シャドウベインの背景世界

MMORPG、Shadowbaneがもつ舞台設定の翻訳

ウェアラットの体験記(Wererat Narrative)

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 こっけいな話がある。吟遊詩人は、緑豊かな森と晴れ渡った空について歌う。そして、善良な人びとと英雄も賞賛する。だが、おれは英雄に会ったことがないし、地界には美しい大理石がある一方で、汚物も存在している。人びとは汚いものから目をそらす。都市の道路を歩くとき、彼らは悪臭に気がつかないふりをする。壺に入った汚物を窓から投げ捨てて、無関係を装う。厄介払いができたと。

 

 どこに糞尿が投げ捨てられたのか、分かるか。それは道路のあいだに位置し、見下ろす場所に流れる、長い水路だ。水路沿いから下水道に入ることができ、勇気のある者はそこを歩く。そして育ちの良い人びとは、彼らを嫌い、近寄らない。
 しかし、ご立派な旦那たちでさえも、悪事を企てるときには、厄介者の手助けが必要となる。

 

 見てみろ。ここはおれと仲間たちの王国だ。おれたちは、真っ暗な下水道の王様というわけさ。小さな町にもシーフがいる。大都市のシーフは正直な商人を装って、自分のギルドをもつ。悪党たちは、貴族とともに徴税や戦争をとおして、自分たちだけの勢力を築く。
 犯罪者たちによる大きな組織のなかでは、おれと同じような奴が一人はいる。するどい耳とよく見える目をもち、忍び歩きと索敵、それに侵入と偵察が得意な者たちのことだ。
 おれはウェアラットであり、小さなねずみに変身すると、扉の下にある隙間をくぐることができる。狭い排水溝を登り、警備の厳重な施設に入ったこともある。ひとたび侵入すると、おれをつまみ出せる奴はほとんどいない。盗みに調査、それに殺人や陽動をやって、お使いを終わらせるのさ。脱出するときはねずみの群に紛れるから、誰にも見つからない。

 

 ウェアラットに変身できる奴は、神がみに呪われているか、ねずみにかまれたせいだという噂は、おまえも聞いたことがあるだろう。血のなかに、何か悪いものが宿っているともいわれる。真実を知りたいか。すべてを話はしないがな。ヒトがもつ心の中には、かならずねずみが住んでいる。それはナイトとプレレイトも同じだ。
 ウェアラットになりたいなら、まずは自分の内側にいる、ねずみの声に注意を傾ける必要がある。目に見えるねずみが賢いように、このねずみも賢い。しかしこのねずみを上手く扱えれば、彼は外に出てくるだろう。

 

 間違った話は忘れろ。熊男のフィン・アプ・クミルについてだ。おまえもフィンが熊に変身したり、鳥になって飛んだ話は、聞いたことがあるだろう。だが、今から誰も知らない話を教える。
 かつてエルフに捕らえられたフィンは、下水道のなかで、呪力を宿す鉄の鎖に繋がれた。このとき、まだ動物に変身できなかった彼を助けたのは、どの動物だったのか。それは熊の主ではなく、鼠の主だった。
 暗闇の王でもある鼠の主は、フィンの鎖をかみ砕いたあと、ねずみのようにはう方法を、彼に教えたのだ。しかし、偉大な英雄が卑しい動物と汚物に関わりがあるのは、ふさわしくないといわれ、この伝承は忘れ去られた。おれたちを除いてな。
 これがおれたちの無視される理由だ。いつか、おれたちは本来の名誉を取り戻し、人びとを振り向かせるだろう。

 

 シーフの王になりたいか。思い浮かべるといい。地下を猫よりも速く走り、暗闇を見とおせる。財宝置き場にだって侵入できる。ねずみたちは友人となり、おまえを助けてくれるだろう。汚くて臭い下水道は気持ちのいいものじゃないが、そこを通り抜ければ、黄金の山がおまえのものになる。

 

 怖がらなくてもいい。おれは、おまえにその方法を教えてやれる。だがウェアラットになるなら、代償がともなうことを覚悟しておけ。

 

用語一覧

 

《う》:ウェアラット(Wererat)
《え》:エルフ(Elf)

 

《か》:神(God)
《き》:ギルド(Guild)
《く》:熊の主(Bear)

 

《し》:シーフ(Thief)

 

《ち》:地界(World)

 

《な》:ナイト(Knight)
《ね》:鼠の主(Rat)

 

《ひ》:ヒト(Man)
《ふ》:フィン・アプ・クミル(Finn ap Cummil)、プレレイト(Prelate)