これは、剣の書に記された古い伝承である。
それはまだ、神がみが地上で暮らしていたときのこと。最も若い神は、全父がもつ最後の子供として生まれた。彼はさまざまな名前で呼ばれている。ドラエセン・ワンアイド、ドラエセン・トゥルーサイト、あるいは真理の子、詩仙など。
言い伝えによると、ドラエセンは藍色の目と銀色の髪をもつ、青年の姿をしていた。彼は風に身を任せ、地界を放浪していたようだ。東方の人びとは、ドラエセンを旅行者たちの守護神と見なし、道中の無事と幸運を祈って、彼の御名を唱える。
しかしそれは、ドラエセンが人の子に遺した、重要なものに比べれば、取るに足らないだろう。
いつとも知れぬ昔、石油を思わせるほど黒い夜空の下で、ドラエセンは散策していた。すると突然、燃えるような目つきの猪たちが、群をなして現れる。その先頭には猪の主がいて、この獣がもつ激しい気性と大きな体は、とても恐ろしいものだった。
この出来事は獣主成敗よりも古い。獣主と凶暴な動物たちは、夜のなかを我が物顔で走り、手あたり次第に、ヒトを襲っていたのである。猪の主はドラエセンの素性を知らず、彼に向かって、いつものように突撃した。
しかし猪の主といえども、真理の子がもつ筋力とすばやさにはかなわない。ドラエセンは、猪の主がもつ二本の牙を、すんでのところでつかみ、獣の勢いを止めた。
「なぜおれを襲う」ドラエセンは聞いた。「おまえは、おれとおれの父のことを、何も知らないのか。おまえが昼の明るさを恐れるように、おまえはおれのことが怖いはずだ」
猪の主はドラエセンをにらみつけ、はき捨てるように答えた。「わしらは太陽だけを恐れる。あの方がともした火は、あの方がもつ、強大な力を思い出させるからだ。小さな生き物よ、おまえは何者だ。おまえは本当に強いのか」
「おれは真理の子だ」とドラエセンは言った。「おまえは、二度とおれに近づかないだろう」
ドラエセンが全力をかたむけると、彼のつかんでいた二本の牙は、ぽっきりと折れる。猪の主は悲鳴をあげて、手下たちとともに逃げ出し、暗闇のなかへ消えていった。
その後、ドラエセンは二本の牙を加工し、出来あがった一組の長剣は、ジイエンオータイと名づけられた。そのうちのひとつは、彼自身が所持する。もうひとつは、ヒトがもった最初の王に贈られらた。
「おれは、闇夜の獣から武器を取りあげた」と若い神は言う。「おまえたちが、暗闇を避ける日びは終わり、いつでも好きな場所に、ヒトは行けるだろう。王よ、おまえを守るために、この剣を渡しておく。
おれは旅立ち、闇夜のなかで見張りをする。おれとおれの弟子たちは、暗闇に光を照らすだろう。夜が来たときは、空を見上げ、おれたちを探すといい。
よく覚えておけ。おれを探す者には、誰であろうと、おれが通った道を歩かせる。いつか彼らは、おれを見つけるだろう」
ドラエセンの話が終わると、夜空には最初の星が生まれ、きらめいたという。その後ドラエセンは、二度とヒトの宮廷に、姿を見せなかった。
真理の探究とも呼ばれるブレイドマスタリー術は、まさしく剣の道であり、古くから尊ばれている。武術の一般的な訓練とは違い、ブレイドマスタリー術と人の道は同義といえよう。
これは地界がまだ新しかったときに生まれ、昼中時代から伝えられてきた、闘争なき時代の大いなる遺産であった。
(中道心得は保留)
用語一覧(ブレイドマスターの物語)
《い》:猪の主(Boar)
《か》:風(Wind)、神(God)
《け》:剣の書(Book of Swords)、剣の道(Way of the Sword)
《し》:ジイエンオータイ(Jen'e'tai)、詩仙(Master of Song)、獣主(Lord of the Beasts)、獣主成敗(Taming)、守護神(Patrons)、真理の子(Son of Truth)、真理の探究(Discipline of Truth)
《せ》:全父(All-Father)
《た》:太陽(Sun)
《ち》:地界(World)
《と》:東方(East)、ドラエセン・トゥルーサイト(Draethen Truesight)、ドラエセン・ワンアイド(Draethen One-Eyed)
《ひ》:火(Fire)、ヒト(Man)、人の子(Son of Men)、昼中時代(Age of Days)
《ふ》:ブレイドマスター(Blade Master)、ブレイドマスタリー術(Blademastery)
《や》:闇夜(Night)