シャドウベインの背景世界

MMORPG、Shadowbaneがもつ舞台設定の翻訳

ヴァルキュルの体験記(Valkyr Narrative)

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 こうして、トールヴァルドの強大な息子であり、北方で輝くロットボルグ市を創設者したヘローガールは、かれの広間で大怪我を負った。体の細い謎の人物が振るった、雷のような槍を受けたためである。

 

 ヘローガールは泣きながら言った。「恐ろしい手のおかた、どうか槍を下げてください。心が半分になった主催者をお許しください」。至大氏族長は、トールヴァルドの眼前で、どの息子が自分を負かせたかを知ろうとして、謎の人物に名前をたずねた。

 

 謎の人物は美しい音色のような声で笑い、周りに見えるように兜を脱いだ。高い峰に落ちた日のように赤い、燃えあがる髪が現れた。かの女の美しい両目と視線は、人びとをたじろがせた。

 

「ここに息子はいないぞ、うすのろな氏族長よ。わたしは娘だ」

 

「この顔に覚えはないのか。ずっと会っていなかったからか。わたしは至大氏族長の娘。名前はヴェアテュール。あなたの非礼は、同じ血をもつ者を怒らせたのだ」

 

 広間にいた人びとは驚き、かの女を見た。その顔は、白く冷たい真冬の氷を思わせた。美しさと強さをあわせもつ女性。かの女は、海で恐れられている貴婦人ことラシャヴァにひいきされた、ヴァルキリーのヴェアテュールである。

 

 ヘローガールは笑い、立ちあがったあと、自分に流れる血の強さをたたえた。こうして、インヴォア人の広間にヴァルキリーがやってきたのである。その後、盾乙女たちの名誉は末永くとどろいた。

 

インヴォア人のスカルドたちが忠実に伝えてきた、ヴェアテュールア・ヴァルキュレンサガの断片より引用

 

 なぜ、わたしをじろじろ見ている。ラシャヴァの盾乙女、ヴァルキリーを見たことがないのか。ならば見よ。そして恐れろ。いいや、わたしは女人族ではないし、熱帯雨林で生まれたわけでもない。北方のものであるわたしの血は、インヴォア人の金床で鍛えられた。バーバリアンの女は狂暴だと聞いていたのだろう。おまえは何もわかっていない。

 

 北方人たちはかれらの父、トールヴァルドを飽きることなく自慢する。かれはヨトゥンならびにアールヴァルと戦い、さらにフルイッカから嵐を奪った。その激しい嵐は、全父ことヴォアダンを裏切った、鉄の仮面をつけた古い神、戦争神ことヤーングレムアに打ちつけられた。たしかに、それらの話は事実だ。だが、かれらは母親がいたことを忘れたようだ。
 わたしたち女は覚えている。母親の名前はラシャヴァだが、かの女はすべての人びとから追い払われたため、今では海に住んでいる。かつてのインヴォア人は海を支配したが、現在のかれらは、海の底を見るたびに恐怖をいだく。なぜなら、ラシャヴァが、いつもかれらを恨んでいるからだ。
 口論の原因は古くて深いため、もっとも賢いスカルドたちでさえ、すべては把握していない。それを知るのは、トールヴァルドとラシャヴァくらいか。他には、トールヴァルドがかつては王と呼んでいた、ダニアたちの主、アルダンだけだろう。ヴェアテュールが現れるときまで、誰も不平の理由を聞けることはなかった。

 

 トールヴァルドはダニアたちと別れ、かれらの輝く土地から去って、インヴォア人たちを北方へ引き連れた。そのころ、北方で、ラシャヴァは夫から不当な扱いを受けた。軽蔑と拒絶を受けたことから、ラシャヴァは、剣のように強烈な、かの女の怒りと力を抑えられる、原生林へ行った。

 

 いつしか、トールヴァルドは、諸豪邸の広間にいる、かれの民のもとから去った。そして、最初の至大氏族長であるヘローガールが、凍てつく北方を治めるようになった。ヘローガールの妻は、白い肌と火のような髪をもつ、すばらしい娘を産んだ。だが、至大氏族長は喜ばなかった。
 最初の子供が男児ではなかったため、ヘローガールは原生林に行き、かれの娘を鎖で岩に縛りつけた。そして、そこから去って、娘を死なせることにしたのだ。その娘をみつけ、救いだしたのは、吹雪を持続させていたラシャヴァだった。ラシャヴァは娘を連れていって隠し、育てあげた。娘の名前はヴェアテュールであり、ラシャヴァは、ヴェアテュールに、自分がもつ海の力と狼の機知を授けた。

 

 ヴェアテュールは、ラシャヴァから、トールヴァルドの愚行についても学んだ。かつて、ダニアたちの土地で、ラシャヴァは夫とのあいだに娘をもうけた。しかし、アルダン王の近衛兵だった夫は、かれの娘を軽蔑し、自分の子供と認めなかった。激怒からトールヴァルドは娘を殺し、ダニアたちの聖地を去ったのだ。ヴェアテュールの号泣を見たラシャヴァは、トールヴァルドの犯罪を繰りかえさせない、決意を固めた。

 

 成人したヴェアテュールは、ほんとうに強力な戦士になった。ヴェアテュールは、ラシャヴァから戦いかたを学んだ。かの女の槍は、雷を超える速度で、決して外さずに標的を突き刺したといわれている。
 ヴェアテュールは最初のヴァルキリーだ。父親の領地に戻ってきたあと、かの女の諸冒険にまつわる数多くの歌が作られた。大勢の男たちがヴェアテュールに求婚したが、かの女はすべて拒否し、自分に勝った相手と結婚すると言った。そして、八十年ものあいだ、かの女にかなう男は一人も現れなかった。

 

 ヴェアテュールは、かの女が学んだことを娘たちに伝えた。インヴォア人たちは、かれらの母親を恐れるようになり、ラシャヴァの恩恵を受けた者たちに対し、敬意をはらうことを学んだ。おまえも、同じように賢くなるべきだろう。それ以上はわたしを見るな、南方人よ。おまえはわたしに触れられないし、横目でわたしを見たとしても、おまえは死ぬことになる。

 

用語一覧[ヴェアテュールア・ヴァルキュレンサガ]

 

《い》:インヴォア人(Invorri)
《う》:ヴァルキリー(Valkyr)、ヴェアテュール(Werthyld)、ヴェアテュールア・ヴァルキュレンサガ(Werthyldr Valkyrensaga)

 

《し》:氏族長(Thane)、至大氏族長(High Thane)
《す》:スカルド(Skald)

 

《た》:盾乙女(Shieldmaiden)
《と》:トールヴァルド(Torvald)

 

《ひ》:ヘローガール(Herogar)
《ほ》:北方(North)

 

《ら》:ラシャヴァ(Lashava)
《ろ》:ロットボルグ市(Hrottborg)

 

用語一覧[ヴァルキリーの物語]

 

《あ》:アルダン(Ardan)、アールヴァル(Alfar)
《い》:インヴォア人(Invorri)
《う》:ヴァルキリー(Valkyr)、ヴェアテュール(Werthyld)、ヴォアダン(Vorrdan)

 

《か》:神(God)

 

《し》:女人族(Amazon
《す》:スカルド(Skald)
《せ》:聖地(Shining Realm)、戦争神(Warrior God)、全父(All-Father)

 

《た》:盾乙女(Shieldmaiden)、ダニア(Danir)
《と》:トールヴァルド(Torvald)

 

《な》:南方人(Southlander)

 

《は》:バーバリアン(Barbarian)
《ひ》:火(Fire)
《ふ》:フルイッカ(Frykka)
《ほ》:北方(North)、北方人(Northman)

 

《や》:ヤーングレムア(Jarngrimr)
《よ》:ヨトゥン(Joten)

 

《ら》:ラシャヴァ(Lashava)