シャドウベインの背景世界

MMORPG、Shadowbaneがもつ舞台設定の翻訳

ブラックスミスの物語(Blacksmith Narrative)

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 俊秀ゴルゲリムはアルダン渓谷から出発し、北方まで歩いた。そして、かれは、ジャイアントたちおよび熊たちと戦いながら、巨大な山地へ向かった。旅の末に、ゴルゲリムは、険しい顔をした貫禄ある異人に出会った。貫禄ある異人の顎髭は長く、両目は夜のように暗く、左手は月のように輝いていた。ゴルゲリムは、貫禄ある異人を不思議そうに見つめた。

 

「悩んでいるようだな、土から生まれたヒトよ」と、貫禄ある異人は話しかけてきた。

 

「わたしのことを知るあなたは、何者ですか」と、全父がもった六人目の子どもは聞いた。

 

「わしはおまえの父を知っている。わしは長いあいだかれに仕えてきた。わしのことは異国の鍛冶師と呼んでくれ。聞かせてくれ。なぜ、おまえは、おまえの父が用意してくれた、アルダン渓谷から去ったのか」

 

「異国の鍛冶師どのよ」とゴルゲリムは言った。「わたしは民を助ける方法を探し、放浪している。どうすれば、わたしたちは狼や他の野獣たちに抵抗できるのか。わたしたちは強いが、獣の爪をもっていない。どうすれば、冬に食料を得られるのか。わたしたちは賢いが、答えがわからない」

 

 異国の鍛冶師は笑った。そして、「食料については知らないが、最初の疑問には答えを示そう」と言い、ゴルゲリムに石を手渡した。

 

「これは何ですか」と、ゴルゲリムは尋ねた。

 

「これは鉄と呼ばれているものだ、未熟者よ。周りを見よ。水が氷へ変わり、若芽が木へ変わる。それと同様に、石でさえも、すばらしさと恐ろしさをともなう、新しい形へ変わるのだ。鉄は獣の爪だけでなく、外壁と道具にも変わり、おまえの民は食料不足を防げる。おまえは、それらを作るために学ばなければならない」 

 

「わたしには、その謎かけの答えがわかりません」と、ゴルゲリムは絶望しながら言った。

 

「恐れるな、立派な男よ」と異国の鍛冶師は答えた。わたしの子供たちは知っていて、おまえに教えるだろう。暗く深い場所でかれらを探せ」。そう言ったあと、銀の左手をもつ異国の鍛冶師は背を向け、歩き去った。

 

 ゴルゲリムは遠くまで放浪して、たくさんの小さな洞窟に入り、その中を這い進んだ。こうして、かれは石人たちを発見し、鉄と鋼の両者における、優れた性質について教わった。ゴルゲリムは日が沈んだころに帰郷し、獲得した知恵をかれの民へ教え、アルダン国のヒトたちは強くなった。

 

アルダン国年代記より引用

 

 ゴルゲリムは、秘密を学んだ最初のヒトになった。鉄と鋼は、人の子たちと同様に、大地の骨から生まれたものである。全父は、はるか昔に地界を作りあげた。それと同様に、ブラックスミスたちは、創造の諸力を不完全ながらも利用し、恒久的な事物を作成する。
 ヒトが作られたときに、翼と爪および牙はあたえられなかったが、金属製の道具は、獣とヒトに相違をもたらした。大多数の人びとが、剣と鎖帷子のことを、道具および作品として、最も重要なものと認識している。しかし、調理用ケトルと蹄鉄ならびに、鋤の刃と家屋用の釘がない生活を、想像してみろ。おれたちブラックスミスは武器と防具だけでなく、生活を支えるものも作る。

 

 腕の良いブラックスミスは、一人で、さまざまな人物の役割を担う。このようなブラックスミスたちは、芸術家の目をもち、彫刻家の手をもつ。さらに、錬金術師として、諸元素についての知識をもち、火と金属および両者の混合についても、把握しておかなければならない。労働者の筋力と忍耐力にもとづき、長時間の重労働を務め、何千回も槌を振り下ろすことで、ようやく一つの部品が完成する。
 ブラックスミスが金属を叩く時間は、長いものとはいえない。店および鍛冶場の運営には、たくさんの課題があり、その中には世俗的すぎるものもある。見習いとして、おまえは、それらすべてを学ぶことになる。いつかは、自分の鍛冶場をもち、弟子たちを指導するときが、おまえにも来るかもしれない。それまでのあいだは注意ぶかく学べ。

 

 作業中の鍛冶場は危険だ。手元にある火は、鉄を溶かすほどに温度が高く、金床からは火花が飛び散る。酸および油の、表面処理に使う両者も近くにある。作業じたいに危険がともなう。なぜなら、鍛造のさいに気が散ると、親指を潰したり、目に火花が入るからだ。一瞬でも、火箸の先や鉄の棒に触れると、大火傷を負う。何十人もの人びとが、ブラックスミスとしての適性をともなわず、不具や盲目になり、大怪我を負うこともあった。おまえが注意ぶかければ、失敗することはない。
 ブラックスミスたちは小奇麗な御曹司ではない。おれたちは、煙と石炭で真っ黒になる。頭髪と髭を剃るのは、火花が燃え移らないようにするためだ。おれたちの強靭さは労働に向くものであり、鍛冶場で働くことにおいては、戦士としての能力は必要ない。おまえに、ラバの持久力と山の忍耐力があれば、うまくいく。そうなってほしいものだ。一人前になれた者はほとんどいないからな。

 

用語一覧

 

《あ》:アルダン渓谷(Valley of Ardan)、アルダン国(Ardan)、アルダン国年代記(Chronicles of the Ardani)
《い》:異国の鍛冶師(Shaper)

 

《か》:貫禄ある異人(Stranger)
《け》;元素(Element)
《こ》:ゴルゲリム[俊秀](Golgerim the Clever)

 

《し》:ジャイアント(Giant)
《せ》:石人(Stone Folk)、全父(All-Father)

 

《ち》:地界(World)
《つ》:土(Earth)、月(Moon)

 

《ひ》:火(Fire)、ヒト(Man)、人の子(Son of Men)
《ほ》:北方(North)

 

《や》:野獣(Beast

 

《れ》:錬金術師(Alchemist)