シャドウベインの背景世界

MMORPG、Shadowbaneがもつ舞台設定の翻訳

ベルゴスチの体験記(Belgosch Narrative)

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 おまえは、闇に奉仕するために生まれたばかりだ、幼子よ。おまえは、すでに多くのことを学んだ。例えば、わたしたちをむしばむ飢渇を、どのように満足させるのか。さらに、わたしたちにとって最大の武器といえる、肉体硬化の技法さえも。
 では、おまえはどのようして、わたしたちの仲間になったのだろうか。おまえは、自分の意志で肉体を変化させたのか。あるいは、おまえの行為が闇を引き寄せたのか。おまえは自分の名前と生前の生活、ならびに自分の姿なども、まったく思い出せないだろう。悲しく思うのか。

 

 泣くな、幼子よ。喜べ。失ったものを惜しむな。古い肉体が塵となり、愚かな神がみの影響が、おまえから取りのぞかれたのだから。わたしたちの母であり父でもある闇は、おまえを完璧な姿にかたどった。おまえと、おまえを縛りつける生者の醜い世界とのつながりを、断ち切ってくれたのだ。
 もはやおまえにとって、生前の姿と過去の家族は関係がない。冥界に仕えるわたしたちヴァンパイアは、新しい家族を作りあげた。冥界の冷たい栄光を最初に受容した、四人の大吸血鬼たちが長となり、おのおのの血族が構成されたのだ。そしてわたしたちは、飢渇を満たすために、温かい血を飲むことを学んだ。

 

 バエルゴールさまの名前を聞いたことがあるか。知らなくてもしかたない。遠い昔に息を引き取った、このエルフが再生するまでのあいだ、数千年にもわたって、彼の痕跡は消されてきたのだから。しかし、この死者は覚えていた。そして、ついに虚無能が解き放たれ、わたしたち闇夜霊は、昼間でさえも自由に歩けるようになった。
 バエルゴールさまのことを話し、彼が最初に学んだ真理について教えよう。わたしはもっとも長い歴史をもち、もっとも純粋である血族、ベルゴスチの一員だ。わたしたちは、バエルゴールさまから秘技を授かった狂信者である。わたしたちだけが闇の声を聞き、その邪悪な意思を知ることができる。

 

 古い時代にエルフとして生まれたバエルゴールさまは、宿敵神による昼と夜の分割を目撃した。そして、のちに大吸血鬼となる彼は、高次からの呼びかけを受けた。あるとき、闇が生者の世界で初めて猛威をふるい、死者が歩くようになった。生者たちは、この事件を暗影戦役と名づけた。こんにちでも、生者たちは、この戦争における真の原因と恩恵について、何も理解していない。
 アルダン国のヒトは闇と戦い、エルフは闇を飼い慣らそうとした。だが、どちらともまちがっていた。押し返すことも手なづけることも不可能だ。最善の方法は、抱かれることだ。ある道は滅びにつながり、もう一つの道は再生につづく。バエルゴールさまは、最初にそれを知った人物である。わたしたちの種族がもつ、大いなる秘密を最初に知ったのも、彼である。冥界は名前をもっていたのだ。

 

 バエルゴールさまは、サエドローン女神に仕える高名なプリーストだった。彼はこの白銀女神がおちいった、狂気を癒す方法を探していた。不死者の大群が、初めてエルフとヒトの土地を荒らしたとき、僧侶と呪術師からなる、十三人が僻地に集まった。この集団にはバエルゴールさまも所属しており、彼らは、敵の正体を解明しようとした。
 バエルゴールさまは歩く死者たちが、サエドローン女神の、狂気から生まれたのだと確信した。まさに死者たちは、悪夢の母の子供だったのである。いつしか、バエルゴールさまは真理を知った。秩序と混沌は始まりにすぎないことを。虚無は究極の力であり、闇は秩序と混沌の均衡から作られた、一切を滅ぼすのだ。
 バエルゴールさまは、冥界のささやきを最初に聞いた人物であり、彼は、闇が意思をもつことを最初に知った。どの神よりも強力な存在を知ったバエルゴールさまは、サエドローン女神と他の神がみすべてに背を向けた。闇のとなりにある、月の光とは何だったのか。それは、無限と全能と飢えなのか。

 

 バエルゴールさまは、瞑想と祈りで自分の意識を解き放ち、闇に触れた。バエルゴールさまは飢えている冥界の声を聞き、のちにその内容を、仲間の幻視者たちに伝えた。バエルゴールさまは、グホルゴールさまにも極意をもたらした。これによって、のちに冥界に触れた彼女は、最初のヴァンパイアこと、血の女王に変容する。グホルゴールさまにならうことで、バエルゴールさまは二番目に変容し、彼もアエアインスに闇をもたらす生物になった。

 

 エルフたちは十三人衆を敵視し始め、同組織を壊滅させた。しかし、最後の戦いでバエルゴールさまは姿をくらまし、グホルゴールさまは冥界に逃亡した。数千年ものあいだ、バエルゴールさまは闇の中で待ちつづけ、冥界とアエアインスにおける、唯一のつながりは保たれた。バエルゴールさまの儀式と信仰は、アルダン国の人びとが作った、封印網の密度を低くさせた。大吸血鬼よ、感謝します。冥界の意思が、アエアインスでさまたげられなかったのだから。
 イスリアナさまとシャドウベインを冥界に投げ入れたのは、バエルゴールさまだった。そして、ついに虚無能が到来した。それは、冥界の声を全生物に届けるわたしたち、狂信者ことベルゴスチの働きによるものだ。

 

 仲間に加わりたいか。ならばバエルゴールさまと同じように、自分の心臓に耳をかたむけ、学ぶがよい。そうすれば、冥界の意思を感じとれるようになるだろう。ひとたび冥界の人格と対面したなら、おまえは自由になり、わたしたちのもつ力を完全に理解できるようになる。
 冥界がすべての魂を、その胃袋へ引き寄せるのと同じように、おまえも外部の魂を呼びこめるようになる。わたしたち以外の種族とは違い、おまえのごちそうは犠牲者の命であり、これをたらふく食べるのだ。
 虚無能が、それじしんをおまえの肉体に染みこませるとき、おまえは邪悪な力を授かる。そしておまえは、自分の血が秘める力を他人へ与え、自分の本質を送りこむことで、対象を回復できるようになる。だが、授かった力を無闇に使うな。なぜなら、対象がわたしたちの種族がもつ、飢渇を増幅させてしまうからだ。
 いずれ、冥界はすべての命を捕食するので、出し惜しみすることなく、わたしたちへ力を与えてくれる。

 

 おまえは、一度ヴァンパイアとして生まれ変わった。次はベルゴスチに変容し、自分の血に宿る本当の力を学ぶとよい。

 

用語一覧

 

《あ》:アエアインス(Aerynth)、悪夢の母(Mother of Nightmares)、アルダン国(Ardan)、暗影戦役(War of Shadows)
《い》:イスリアナ(Ithriana)
《う》:ヴァンパイア(Vampire)
《え》:エルフ(Elf)

 

《か》:神(God)
《き》:飢渇(Hunger)、狂信者(Zealot)、虚無(Oblivion)、虚無能(Oblivion
《く》:グホルゴール(Ghorgor)
《こ》:混沌(Chaos)

 

《さ》:サエドローン(Saedron)
《し》:白銀女神(Silver Goddess)、シャドウベイン(Shadowbane)、十三人衆(Thirteen)、宿敵神(Hateful God)

 

《た》:大吸血鬼(Ancient)
《ち》:秩序(Law)血の女王(Queen of Blood)
《つ》:月(Moon)

 

《は》:バエルゴール(Baelgor)
《ひ》:ヒト(Man)
《ふ》:封印網(Net)、不死者(Undead)、プリースト(Priest)
《へ》:ベルゴスチ(Belgosch)

 

《め》:冥界(Void)

 

《や》:闇(Darkness)、闇夜霊(Nightborn)