シャドウベインの背景世界

MMORPG、Shadowbaneがもつ舞台設定の翻訳

Shade Lore (シェイドの伝承)

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 神秘結社の運営する高級研究会は、争闘時代の九四年度に、四七九六回目となる公式会議を開催した。この議事録は、高名な智者のブレンダル・コランティス氏が同好の研究会会員を集め、行った講演にもとづくものである。

 

 ご来場のメイジと真理を探究される皆様方、まず始めに、調査結果の報告をさせていただけることに、お礼を申し上げます。皆様方もご存じのとおり、天変地異と呼ばれる災害は、分裂したアエアインスの全土に、消えない爪痕を残しました。
 現在、急務とされている課題は、新しく出現した諸種族に関するものです。しかし、名の知れた神秘学者と賢者でさえ、彼らの実態を解明できておりません。皆様方の大半には改めて説明するまでもなく、私は謎めいた種族、シェイドの研究に生涯を費やしてきました。彼らは、闇子や無魂人とも呼ばれています。
 初めて、高級研究会がシェイドに関心をもったのは、争闘時代の初期でした。私は全力をかたむけ、新しい種族の物理的な性質の研究に、打ち込んだのです。長く困難な調査の結果、五十年ほどまえに、私は四七四三回目の公式会議で、最初の発表を行いました。私は今回、シェイドが「誰」で「何」で、「どのようなものか」については話しません。なぜならその説明には、前回の研究で執筆した、八巻におよぶ概論すべてを、参照せざるをえないからです。しかも、ひかえめに言っても研究の完成には、五十年とさらに多くの年月が必要となってしまうでしょう。

 

(聴衆の笑声)

 

 ですが聴衆の皆様、今日は「なぜ」シェイドが存在するのかを、述べさせてください。現代においてなぜシェイドは、ヒトから生まれることがあるのか。なぜこのような事例が、天変地異のあとから確認されるようになったのか。疑問の答えは、シェイドの最終的な分析に役立つでしょう。
 シェイドが、呪術の才能に長けていることはまれです。それにも関わらず、高級研究会は高い見識にもとづき、彼らが呪術結社に入会することを認めました。そして今では、優れたウィザードとして、理事会に席をもつシェイドもいます。
 これから始める考察は、理事をお務めされている、蒼白学者ネルレリクト氏に承認されたものから、行いたいと思います。氏のお力添えとご指導ならびに、氏がもつシェイドに対する独自の視点は、研究の第二段階に不可欠なものでした。二人のウィザード、青呪術師アンギルロール氏と識者ウェスペル氏は、作業に打ち込む私に、新しい発想を与えてくれました。そのおかげで私は、アエアインスの破片となる土地、十か所以上へ調査旅行におもむきます。そしてシェイドの起源と、彼らの謎めいた末路を解明すべく、力を尽くしました。
 私は広範囲に聞き込みを行い、数十人のシェイドと数千人のシェイドでない人びとから、多くの情報を収集しました。そしてついに、五十年におよぶ研究の成果として、この格式ある会議で、発表を行う用意ができたのです。なぜヒトのなかには、シェイドとして生まれる者がいるのでしょうか。私はシェイドの起源に関して、数多くの解釈を見つけました。ですが、私たちのもつ疑問の決定的な答えが、それらのなかにあるとは限らないことを、お断りしておきます。

 

(聴衆の動揺とつぶやき。さらに若干の野次)

 

 皆様、どうかご静粛に。話をつづけさせていただけるなら、皆様に思い出していただく事実があります。アエアインスにシェイドが現れた時期は、一世紀よりもまえのことでした。長老ルマンドーン氏の論文から、一節を紹介します。「万物の本性と運命は、地界と宇宙に内在する、万物の配置と相互作用ならびに、すべての要素からなる調和の観察により、推測が可能である」
 シェイド自身はまだ自分たちのことを、自然的あるいは超自然的な存在であるか、どちらとも主張していません。さらに、私たちの知る範囲では、歴史に対して有意義な貢献もしていません。シェイドが行動を起こすときまで、謎が明らかになることはなく、誰も答えを出せないことでしょう。
 私は研究の初期段階で、従来の手法が、まったく役立たないことに気がつきました。私は自分の知性と霊性をすべて用い、熟考しました。さらに悪魔たちを呼び出し、疑問に答えさせましたが、それでも期待した回答は得られませんでした。全父教会にいる私の友人たちも、天使たちでさえ、シェイドの謎について答えられないことを、確信しています。

 

 私たちはシェイドがなぜ存在するのか、明確な答えを出せていません。ですから当然、自由に理論を立て、推測することができます。私は調査でシェイドの起源と性質に関する、数百におよぶ逸話を発見しました。しかしそれらは、狂気じみた迷信と根拠のない民間伝承ばかりです。
 熟考の結果、私は十の仮説を立てました。これからひとつずつ解説して、発見した証拠とその裏づけが、各理論をどのように構成しているのかを説明します。
 仮説は、おおまかに分けて三つに分類されます。一つ目はシェイドの誕生が、呪術を利用した企てによるというもの。二つ目は神格あるいは宗教によって、シェイドが生み出されたというもの。三つめは天変地異による影響で、争闘時代の生物がもつ性質に、変化が加えられたというものです。私個人としては、最後の仮説が最も有力だと考えますが、どの説も詳細に検証せねばなりません。

 

 呪術は、しばしば呪いや破滅の機能をとります。それがシェイドの起源として、最も広く流布している説といえるでしょう。しかし高名な呪術師、フェリストール・オブ・メリッサル氏は、対立的な見解に達しました。
 フェリストール氏はシェイドが協力的か否かを問わず、実験のために、無数の儀式を彼らに行いました。そして、すべてのシェイドがもつ血液に、かすかな呪力がふくまれていることを、突きとめたのです。フェリストール氏はそれを、シェイドを変容に至らしめた、呪術によるものとみなしました。
 私は氏が行った実験の再現を、何度も試みましたが、成功はしませんでした。しかし、もしもフェリストール氏の理論が正しいものだとしたら、新しい疑問が生じます。一体、誰が変容の呪術を使ったのでしょうか。

 

 シェイドを生み出すのは誰なのか。それについては、さまざまな立場から多様な見解が挙げられました。例えば、魔女による儀式が、原因と信じる人びとがいます。ヒトの男性か女性が呪いをかけられ、シェイドが生まれるように、仕向けられたものとしてです。
 興味深い疑問があります。なぜシェイドは、地界にいる他の種族からは、生まれてこないのでしょうか。なぜシェイドの出生は、不規則に見えるのでしょうか。彼らの両親が魔女を怒らせたのか、それともただ単に、魔女の生活圏に住んでいたせいなのでしょうか。
 しばしば、この会議場でも議論されましたが、私たちは、魔女に原因を求めることができませんでした。もっとも、テンプラーとコンフェッサーたちにとっては、違うようですが。私には、シェイドと魔女に関係がある証拠は、見つけられまでした。しかし、この説を完全に否定することも、できませんでした。決して、間違いであるとは言えないのです。

 

 魔女が原因でないとしたら、誰によるものでしょうか。しおれた暗い土地の近辺に住む人びとは、暗影軍団の幹部たちである、ヴァンパイアとリッチ王の仕業だと主張します。彼らがある目的から、胎児に呪文をかけ、シェイドに変容させると考えているのです。
 そのように生まれたシェイドは、暗影軍団の兵士として、侵略に加担するのかもしれません。彼らが実在するかは明らかでありませんが、無視できない説といえます。実際に、シェイドがもつ不死者のような性質は、証拠になりうるものです。
 とはいえ、シェイドが不毛な土地周辺だけでなく、他のどこでも生まれることを、私は確信しました。各地で生まれたシェイドの人数は、ヴァンパイアとリッチ王による、知られざる悪事の回数と関係があるのかもしれません。彼らは未確認のネクロマンシー術を使い、冥界と地上の、橋渡しをしている可能性があります。
 この分野においては、さらなる研究が必要です。しかし残念なことに、まだ私はヴァンパイアとリッチに対して、取材ができていません。

 

(聴衆の笑声)

 

 シェイドの起源を呪術的なものとみなす場合、理論にもとづいたうえで、しばしば言及される最後の集団があります。しかし私がそれを話すと、皆様方の多くを不愉快にさせてしまうでしょう。裂け分かれた各地で、博識な人びとも無知な人びとも、両方が主張していた説をお伝えします。それはエルフがヒトに対し、最後の報復として呪いをかけたため、死産児が誕生したというものです。

 

(場内騒然。話者が静粛をうながすが、効果なし。進行係が杖で床を何度も強くたたき、聴衆は落ち着いた)

 

 高等種族の方がたには不愉快かもしれませんが、この説は広く知られていますし、歴史上にも先例があります。
 昼中時代の初期に、北方にてダールヘレグア人とジャイアントとのあいだで、酷寒戦役という戦いが起きました。エルフは勝利したのですが、ジャイアントに健康な子供を生まれなくさせる、恐ろしい呪いをかけました。今日、私たちの知るさまざまなジャイアントは、死に至る障害を生き抜き、健常な個体と交配させられ、生まれたものだけです。
 胎児がシェイドになる事例の増加は、ヒトの絶滅を目的として、先ほどの説明と同じ方法が用いられたためかもしれません。秘匿宮廷の最後となるメイジたちが、キエラヴェンが陥落する直前に、シェイドを生み出す呪文を、発動した可能性があります。しかし天変地異が起きて、すべてのヒトが本当に死ぬことはなくなりました。そのため、呪文の影響力については議論の余地があります。
 この説に対しては、証拠が存在しないことが指摘されます。強力な呪いを発動するには、高位のウィザードたちが多く集まり、長い年月をかけて働く必要があります。ですが、そのようなことが行われた形跡は、何ひとつ見つかりませんでした。実際に、天変地異を経験したメイジたちが、災害の起きるまえに、強大な呪力を感じとることはなかったようです。
 私は、なんとかエルフの智者と接触し、先ほどの説を否定してもらうべく、熱烈にたずねました。しかしどの智者たちも、私の考えるような強大な呪術について、何も知りませんでした。

 

 多くの理論と風説でも、シェイドは不明瞭な存在とされており、邪悪なものか神聖なものかさえも、定かでありません。村にいる長老たちの多くが、男あるいは女の夢魔が存在することを、信じています。彼ら悪魔たちは地界の各地をさまよい、見つけた夫婦の片方に変装し、誘惑するのかもしれません。
 このような夫婦から生まれた子供たちには、魂がありません。なぜなら、両親の片方が魂をもっていないからであり、こうしてシェイドの特徴が具現化します。このような理由から、シェイドは不死者の性質を半分もつとはいえず、むしろ悪魔に分類される可能性があります。災禍戦役が終結したとき以来、少数の悪魔がアエアインスに住み着いたことを、思い出してください。
 もしもシェイドが悪魔であるなら、なぜ天変地異のあとまで、悪魔は青白い子供をもうけなかったのでしょうか。その理由はまったくわからないですし、もちろん、私は夢魔に疑問をたずねられませんでした。

 

 多くの人びとが、シェイドとティターンたちの王、アルダンに関係があると信じています。このティターンは、死亡したあとに、全父の手で冥界から救い出された人物です。学者たちのなかには、蘇生したアルダンが天変地異のときまで、羊飼いとして死者たちを導いてきたと、考える者もいます。アルダンは自分の構想にもとづいて、かつて神がみが行ったように、自分の種族を作ろうとしたのかもしれません。
 それでは、悪名高いシェイド、カトゥルスの興味深い話を始めましょう。破戒したヒーラーのカトゥルスは、父教会にて最初で最後となった、シェイドのプレレイトです。クルルヴォ出身の主教による、熱烈な後援を受けて、カトゥルスは全父教会に所属しました。そして彼は新発見の種族、シェイドを全父の子供として公認させ、そこに加えることを試みました。ですが、それは失敗しました。
 のちに、聖都ダルゴスに配属されたカトゥルスは、古文書と経典の写本係を務めたそうです。この若いプレレイトは夜になったとき、総主教の最も重要な書庫に侵入し、数多くの古い異端と正統の書物を読みました。カトゥルスが記録から何を見つけたのかは、誰にもわかりません。これらの多くは、エルフが、全父教会を創設した時期におよぶほど古く、知識はカトゥルスを狂気におとしいれたようです。
 シェイドのプレレイトは奇行に走り、聖都の路上をさまよい、異端的な説教と冒とく行為を行いました。すぐにカトゥルスは全父教会から破門され、総主教みずからが、僧職に就いているシェイドたちの追放を発令しました。

 

 その事件から長いあいだ、カトゥルスはアエアインスの各地を放浪し、狂気の福音をひろめ、やがてしおれた土地に着きました。そして謎めいた宗教組織、骸布兄弟団が、カトゥルスによる教えのもとで成立したのです。
 骸布兄弟団はアルダン王を熱烈に信仰していて、カトゥルスを死者の主に選ばれた、宣教者だと考えています。カトゥルスが、総主教の書庫から盗んだアルダン国の古文書には、大きな秘密が記されているといわれています。それは、アルダン国のヒトがはじめて深淵軍団と戦った、暗影戦役に関係しているそうです。
 骸布兄弟団は未来の地界に起きる、大きな異変に備えるべきだと勧めています。その規模は、かつて起きた天変地異に迫りますが、次のものは日暮れと永遠の夜になるそうです。こうして死滅が報復のため、崩壊した地界に戻ってきて、影が生きものすべてを飲み込むと、彼らは言います。
 噂によると、この教団はヒトを捧げ者にし、人肉を食らい、下劣な犯罪を主催するようです。私は広範囲にわたる調査を行い、骸布兄弟団の成員を少数みつけました。ですが彼らは、謎めいた信仰について何も教えてくれず、私の殺害をこころみました。

 

 全父教会の内部にいたカトゥルスの賛同者たちは、シェイドの起源と本性について、結局は何も結論を出しませんでした。総主教が承認し、正式な宣言を出すときまで、議論はつづくでしょう。私は主教と枢機卿、さらにプレレイトなど、さまざまな聖職者が立てた理論を紹介しました。ですが、まだ一人の尼僧、イブンフォードのビエタ・ルクレティア氏による考えを伝えていません。
 ビエタ氏はシェイドの誕生が、全父の死を確実に証明するものと推測しました。大多数の聖職者が、全父の無事を信じてはいますが。全父は伝統的に、ヒトがもつ魂の源泉とみなされています。現代では死のあとでさえも、魂が体から恒久的に離れることはできず、各地の人口は増加をつづけています。ビエタ氏の考えによれば、宇宙における、「素材としての魂」が不足しています。そのためにシェイドは、魂をもたずに生まれてくるそうです。
 しかし、この理論には疑問の余地があります。余剰分の魂がないのならば、なぜヒトの子供すべてが、シェイドとして生まれないのでしょうか。ビエタ氏は十分な賛同を得られず、全父教会でのけものにされてしまいました。それでも彼女は、講演と執筆ならびに議論をつづけており、自説を主張しつづけています。

 

 まったく異なる説が浄火神殿の高位審問官、ヘグラニモウス・ダルト氏によって唱えられました。彼はシェイドを、全父の意志を曲解し、父の善性から逸脱した、罪深く邪悪な生物であるとみなします。 浄火神殿にいる神学者たちの推測によれば、シェイドとは過去の罪が原因で、肉体と霊魂が変容したヒトです。筆舌に尽くしがたい特定の状況下で、七世代以内の先祖による罪が、胎児の体を毒すと、子供は不死者になるとのことです。貴族家門にとってシェイドとは、まさしく目に見える罪と不名誉の紋章でした。子供がシェイドとして生まれたことにより、名声を喪失した家系は少なくありません。
 聖マローンはシェイドの処分を定めた、聖令状を数多く記しました。マローン氏によれば罪の影に落ちた子供は、まったく清浄ではなく、無残にも、邪悪な先祖の鎖に繋がれているそうです。
 したがって、浄火神殿は有益な機会を提供しました。テンプラーとコンフェッサーは、試罪と矯正の儀式を行います。それによって、悪のそそがれたシェイドを浄化し、ヒトの罪を除去できるそうです。しばしば浄火神殿のコンフェッサーたちは、シェイドを治療し、ヒトの仲間に戻そうと配慮します。多くのシェイドが、浄火神殿の地下室に連れていかれましたが、治療に成功した事例は、今までに一度も報告されていません。
 私自身は、この理論が完全な間違いだと感じています。とはいえ、私があらゆる宗教組織に疑問をたずねたとき、シェイドの起源と性質について明言したのは、浄火神殿だけでした。どうやら、浄火神殿の信奉する天使たちは、このことに関して少しも迷いがないようです。

 

 私にとって神学は専門外であるため、さきほど挙げた理論の正否を、宗教的な視点から判断することはできません。ですが私のすばらしい同僚たちは、この問題に光を投じられます。今私たちは、別の説をもつ最後の集団について、話を移しましょう。
 多くの学者とメイジ、さらに理事の蒼白学者ネルレリクト氏のことです。彼らの考えによると、シェイドは、天変地異を原因とする変化の産物であり、まったく自然的なものです。天変地異による影響は、まだすべてが解明されていないので、この主張が正しい答えになるかはわからないですが。

 

 彼らを自然的なものと最初にとみなした人物は、タリポントル人の自由都市に駐在する智者、解剖学者カサンドラでした。
 カサンドラ氏は広範囲にわたる研究を行いました。そして彼女は、胎児の父親が死亡と復活を経験したときに、高い確率で子供がシェイドになることを、発見したのです。なお、妊娠中の母親が死亡した場合、子供は例外なくシェイドに変化したそうです。変化の経過は今も解明されていません。しかしカサンドラ氏の発見は、死がシェイドを生み出す、確実な原因とはならない可能性を示唆しました。とはいえ、シェイドの生まれる兆候は、今も謎に包まれています。
 カサンドラ氏の業績は、正体不明の生物を理解するための、大きな柱となり、私の研究すべてに発想を与えてくれました。

 

 結論として、私たちが確実に言えるのは、シェイドが存在することならびに、彼らの人数が増加しつづけていることです。シェイドを自分の種族と区別する人びとに、反対する者たちがいました。しかし私たちは、地界に住む、それ以外の人びとがシェイドに対し、どのような反応を示したのか、思い出さなければなりません。
 天変地異が起きたあと、生命の樹が出現するまで、シェイドを見た一般人は震えあがりました。そして彼らは、遭遇したシェイドをとまどうことなく暴行し、火にかけるか排斥しました。あらゆる種族のメイジたちは、シェイドの生態を解き明かそうとして、生体実験で彼らを痛めつけ、重い苦痛を与えました。
 これらの拷問を受けながら生きたシェイドは、仲間であるヒトに対し、当然ながら心を許しませんでした。シェイドははみだしものとして生活するか、もしくは、自分たちだけの共同体を好みます。数多くの都市と避難地区では、シェイドたちだけが暮らす、いわゆる青白い区域が生まれました。住民たちはそこに踏み入ることを恐れ、とりわけ夜には近づきません。

 

 シェイドは、一世紀近くのあいだ崩壊地界をさまよい、彼らの歴史と呼べるものはもちません。しかし、特別に優れた数少ないシェイドは、土地と人びとの歴史に跡を残しました。
 まず挙げられるのは、カトゥルスと彼の仲間で、不可知女とも呼ばれるアサシン、シャールドニーのラマーラでしょう。彼女は、地界で最高のアサシンだと信じられています。この不可知女は、政治的な理由で活動しているともいわれています。諸破片王国の未来は、軍閥総統たちの剣と同じように、彼女の短刀が決めるのかもしれません。
 軍閥総統の一人に、ヘドリック・ゲスタールという名前のシェイドがいます。彼は、普通のヒトである双子の兄弟を打ち破り、ゲスタール家の当主になりました。この争闘時代で、クラレンムーアの白面当主は、後継者を必要としていません。そして彼は、どのような役割を演じるのでしょうか。
 見てのとおりシェイドたちは、王冠競技に加わる用意ができていて、立場を固める決心をしました。今から一世紀も経てば、シェイドは地界に居場所を確立し、自分たちの歴史をもっていることでしょう。そうなると、彼らの起源に関する問題は、関心をもたれなくなるのかもしれません。

 

 ここで、私の講演を終わります。覚書をとりたい方たちは、私の資料から自由に参照してください。来年の講演までには、さらに多くの論文を書くつもりです。研究会会員の皆さまから、ご支援をたまわりましたことに、あつく感謝を申しあげます。

 

(聴衆の拍手)

 

用語一覧

 

《あ》:アエアインス(Aerynth)、悪魔(Demon)、アサシン(Assassin)、アルダン(Ardan)、アルダン国(Ardan)、暗影軍団(Unholy Legion)、暗影戦役(War of Shadows)、アンギルロール[青呪術師](Angillor the Blue)
《う》:ヴァンパイア(Vampyre)、ウィザード(Wizard)、ウェスペル[識者](Vesper the Erudite)、宇宙(Universe)、運命(Destiny)
《お》:王冠競技(Game of Crowns)

 

《か》:骸布兄弟団(Brotherhood of the Shroud)、カサンドラ[解剖学者](Cassandra the Anatomist)、カトゥルス(Katullus)、神(God)
《き》:キエラヴェン(Kierhaven)、貴族家門(Noble House)、矯正(Correction)
《く》:クラレンムーア(Krallenmoor)、クルルヴォ(Kurrvo)、軍閥総統(Warlord)
《け》:ゲスタール家(House Gesterl)、賢者(Wise)
《こ》:高位審問官(High Inquisitor)、高級研究会(High Collegium)、高等種族(Highborn)、酷寒戦役(War of Frost)、コンフェッサー(Confessor)

 

《さ》:災禍戦役(War of the Scourge)
《し》:シェイド(Shade)、試罪(Ordeal)、死産児(Stillborn)、死者の主(Grey Lord)、死滅(Death)、ジャイアント(Giant)、自由都市(Free City)、主教(Bishop)、呪術結社(Conclave)、浄火神殿(Temple of the Cleansing Flame)、審問院(Temple)、神秘学者(Arcane Scholar)、神秘結社(Arcane Conclave)、真理(Wisdom)
《す》:枢機卿(Cardinal)
《せ》:聖都(Holy City)、生命の樹(Tree of Life)、聖令状(Holy Writ)、全父(All-Father)、全父教会(Church of the All-Father / Holy Church)、全父の子供(All-Father's Children)
《そ》:総主教(Patriarch)、争闘時代(Age of Strife)

 

《た》:ダールヘレグア人(Dar Khelegur)、タリポントル人(Tariponto)、ダルゴス[聖都](Holy City of Dalgoth)
《ち》:地界(World)、智者(Magus)、知性(Intelligence)
《て》:ティターン(Titan)、天使(Archon)、テンプラー(Templar)、天変地異(Turning)
《と》:都市(City)

 

《に》:肉体(Flesh)
《ね》:ネクロマンシー術(Necromancy)、ネルレリクト[蒼白学者](Knellerict the Pale)

 

《は》:白面当主(Pale Prince)、破片王国(Petty Kingdom)
《ひ》:ヒーラー(Healer)、ビエタ・ルクレティア[イブンフォードの](Beata Lucretia of Evenford)、ヒト(Human)、秘匿宮廷(Hidden Court)、避難地区(Safehold)、昼中時代(Age of Days)
《ふ》:フェリストール・オブ・メリッサル(Fellistor of Mellisar)、不可知女(Faceless One)、不死者(Undead)、プレレイト(Prelate)、ブレンダル・コランティス(Brendar Kolanthis)
《へ》: ヘグラニモウス・ダルト(Hegrannimous Dalt)、ヘドリック・ゲスタール(Hedrick Gesterl)
《ほ》:崩壊地界(Sundered World)、北方(North)

 

《ま》:魔女(Witch)、マローン(Malorn)
《む》:無魂人(Soulless One)
《め》:冥界(Shadow Outside, Void)、メイジ(Mage)

 

《や》:闇子(Darkborn)

 

《ら》:ラマーラ[シャールドニーの](Sharledney of Ramarra)
《り》:理事(High Magus)、リッチ(Lich)、リッチ王(Lich Lord)
《る》:ルマンドーン[長老](Rummandorn the Elder)
《れ》:霊魂(Spirit)、霊性(Spirit)