シャドウベインの背景世界

MMORPG、Shadowbaneがもつ舞台設定の翻訳

Minotaur Lore (ミノタウロスの伝承)

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 聞け。月は闇に飲まれ、炎は空高く燃えあがった。時がきたのだ。立ちあがれ。たき火を囲み、おれの話を聞け。斧を下ろせ。あとで、戦いの時間がくるからな。肉を火にかけろ。あとで、食う時間がくるからな。

 

 落ち着け。おれはイェガシュの子、ユルコ・ブラッドアイズ。仮面の導師、ドゥームセイヤーだ。おれは、秘密にされてきたことを知っている。ずっと昔から引き継がれてきた伝承だ。おれは父から教わり、おれの父は彼の父から教わった。
 古い名前と古い偉業を聞け。奴隷になりたくないだろう。誰かに仕えたくないだろう。ならば聞け。伝承と、自分がもともと何者だったかについてを。

 

 今から、青白人たちが、おれたちを作ったときのことを話す。苦難期についてだ。暗い言葉で表される日び。水晶の塔とじめじめした迷宮の記憶。そのころ、十本足指たちはすでにぼろぼろで、青白人たちは彼らを奴隷にした。でも十本足指たちは賢かったから、しつけるのは難しかった。青白人たちは頭が良かった一方で、体は弱かった。だから彼らは、帝国を守る戦士と、帝国を作る労働者を必要とした。
 そして青白人たちは、鎖につないだ十本足指たちの数人に、期待させる話をもちかけた。奴隷たちはよく選別されていた。力が強く、疲れ知らずで、別の奴隷たちと違い、心が折れていなかった。一方で、弱い奴隷たちは動物のように生きていて、言葉を話すことさえできなかった。
 青白人たちは強い奴隷たちに、力と自由を与えようとした。奴隷たちは提案を受け入れたが、その代償については聞かされなかった。

 

 こうして、牛鬼創造が始まった。青白人たちは呪術と刃物で、おれたちを形作った。十本足指たちの体が切断され、ゆがめられたのだ。どのような火も斧も、奴隷たちの受けた苦痛におよばない。すべてが終わったとき、彼らはもはや十本足指でなかった。彼らは地界で最も強く頑丈な、ミノタウロスになっていたのだ。
 おれたちの種族は生まれたが、十本足指たちは嘘をつかれていた。力は手に入れたが、自由はなかった。青白人たちはミノタウロスが怖がる苦痛の呪文、マールラを編み出していたからだ。その音は、おれたちの手足を火のように焼く。マールラは青白人たちの武器であり、鞭でもあった。だから、最初に生まれた連中は奴隷のままで、虐げられて苦しんだ。
 奴隷たちが抵抗したのか、気になるか。彼ら牛鬼始祖は本当に強かった。主人たちを殺そうとしたが、青白人たちは、多くの呪術を知っていた。青白人たちは心を縛り、意志を砕く呪術、心鎖を編み出していた。だから、働くために作られたミノタウロスたちは、奴隷をつづけさせられた。働かない十本足指たちをこらしめるのも、まえは同じ十本足指だった、彼らの役目になった。
 おれたちの遠い父親たちは、かつての仲間たちと敵対させられたのだ。罰を与えさせられたり、殺しもやらされた。それが大憎悪の始まりだった。ミノタウロスたちは、弱いのに反抗してくる、十本足指たちを憎んだ。だが青白人たちのことは、もっと強く憎んだ。

 

 そのことについては、長く話したくはない。青白人が、おれたちを酷使したこともだ。青白人と山のジャイアントが戦争したとき、氷河を血の色にしたのは、おれたちの血だった。青白人が暗い肌の同族と戦ったとき、砂漠のかまどで焼け死んだのも、おれたちだった。
 今でも青白人たちは、氷雪戦役と火炎戦役での勝利を、誇らしげに自慢する。ばかげたことだ。それらの戦争で砕けた骨は、おれたちのものだった。川を赤くした血も切り落とされた肉も、全部おれたちのものだった。決して許すな。青白人たちは臆病で嘘つきだ。やつらを憎め。その憎しみを、目のまえにあるかがり火のように燃やせ。地界が終わるときまで燃やしつづけろ。

 

 仮面神でさえもこれらの戦争で、おれたちがどのくらい犠牲になったかわからない。おれたちの人数は減少したが、それでも青白人たちの命令で、戦わされつづけた。しかし、変化はおきた。解放期がきたからである。
 十本足指たちはおれたちの戦いを見て、勇気を奮いおこした。彼らは、主人たちから言語を盗り戻し、自分たちをつないでいる鎖を壊した。このときすべてのミノタウロスが、遠くの戦場にて死に物狂いで戦っていた。だから、青白人たちはここで臆病の報いを受けた。
 さわがしい戦争と殺りくの音がとどろいたとき、戦争の神、不具神は目覚めた。洞窟から出てきた不具神は、最高の戦士でもあったため、おれたちの戦いぶりを見て感心した。だが、おれたちが不当に扱われているのも知って、激怒した。仮面神は、青白人たちの生き方を知っていた。仮面神はそれが嫌いであり、まだ昼と夜が存在していなかった、時間以前の時代から、彼らの信奉する神がみも嫌いだった。
 戦争神は彼の力をもって、強力な斧を振り下ろし、おれたちを縛る心鎖を破壊してくれた。おれたちの種族が、ついに解放されたのだ。おれたちは主人たちに襲いかかり、彼らを殺した。青白人たちはマールラを利用したが、おれたちを止められなかった。青白人たちは他の呪術もすべて使ってきたが、おれたちは彼らを皆殺しにして、彼らの骨から骨髄を飲み、勝利に酔った。
 最も強い一人のミノタウロスが、青白人たちの諸都市と、遠くにある暑い砂漠から、おれたちを外部へ引き連れた。彼の名前はコルド・スカルクラッシャーだ。あらゆる氏族のミノタウロスが、今でも彼の名前をたたえている。

 

 青白人の破滅は近かった。奴隷たちは反乱をおこし、さらに同族と仲間割れをしたからだ。そのうえ魔界門が開かれ、出てきた魔界の生物が、彼らの命を奪った。青白人たちは泣き叫んだ。おれたちがいなかったから、青白人の軍隊には戦士が一人もおらず、戦力の低下は大きかった。青白人たちは呪術と懇願をもって、おれたちを復帰させようとしたが、誰も相手にしなかった。
 コルドは、おれたちの種族を北方に導いた。十本足指と青白人のいない、異郷の永久凍土に住み着くためだ。過酷な土地だが、おれたちのような最高の獣にはなんともない。雪原を歩くおれたちを見て、狼と熊は恐怖を知った。
 老齢になったコルドも、他の氏族長たちと同じように死んだ。斧を交わす、命がけの挑戦によるものだ。数多くの決闘が行われたあと、ミノタウロスたちは離間し、いくつもの氏族が生まれた。

 

 諸氏族はそれぞれの歴史をもっており、栄えある長い歌でたたえられている。それらにより多くの氏族長と狩人、ならびに戦士の名前が伝えられているのだ。のちほど、おれたちで彼らの歌をうたおう。
 凍土は空っぽでなかったから、おれたちは戦うための敵を見つけた。ジャイアントと、青白人に奴隷とされなかった十本足指、赤髪人のことだ。彼らはおれたちを、新しい故郷から追い出そうとした。でも、おれたちは強すぎた。多くの争いが、おれたちと赤髪人のあいだでおこり、ジャイアントでさえも、おれたちの力を恐れるようになった。おれたちは食い物と女だけでなく、土地も奪い、彼らの肉で宴をひらいた。
 おれたちのなかには、青白人の鉱山で働くために、しつけられた連中もいた。彼らはその経験を生かして、鉱石を手に入れるために、山を深く掘り進んだ。そこでおれたちは、石人ことドワーフたちを発見し、彼らを破壊した。
 繁栄期は千年におよんだ。それは、種族にとって栄光ある期間であり、おれたちは自由のなかで、勢力を拡大した。そして、北方にいる生き物すべてが、おれたちに恐れおののいた。

 

 聞け。今からグルロク・グレイブンホーンこと、覇王グルロクについて話す。彼の名前を知り、恐れおののけ。グルロクは、ジャイアントの血をもっていたともいわれている。今までにいたどのミノタウロスも、彼の腕力にはとうていおよばない。グルロクは、たった一人で氷竜ブラガラクのねぐらに行き、竜を殺したが、それはまさに伝説的な戦いといえる。
 グルロクが、石人たちから奪った強力な斧は、ドゥームと名づけられ、彼の武器として携帯された。ドゥームは王の斧であり、これにならぶものはひとつをのぞいて、他になかった。グルロクは諸氏族のあいだをわたり歩き、すべての氏族長を決闘で打ち破った。こうして、グルロクはすべての氏族を統一し、彼は王になったのである。
 彼は最強の戦士だった。しかも賢さをそなえており、王らしく振る舞ったため、彼についていく者たちは、恐怖でなく栄光につき動かされた。どのミノタウロスも、グルロクに隷属しなかった。なぜなら、おれたちは隷属しないからだ。
 これほど強力な軍勢はふたつとない。戦争への行軍で、彼らのひづめは大地を揺らし、雄叫びは空をも引き裂いた。そして、北方大戦が始まったのだ。

 

 おれたちが振るう斧のまえでは、十本足指もジャイアントも雑草にすぎなかった。グルロクの軍勢は敵を蹴散らし、北方はおれたちのものとなった。しかし、その勝利はつかの間であり、ミノタウロスの栄光は盗まれた。おれたちの軍勢が強すぎたから、赤髪人とジャイアントは会談を開き、古くからの争いをやめて、手を結んだ。
 北方人の強力な英雄が、ジャイアントの呪術に守られながら登場した。だが、おれは彼の正しい名前は言わない。おれたちは彼のことを、ブラッドブライド(血編み髪)と呼んでいる。ブラッドブライドと彼の軍勢は、おれたちを攻撃してきた。さらに、ジャイアントは山から吹雪を呼び寄せ、おれたちにぶつけてきた。覚えておけ。十本足指、とりわけ北方のヴォア人を信用するな。ジャイアントも絶対に信用するな。彼らは呪術で戦う、臆病者だからだ。

 

 戦いが終わったとき、グルロクは死んでいて、彼の斧は失われた。氏族から追放された者たちの多くが、斧を探しに行き、多くの氏族長たちも同じように探した。いつの日か斧は見つかり、統一氏族がふたたび台頭するだろう。だが、それは今のことではない。
 北方大戦のあと、ミノタウロスたちはもとどおりの生活に戻った。雪の降る北の土地で、数世代にわたり、十本足指とジャイアントは報復を恐れ、おれたちの領地に近寄らなかった。温暖地では、混沌の軍勢があらゆる土地を荒らしまわり、十本足指と青白人は、勝ち目のない戦いをしていた。だが、おれたちに何の関係があるのか。

 

 これから、祖父の祖父が生きていた時代について話す。戦争神が、おれたちのいる土地にやって来たときのことだ。戦争神の恐ろしさはとてつもなく、すべての氏族が彼の到着を知って、奮起した。数十もの氏族長たちが破壊神モーロックに挑んだが、不具神の斧を受けて、全員が命を落とした。
 そしてモーロックさまは仮面を外し、語り始めた。彼はヒトが信奉する神のせいで、顔に大やけどを負い、妻を殺され、名声も失ったのだった。そのうえ、詐欺神ともいえるパンダルリオンは、モーロックさまを罠にかけ、殺そうとしたが、計画は失敗した。危機を乗り越えたモーロックさまは、復讐の機会をうかがっている。
 自分には子供がいないと、不具神は言った。だが彼は、苦難期のおれたちが戦う姿を見て、ミノタウロスが、自分の子供にふさわしいと考えたのだ。パンダルリオンの子供たちは、彼のおろかさが原因で、まぬけになっていたからな。おれたちだけが、モーロックさまに次ぐ戦士といえた。
 モーロックさまは、かつて彼が、奴隷だったおれたちの心鎖を破壊し、自由にしてくれたときのことを話した。そしてモーロックさまは、彼の力を見せてくれた。彼の言葉によって、殺された氏族長たちが、もとどおりに生き返ったのだ。立ち上がった氏族長たちは驚き、彼らの体は、モーロックさまの呪術を宿していた。
 こうして、彼らは最初のドゥームセイヤーになった。彼らの子供の子供の子供は、現代でも不具神の意思に従って、諸氏族を、仮面の認識下に置かせているのだ。


 モーロックさまは、青白人と石人に盗まれた黒き剣、シャドウベインについて語った。おれたちは、 モーロックさまに南へと引き連れられ、そこでオークならびにトロールと合流した。牛鬼創造のときをのぞき、おれたちは初めて、軍勢を青白人に差し向けたのであり、復讐の激しさはすさまじかった。
 しかし、モーロックさまが従える、他の手下たちは弱すぎた。軍勢は崩壊し、団結した三人の神が、
モーロックさまを戦場から追い払った。ミノタウロスたちは、しかたなく北方へと引き下がった。十本足指たちは、モーロックさまが死んだと思ったが、彼らは何もわかっていなかった。
おれたちによる大きな戦争は、人びとの注目を引き付けた。だからモーロックさまは、ヒトと神がみの目を盗んで、黒き剣の探索をつづけられた。

 

 たくさんの氏族長たちが、モーロックさまを非難した。彼らは、モーロックさまを嘘つきと呼んで、故郷へ戻るまでに、多くのドゥームセイヤーを殺害した。争いは何度もおこったが、優れた諸氏族だけは、おれたちを子供としてくれた、父への信頼を捨てなかった。
 仮面神の恩を忘れた者たちは、むごたらしい最期をむかえる。おれの祖父の父の時代に、青白人が心鎖を再製したからだ。ドゥームセイヤーの呪術だけが、この呪文を破壊できた。仮面神を信じつづけた者たちは助かり、南へ行った連中は、青白人の戦争に加えさせられ、犠牲になった。

 

 その戦争は地界を壊し、すべての土地が混乱におちいった。そんなこと、かまうものか。おれたちには、いつも苦難と逆境があった。地界が変わったのは、少しだけだ。おれたちは今までと同じように、力と暴力にもとづいて生きる。
 青白人と十本足指、ならびに他の種族は、自分たちの統一国家を失った。喜ばしいことだ。彼らは、不正の報いを受けたのだから。神がみは死んだともいわれている。喜ばしいことだ。死なせてやれ。温暖地の住人は弱く、おれたちの斧はするどい。現代は流血期であり、人びとはふたたびおれたちの力を知って、おそれおののくだろう。
 おれたちを破壊し、奴隷にしようとした帝国は滅んだ。いつの日かモーロックさまは帰還し、おれたちを最終戦争へ導く。太陽の死ぬ日がきたとき、おれたちを苦しめた連中は、報復を受けるだろう。おれたちには準備ができている。

 

 話は終わりだ。聞いたことは忘れるな。さあ、肉を食べよう。

 

用語一覧

 

《あ》:青白人(Pale One)、赤髪人(Red-Hair)
《い》:イェガシュ(Yegash)
《う》:ヴォア人(Vorri)、牛鬼創造(Birthing)、牛鬼始祖(First One)
《お》:オーク(Orc)、温暖地(Warmlands)

 

《か》:解放期(Reckoning)、火炎戦役(War of Fire)、神(God)、仮面神(Masked God)、仮面の導師(Keeper of the Mask)
《く》:苦痛の呪文(Words of Pain)、苦難期(Hateful Time)、 グルロク・グレイブンホーン[覇王](Gurrok Gravenhorn the Grim)、黒き剣(Black Blade)
《こ》:コルド・スカルクラッシャー(Kordo Skullcrusher)、混沌(Chaos)

 

《さ》:最終戦争(Last Battle)、詐欺神(Deceiver God)
《し》:時間(Time)、時間以前(Before Time)、ジャイアント(Giant)、十本足指(Ten-Toe)、心鎖(Soulchain)
《せ》:石人(Stone Man)、戦争神(War God)

 

《た》:大憎悪(Great Hate)、太陽(Sun)
《ち》:地界(World)
《つ》:月(Moon)
《と》:統一氏族(Horde)、ドゥーム(Doom)、ドゥームセイヤー(Doomsayer)、凍土(Icelands)、トロール(Troll)、ドワーフ(Dwarf)

 

《は》:繁栄期(Time of Clans)、パンダルリオン(Pandarrion)
《ひ》:ヒト(Human)、氷雪戦役(War of Ice)
《ふ》:不具神(Maimed God)、ブラガラク[氷竜](Vragallak the Ice Drake)、ブラッドブライド(Bloodbraid)
《ほ》:北方(North)、北方人(Northman)、北方大戦(Hordewar)

 

《ま》:マールラ(Maalra)、魔界(Chaos)、魔界門(Black Gate)
《み》:ミノタウロス(Minotaur)
《も》:モーロック[破壊神](Morloch the Destroyer)

 

《ゆ》:ユルコ・ブラッドアイズ(Yurko Bloodeyes)

 

《り》:流血期(Time of Blood)