲスト市(Rengest)

《ろ》:ロベナー・オブ・アルバイティア(Rovennor of Alvaetia)