シャドウベインの背景世界

MMORPG、Shadowbaneがもつ舞台設定の翻訳

イレケイの伝承(Irekei Lore)

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 若人よ、東方を見ろ。我らの心臓が百度脈打つころ、夜は明け、神的太陽が昇る。彼女クルイハリーンの放出する、光明の恩恵を受けるのだ。
 古い時代では、このように見事な光景は、見られなかった。かつて、永遠闇夜が地界を覆っていたとき、命あるものすべてが、おまえの足元にある、砂のように冷たかった。我らの祖先こと耐え忍ぶ者たちは、夜のように冷たく弱く、空のように空虚といえた。
 おまえはまだウーリーハンにすぎないが、血の中には、神的炎が眠っている。通過儀礼の苦痛に耐えられれば、おまえのハルイーカは発火し、父祖と同じように、心身の変容が完了するだろう。そしておまえはイーリーハンとなり、はじめて、イレケイの兄弟たちに迎え入れられる。

 

 おお、ついに太陽が出てきたぞ。若人よ、恐れずに、彼女と目を合わせるのだ。太陽の光と熱がなければ、砂漠は冷たく空虚で、そこに美しさはない。彼女の光があればこそ、砂漠のすべてが燃えあがるのだ。この恩恵がなければ、何も生きているとはいえぬ。
 通過儀礼を終え、心身を発火させた後には、学ぶことがある。おまえが何者で、祖先がどのような歴史を歩んできたのか。おまえは知るだろう。太陽を最初の教師とせよ。太陽を見て、その温かさを感じ、自分が火から生まれたことを、忘れるな。神敵がはき、太陽に灯した火は、我らの肉体に力を与え、魂には英知をもたらした。
 流水人ことフィルハニムが、もしも我らの母が住まう宮殿、太陽を見つづけたら、どうなるのか。まず彼らの目は水を流し、視力を完全に失う。次に彼らの肌は焼け、魂は衰弱するだろう。だが、おまえはイレケイとして生まれたから、耐えることができる。さあ、やってみせろ。

 

 よくやった。おまえは、ここに儀礼を終えたのだ。では話を始めよう。
 始まりとなる無明期で、空に浮かんでいたのは、一つの月と一つの太陽ではなく、二つの月だった。地界の全体が森と水に覆われていて、砂漠はそこにない。まだ燃料人だった我らの祖先は、真っ暗な地界に住んでいて、無知の奴隷といえた。
 もしも太陽の光源こと我らの父、クルイグオハリーンが目覚めていなければ、この状況は永遠につづいただろう。寒冷人の乱痴気騒ぎとさわがしい歌は、神敵の眠りを妨げたのだ。出現したドラゴンは、無価値な生物に罰を与えていく。地界は揺るぎ、軍隊は壊滅した。寒冷人の建てた、水晶の諸塔も被害を受け、崩壊する。
 愚鈍な寒冷人は、ドラゴンの偉大さを理解できず、神がみに助けを求めた。だが、彼らのなかにはただ一人、変化を喜ぶ者がいた。彼の名前はダリヴァストールという。

 

 ダリヴァストールの名を唱え、記憶に焼きつけろ。寒冷人に由来する名前は、奇妙で覚えにくいが、彼には敬意を表せ。ドラゴンが猛威をふるったとき、兵士たちが一様に泣き叫び、逃げ出したが、ダリヴァストールはとどまった。
 ドラゴンの力といえる炎が、空に放たれ、永遠の夜が終わると、ダリヴァストールは笑った。彼は、自分の無知を理解し、竜神火が生んだ、太陽とその明かりを見て、英知を獲得する。寒冷人の低俗帝国どころか、神がみをも上回る、強大な力がそこにあったのだ。無明期を終わらせた、宇宙で最大ともいえる威光は、なお輝きつづけた。
 ただ一人ダリヴァストールは、ドラゴンの巨大で恐ろしい姿を見上げ、逃げ出さす、神敵の力を感じとる。干渉神と彼の奴隷たちが全力をつくしても、ドラゴンには傷ひとつつけられなかった。クルイグオハリーンは太陽を作成した後、いざこざを経て、ねぐらに帰る。ダリヴァストールが悲しみ、絶望した一方で、寒冷人は喜んだ。

 

 無明期が終わり、新生太陽を灯した火は、ダリヴァストールの心にも燃え移る。ここに点火期が始まった。我らの心に宿る、ハルイーカは輝いたが、イレケイという種族の誕生は、まだ先のことになる。当時、妖人王の一人だったダリヴァストールは、心の奥深くに、発見した英知を隠し、開示すべきときを待った。
 荒廃したアエアインスを見て、寒冷人は嘆き悲しんだ。彼らは太陽の光を嫌い、安息を得るために、各地へ逃げ出した。ドラゴンの回帰を警戒し、とどまった者たちは、太陽の真下で、高い気温と厳しい環境に直面した。寒冷人は残存した人びとのことを、太陽の子供たちと呼んだ。
 太陽の子供たちのあいだで、ダリヴァストールは最も偉大な男だった。彼は自分の一族に、少しずつ真理を広めたという。そして多くの者が、ドラゴンの崇拝を始め、若年神たちへの信仰を捨てた。心魂が弱く、真理を受け入れられない者たちは、殺害されたそうだ。
 ハルイーカに、触発された人びとだけが残存し、彼らがもつ肌の色は、赤く焼けた。彼らの魂は、ドラゴンの英知に感化されたが、肉体は、まだ十分な強さをもっていない。したがって、彼らは拡大しつつある砂漠の、中心部にとどまり、試練に挑んで、肉体を鍛えることにした。
 長老たちは今でも、彼ら燃料人のことを覚えており、完全化を目指す彼らの道のりは、長く険しいものだったそうだ。

 

 当時において、灼熱砂漠での生活は、現代のものよりも難しかった。数多くの燃料人が、試練に耐えられず、ここで命を落とした。太陽金床の上では、寒冷人の伝統と文化は無意味であり、新しい生活様式を強いられる。
 我らは、太陽の生んだ土地で生きるために、寒冷人の服と装飾を捨て、代わりとなるものを着た。新しく作ったものは、武器と言語にまでおよぶ。我らは、もはや太陽の子供ではなく、ハリーンヴィーリーになっていた。ダリヴァストールと彼の臣民は、耐え忍びし者を意味する、イレケイと名乗る。彼らは引き続き、厳しい環境で生活しながら、ドラゴンと太陽をたたえる歌をうたった。
 最初かつ最も偉大な預言者、ダリヴァストールはドラゴンの消息を追う。彼は使徒たちを連れて、地底を調査し、寝ているドラゴンを発見した。そこには、イレケイの呪術でも作れないほど頑丈な、複数の柱と壁があったそうだ。
 使徒たちは、横たわっているドラゴンにひるまず、啓示を待つことにした。

 

 地界の中心部における滞在は、長くなったが、太陽の源泉が生きていることは確認された。狩猟神と干渉神は弱く、結果としてドラゴンは死なず、傷を負っただけである。
 瞑想していた使徒たちは、ドラゴンの見ている、夢をのぞくことに成功した。正気を失う者も出たが、無事だった使徒たちは、たくさんのさまざまな知識を、クルイグオハリーンから獲得した。治療と変化、および破壊に用いられる、生命火ことハルイークルイストゥの秘密は、ここで学ばれる。
 彼らは、ドラゴンが見た夢の中で、干渉神と母神が、アエアインスの上を歩いたときよりも古い、隠された歴史を知った。原初の地界は、氷と火に覆われていたそうだ。未来さえも明らかとなった。血で血を洗う、最終戦争ことクルイハンジャルラカルが起きた後、ドラゴンは、再び目を覚ますだろう。そして地上に現れた神敵は、ふさわしい者たちだけを生かすのだ。
 こうして、イレケイにおける最上位の呪術師たちは、ハナルチュフアラールことブラッドプロフェトになる。彼らは歴史をとおして、ドラゴンの意思を伝達し、人びとを導いてきた。

 

 儀礼を終えたブラッドプロフェトたちは、地上に戻り、強力な呪文を唱える。そして再生女神、 変容火、太陽の女主人などと呼ばれる、ハリークルイストゥを目覚めさせた。竜神の娘から、さまざまなを教えを授かったことにより、イレケイは灼熱砂漠で繁栄し、勢力を拡大していく。
 その後我らは、生物の生きていけない土地で生存しながら、サーペントとスコーピオン、さらにドレイクの様態を模倣し、身につけた。
 部族の構成員ことヴィラクトゥアルは、戦闘および涼風と水を求め、砂漠をさ迷う。地底聖所の入り口にいたる、地上の巡礼路には、複数の聖地が点在しており、彼らの移動生活と深くかかわった。ヴィラクトゥアルは、かつて預言者たちが見張りをした、そのような諸遺跡を中継し、放浪したのである。
 いつしか、砂漠の外部に対する関心は薄れ、遠方の勢力と神がみについて、誰も気にとめなくなった。しかしそれは、彼らの暴挙が私たちの生活を、永遠に破たんさせたときのことまでである。

 

 長老たちは今でも、摂理改変を嘆く歌をうたう。我らの力と父を恐れた干渉神は、太陽を、ひもで動物の群にくくりつけ、引っ張らせたのだ。こうして太陽は沈むようになり、永遠の真昼が終わった。灼熱砂漠は、闇夜に覆われたのである。
 干渉神は我らから、母神と彼女の英知を奪おうとした。イレケイたちは腹を立てたが、彼らのなかには、恐怖にさいなまれる者たちもいたようだ。とはいえ、血の熱いイレケイは、すぐに行動を起こした。
 ダリヴァストールと預言者たちは、強力な呪文をつむぎ、精鋭戦士たちを空に放つ。彼らは星ぼしのあいだを走りながら、干渉神の意図をさまたげた。星間戦士、トゥロドゥラリーカルの歌に描かれているように、彼は毎晩、干渉神の手下たちと戦い、太陽を昇らせる。そして、この英雄が休むたびに、動物の一群が、太陽を沈めているのだ。この戦いは終末が到来し、太陽の位置が固定されるときまで、つづくだろう。

 

 時間が動き出すと、イレケイのあいだでは、意見の相違と衝突が起こった。摂理改変が原因で、老衰死が起こるようになったが、問題はそれだけにとどまらない。呪いについては預言者たちのあいだでも、さまざまな見解が見られた。干渉神と寒冷人の意図によるものなのか、もしくはドラゴンの用意した、新しい試練なのかもしれないと。
 ドラゴンの声は聞こえにくくなり、預言者たちでさえも、意味を取り違えるようになる。真昼だけでなく、闇夜も来るようになると、我らとハリークルイストゥの繋がりは絶たれ、彼女の声は聞こえなくなった。
 人びとのあいだで生じた不和は、熾烈戦争を招く。多くの長老たちが死に、彼らのもつ知識は、永遠に失われてしまった。ヴィラクトゥアルの争いは、種族の全体にまでおよんだ。決闘が盛んになり、英雄たちが現れ、陰謀が横行したのである。
 砂漠の砂には、おまえが想像できないほどに、大量の血が染み込んだ。おまえは死ぬ日が来るまで、賢者に師事し、さまざまなことを学ぶがよい。だが、かつて存在した英雄たちと、偉大な諸部族のことは、覚える必要がない。壮麗な時代おいて戦い、死んでいった彼らは、もはや過去の遺物にすぎないからだ。

 

 戦乱は数千年にもおよんだが、摂理改変から始まった試練は、ようやく乗り越えられる。真っ暗な地底聖所に降りた、妖鬼王ジャルルクロダが、防衛装置として働く、石像生物を排除したからである。そして多くの預言者たちが、ドラゴンのねぐらに到達できた。いわずもがなこの場所は、ダリヴァストールが初めて、ドラゴンの声を聞いた場所である。
 預言者たちが、ドラゴンに呼びかけると、神敵は寝返りをうち、答えは返ってきた。彼らは観想の中で、ハルイーカが魂だけでなく、肉体にも宿っていることを知った。

 

 啓示の光を浴びた後、ジャルルクロダと預言者たちは地上に出て、ドラゴンから聞いた言葉を、広く世に伝える。彼らの教えは、すぐにヴィラクトゥアルの全員が受け入れた。
 ジャルルクロダは、すべての部族を統率するようになり、クルイグヒーハリーンと呼ばれる、最初の人物になった。彼のもとには、全部の呪術師が終結し、父の明らかにした強力な呪文を、共同でつむいだ。
 儀式が始まり、数日におよぶ詠唱が終わると、ハリークルイストゥの拘束は外れ、太陽が暗くなった。火女神が宮殿を離れ、アエアインスに降臨したのである。イレケイたちは、ハリークルイストゥの前で頭を下げた後、ドラコンをたたえる歌をうたい、彼女にひざまづく。
 竜神の娘は喜び、火に覆われている翼を広げた。彼女は変容火を、彼ら燃料人に解き放つ。すると、イレケイたちの血液は熱くなり、肉体は頑丈になった。そして、彼らの内側にあるハルイーカが、肉体ごと激しく燃えあがったのだ。
 炎が収まると、イレケイを覆う灰は、すぐに吹き飛んだ。ある者の肌は、血のように赤くなり、別の者は黒曜石のように、全身が黒くなった。もはや燃料人はいなくなり、そこにいたのは、生まれ変わったイレケイである。我らの火は、決して消えないだろう。

 

 おまえは、太陽が我らの母であり、ドラゴンが父であるという事実を知った。太陽に放たれた火は、太陽を経由して、我らにも届いたのだ。若人よ、おまえの血が宿す火も、解放のときを待っている。
 ハリークルイストゥの到来によって、点火期は終わり、アエアインスの全土が、我らの怒りを受ける、炎上期が始まった。
 変身を喜んだジャルルクロダと彼の庇護民は、さらに強力な儀式を執り行う。それは、ドラゴンを眠りから目覚めさせ、絶滅火災をもたらすためであった。かつて起きた摂理改変が、我らを困惑させたように、砂漠の外に住む者たちは、イレケイの変容に驚いたようだ。
 太陽が暗くなったのを見て、寒冷人の呪術師たちは、何らかの異常が起きたとみなし、行動を起こす。不滅帝国の軍隊が、アエアインスの各地から集結し、灼熱砂漠に進軍してきた。ここで彼らは、変容したイレケイたちの姿と、ドラゴンの目覚めをうながす、儀式を目撃する。寒冷人たちは恐れおののき、我らを帝国から除籍した。すでに我らの方から、同族との縁を切っていたのだが。
 寒冷人の王たちは、我らのことをイレケイと呼んだ。それは彼らの言葉で、被追放人を意味する。妖鬼王たちは笑い、その名称を快く受け取った。

 

 寒冷人たちは、自分たちがアエアインスにおいて、最高の軍事力をもち、干渉神のくびきさえ破壊したと、考えたようだ。だが彼らの心は弱く、ドラゴンの力を受け入れられなかったたため、真実の英知から目を背けた。寒冷人たちが、イレケイの勢威と完璧な姿形を見たとき、彼らには、恐怖と妬みの感情がわきあがる。そして我らは、攻撃を受けたのだ。
 ここに火炎戦役が始まった。生まれ変わったばかりのイレケイは、かつての同族たちと、何世代にもおよぶ、壮絶な戦いを繰り広げた。我らは数世紀にもわたって、太陽とドラゴンの用意した試練に耐える。イレケイたちが、肉体を限界まで追い込み、引き出した力に対して、流水人たちは太刀打ちができなかった。
 一人のイレケイ戦士がもつ能力は、二人分の敵に相当する。しかし、複数の国家からなる寒冷人の勢力は、大規模な軍隊をもっていた。竜神呪術を使うことで、ブラッドプロフェトたちは砂嵐を発生させ、敵に打ちつける。さらにその呪術は、砂漠に住む生物を凶暴化させ、寒冷人と戦うように仕向けた。サンダンダーたちは、自軍の呪術師たちが放つ砂嵐の矢と、敵軍が向ける剣と槍を飛び越え、敵を素手で圧倒する。
 だが、これらをもってしても、戦いは苦しかった。寒冷人の策謀と大軍勢を前に、我らの形成は不利になる。彼らの呪文と輝く武器によって、我らのヴィラクトゥは、ひとつまたひとつと滅ぼされた。戦いが長引くと、心の折れるイレケイが現れる。彼らは自分たちの父、ドラゴンに見捨てられたと感じ、恨み言をはいた。そうでない者たちは、残酷な運命と向き合い、戦いの後に来る、死後の体験を思い浮かべたという。
 イレケイたちのハルイーカは、ふたたび燃え上がったが、その火は、すぐに消えてしまうと思われた。

 

 ある預言者が、猛威をふるう火炎戦役のさなかに、英知を見つける。彼女プレクラブハルは、ジャルルクロダに付き添い、地底に下りた預言者たちのなかで、最後の生き残りだった。伝承によると、彼女はダリヴァストール本人から、教えを受けていたそうだ。
 プレクラブハルは火炎戦役のことを、クルイグオハリーンが彼の選んだ子供たちに与えた、最も困難な試練だと考えた。変容によって、イレケイたちは強大な力を獲得したが、おごりたかぶり、自己を過信していたのである。イレケイの能力では戦況をくつがえせず、寒冷人にかなわないことを、プレクラブハルは理解していた。
 試練を克服するには、イレケイ自身が、ドラゴンに変容する必要があった。そのためには、まず彼らが自分の弱さを認め、謙虚にならなければいけない。決戦のときに、プレクラブハルは戦場を去った。そして、暗い洞窟を下りた後、彼女はドラゴンのそばで泣き叫び、みっともなく助けを求めた。
 ここでイレケイは、試練に合格したのだ。ふたたび寝返りをうったドラゴンは、イレケイを敗北から救う方法について、プレクラブハルにささやいた。

 

 もしも流水人たちが、プレクラブハルの名前を知ると、彼女は永遠に呪われるだろう。プレクラブハルは、ドラゴンのもたらす幻視に導かれ、魔界門のある場所に着いた。そしてこのブラッドプロフェトは、ドラゴンから与えれた力を行使して、門を開放したのだ。
 門の向こう側は外界につながっており、そこに住む魔神たちは、干渉神の子供たちと被造物の根絶を、熱望していた。門からなだれこんできた魔界の軍勢は、無尽蔵の戦力をもっており、襲撃した土地を汚染していく。
 プレクラブハルは殺されてしまうが、彼女の犠牲によって、我らの種族は生きのびた。魔神たちは一世紀近くにわたり、アエアインスの全土を破壊する。魔神がもつ手下たちの人数は、我らに勝る、寒冷人の兵力をも超えていた。したがって寒冷人の軍隊は、自分たちの故郷を守るために、砂漠から引き揚げたのである。
 魔神たちは、門の開放に感謝を表し、灼熱砂漠とイレケイへの攻撃は、行わなかった。生き残った少数のイレケイたちは、砂漠に避難した流水人を、見つけ次第に殺害していく。我らは元の生活に戻り、約束の時を待つことにした。
 イレケイはドラゴンの試練に合格し、火炎戦役で生きのびたのは、強く勇敢で、賢いイレケイたちだけだった。我らは謙虚さを学んだ。我らごときがドラゴンを、眠りから起こすことはできない。イレケイは辛抱強く、ドラゴンの目覚める、約束の時を待つ必要がある。

 

 若人よ、約束の時はじきに来るだろう。資質を得られれば、おまえもクルイハンジャルラカルを見られるかもしれん。
 プレクラブハルの犠牲から数千年が経つと、大地震が起こり、砂漠には嵐が吹き荒れた。不吉な風によって、諸部族は散り散りとなり、太陽は暗くなった。妖鬼王たちはうろたえ、預言者たちは事態を理解する。アエアインスに天変地異が起こり、地界の土地が、いくつにも裂け分かれたのだ。
 時間の呪いは晴れた。もはや死でさえも、イレケイの内部にある火、ハルイーカを消せない。死者は新しい肉体を得て、復活するようになった。蘇生の後、火は勢いを減らすが、燃え続ける。
 人びとはこれらの現象について、原因を見出そうとした。これを、ドラゴンの恩恵とみなす者たちがいる。我らが流水人たちに比べ、人数が少ないという、弱みを取り除くものとして。干渉神は死んでしまい、彼の子供たちすべてが、父の庇護をなくしたとも噂されている。
 クルイハンジャルラカルのときが来たと考える者たちは、古い時代におけるものと同じような、ヴィラクトゥアルの団結を唱えた。火炎戦役の報復として、宿敵の土地へ侵攻するためである。刀差しならびに妖鬼王のあいだでは、少数が勢力の統一に賛同した。しかしそれには、神聖な称号クルイグヒーハリーンをもつ、統率者が必要とされてしまう。
 熾烈戦争がふたたび始まった。イレケイの戦士たちは、指導者の資質を証明することで、ジャルルクロダの後継になろうとしている。戦乱がつづくと、奇妙な噂が流れた。

 

 聞くところによると、やつれて醜いイレケイの老人が、各地のヴィラクトゥをわたり歩いている。彼は、終末の時が来たことを主張し、触れ回っているそうだ。この老人を、人びとの先導者として現れた、ダリヴァストール本人だとみなす者もいる。疑う者は、彼を詐欺師と呼んだ。
 死灰預言者の話は不気味で、謎めいている。彼の言葉によると、ドラゴンは地底のねぐらごと、冥界に落ちて、いなくなったそうだ。イレケイは、自分たちの運命を成就するために、ドラゴンが寝ている場所に続く、道を探す必要があるとも、言っている。
 死灰預言者は、太陽が暗くなった理由として、ハリークルイストゥ女神が、彼女の宮殿から出たことを挙げた。我らが資質を獲得しなければ、彼女は離れたままらしい。
 新しい時代こと焼却期については、どんな預言にも示されておらず、元祖預言者たちの残した文献も、ほとんど役立たない。諸部族を引き連れ、灼熱砂漠を去った高名な戦士たちは、ハンジャルラカルを始め、流水人を攻撃している。ルーン門を利用して、竜神探索に出る者も少なくない。出回った情報を、風説や策謀とみなした妖鬼王たちは、それらを警戒し、砂漠で伝統的な生活をつづけた。
 熾烈戦争は伝染病のように、諸ヴィラクトゥのあいだで広まった。さらに、緑地への襲撃と略奪行為は、どの時代よりも盛んである。

 

 おまえは熾烈戦争に出て、寒冷人およびフィルハニムと、戦うことができる。我らの母と父を捜索で見つけ、すべてを終わらせるのもよい。それとも伝統にしたがって、戦いと試練で名声を獲得し、自分のハルイーカを、より強く燃え上がらせるのか。
 若人よ、おまえは、どれかを選ぶことになる。いずれにせよ、まず始めに、おまえは自分の血を目覚めさせ、次の通過儀礼に挑まねばならん。
 たき火を見よ、数本の短刀が熱してある。ダリヴァストールがドラゴンを見たように、プレクラブハルが火炎戦役に挑んだように、覚悟を決めろ。おまえは、自分の内側に強さを見つけ、苦痛に耐える必要がある。さもなければ死ぬ。我らに別の生き方はない。

 

 おまえの行く道に、ドラゴンの導きがあらんことを。

 

用語一覧

 

《あ》:アエアインス(Aerynth)
《い》:イーリーハン(Irikhan)、イレケイ(Irekei)
《う》:ヴィラクトゥ(Virakt)、ヴィラクトゥアル(Virakt'al)、ウーリーハン(Urikhan)、宇宙(Universe)、運命(Fate
《え》:永遠闇夜(Eternal Night)、炎上期(Time of Flames)

 

《か》:外界(Outside)、火炎戦役(War of Flames)、刀差し(Blade Wielder)、神(God)、干渉神(Meddler God)、元祖預言者(First Prophet)、寒冷人(Hateful One)
《く》:クルイグオハリーン(Kryquo'khalin)、クルイグヒーハリーン(Kryqhi'khalin)、クルイハリーン(KryKhalin)、クルイハンジャルラカル(Krykhan'jallakar)
《こ》:黒曜石(Onyx)

 

《さ》:サーペント(Serpent)、再生女神(Phoenix Goddess)、最終戦争(Blood War of Blood Wars)、サンダンサー(Sun Dancer)
《し》:死灰預言者(Burned Prophet)、時間(Time)、使徒(Chosen)、灼熱砂漠(Burning Lands)、若年神(Young God)、ジャルルクロダ[妖鬼王](Jall'kroda the Blood Lord)、終末(End of Things)、狩猟神(Hunter)、焼却期(Time of Strife)、熾烈戦争(Blood Wars)、新生太陽(Newborn Sun)、神敵(Terror)、神的太陽(Blessed Sun)、神的炎(Holy Fire)
《す》:スコーピオン(Scorpion)
《せ》:聖地(Holy Places)、生命火(Mystical Blood Fire)、石像生物(Living Stone)、絶滅火災(Great Burning)、摂理改変(Change)

 

《た》:太陽(Sun)、太陽金床(Sun's Anvil)、太陽の女主人(Lady of the Sun)、太陽の光源(Holy Source of the Sun)、太陽の子供(Children of the Sun)、耐え忍びし者(They who Endure)、ダリヴァストール(Darivastor)
《ち》:地界(World)、地底聖所(Deep)
《つ》:通過儀礼(Testing)、月(Moon)
《て》:低俗帝国(Wicked Empire)、点火期(Time of Embers)
《と》:東方(East)、ドラゴン(Dragon)、ドレイク(Drake)

 

《ね》:燃料人(Unfinished One)

 

《は》:ハナルチュフアラール(Khanarch'alarl)、ハリークルイストゥ(Khalikryst)、ハリーンヴィーリー(Khalinviri)、ハルイーカ(Khar'ika)、ハルイークルイストゥ(Kharikryst)、 ハンジャルラカル(Khan'Jallakar)
《ひ》:火(Fire)、光(Light)、被追放人(Outcast)、火女神(Flame Goddess)
《ふ》:フィルハニム(Fir'khanim)、不滅帝国(Deathless Empire)、ブラッドプロフェト(Blood Prophet)、プレクラブハル(P'reklabhar)
《へ》:変容火(Transforming Fire)
《ほ》:母神(Mother Goddess)

 

《ま》:魔界(Chaos)、魔界門(Chaos Gate)、魔神(Dark Lord)、真昼(Day)
《み》:水(Water)
《む》:無明期(Time of Darkness)
《め》:冥界(Void)

 

《や》:闇夜(Night)
《よ》:妖鬼王(Blood Lord)、妖人王(Elflord)、預言者(Prophet)

 

《り》:竜神呪術(Dragon Magic)、竜神探索(Quest for the Dragon)、竜神の娘(Dragon's Daughter)、竜神火(Dragonfire)、流水人(Rain Bleeder)
《る》:ルーン門(Runegate)