本ブログは、日本国内においても高い人気を博した、米国産MMORPGである『シャドウベイン』(Shadoabane)がもつ、舞台設定の翻訳と関連資料の保管を目的としています。『シャドウベイン』の紹介にあたり、本稿ではMMORPGの概要、当時の世相、ゲームの設計について説明します。
『シャドウベイン』とは、米国テキサス州オースティン市にかつて存在した、Wolfpack Studios株式会社が4年の歳月をかけて開発したソフトウェアです。
MMORPGとは、「Massively Multiplayer Online Role-Playing Game(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム)」の略称であり、日本語では「大規模多人数同時参加型オンラインRPG」と訳されます。 従来のRPGとの最大の違いは、「一つの仮想世界に、数百人から数千人以上のプレイヤーが同時に接続して遊ぶ」という点にあります。
日本では、実業家として知られるホリエモンこと堀江貴文氏が共同設立し、後に代表取締役社長を務めた株式会社ライブドア(旧名:有限会社オン・ザ・エッヂ、エッジ株式会社)が、『シャドウベイン』における、日本国内の独占的な販売権および運営権を取得しました。同社は、ソフト本体を日本語化してパッケージ版を販売し、2003年6月から月額制のライブサービスを提供しました。
しかし、アジア各国における、使用許諾、運用、管理などの関連業務を一括して行っていた、香港の株式会社En-Tranz Entertainmentが破綻したことにより、惜しまれつつも『シャドウベイン』の国内サービスは2004年7月末に中止されました。
IT革命の幕開けとして、1995年にWindows 95が発売されると、一般家庭にパソコンとインターネットが普及し始め、続いて、ADSLなどの「常時接続・定額制」の通信環境が整いました。インターネットを見る人が増えたことにより、広告、電子商取引、ゲームといった「ネット上の経済圏」が初めて現実的になったのです。
2000年代初頭は、iモードの爆発的普及や2ちゃんねるの台頭に見られるように、文章を基底とするインターネット上の交流が、爆発的な熱量をもっていた時期でした。
現実の肩書きを脱ぎ捨て、ハンドルネームという新しい皮を被り、見知らぬ誰かと繋がる。その究極的な到達点が、図画的な仮想世界としてのMMORPGでした。それは単なるゲームではなく、「ログアウトするまで終わらない、もうひとつの人生」そのものであったのです。
MMORPGの原点にして頂点とも称され、日本では1997年10月からサービスが開始された『ウルティマオンライン』は、まさに仮想世界での生活を実現していました。
戦士、僧侶、魔法使いなどの冒険者から、服屋、大工、鍛冶屋、パン屋などの製造者、さらに、泥棒や殺人鬼まで、ありとあらゆる職業をロールプレイすることが可能でした。 しかし、『ウルティマオンライン』はあくまでも世界ないし社会の模擬実験であり、牧歌的な暮らしの雰囲気を漂わせてもいました。
その『ウルティマオンライン』の自由度を「闘争」と「政治」という形に純化させ、2000年代初頭の熱心なゲーマーたちを夢中にさせたのが『シャドウベイン』です。
『ウルティマオンライン』が「生活」なら、『シャドウベイン』は「生存と征服」でした。『シャドウベイン』を今なお称揚せずにはいられない理由は、その徹底した設計にあります。
- プレイヤーによる世界構築:運営が用意した街ではなく、プレイヤーギルドが自分たちの街と城を築き、法律を定め、経済を回しました。
- 真の意味での政治:同盟、裏切り、スパイ活動。画面の向こう側にいるのはAIではなく、明確な意志を持った人間であり、その策略一つで一夜にして一つの勢力が滅びる。この緊張感は、現代のどの対人戦ゲームも到達できていない領域です。
- 失う恐怖が生む物語:敗北すれば街と城は灰に帰し、積み上げた富は略奪される。その過酷さがあったからこそ、勝利の美酒は格別であり、仲間との絆は血よりも濃いものとなりました。
プレイヤーたちへ用意された『シャドウベイン』の舞台は、大災害によって陸地が引き裂かれ、秩序が失われた後から100年近くが経った、剣と魔法で争う中世の仮想世界です。一定の復興は果たされましたが、主たちを失った広大な荒野は今や誰のものでもありません。
空白地帯を埋めるのはプレイヤーたち自身です。あなたは砕け散った世界を再び統一する覇者となるのか、それとも混乱を加速させる破壊者となるのか。闘争の果てに待つのは、あなたの手で築かれる新しい支配の歴史です。