シャドウベインの背景世界

MMORPG、Shadowbaneがもつ舞台設定の翻訳

Brother Abelon the Fallen (アベロン兄[落命僧])

 引き返せ。あなたじしんの魂を大事にするならば、この荒廃した土地に入るな。この土地でわたしは死に、さらに悲惨な目にあった。すべての希望は失われ、暗影はすべてを消費するだろう。この土地をかき混ぜている闇の力を、あなたは理解できない。冥后に用心しろ。冥后の危険な手先たちにも用心しろ。
 世界へ警告しようとしたが、無駄だった。現在では、わたしたちの全員が破滅を定められ、全父がもつ大きな秘密は、全員に死をもたらすだろう。ヌルは、すべての肉、ならびに、すべての光とすべての暖気を、消費するだろう。手遅れになるまえに、この土地から引き返せ。

あなたは誰ですか。

 わたしが何者なのか知りたいのだな。わたしは、死のなかで生きることを定められた、残酷な悲運の担保である、哀れな人物だ。わたしが生きているのは、わたしが大切にする者たちの死、ならびに、わたしの信仰が崩壊するのを、見るためだ。
 昔におけるわたしの名前は、アベロン・オブ・メルヴァントであり、全父教会における高位の役職に就いていた。わたしは、無名である恐怖の噂を求めて、キングスクロス市からカエルウィント修道院へ行った。わたしは凄惨な現場を発見した。虐殺と俗悪な冒涜だ。わたしたちは、犯人たちを追って、大トイルランス大陸を横断し、ルーン門での事故を経て、この島へ意図せずに着いた。

 死者たちがわたしたちに向かって来た。わたしたちの全員にだ。わたしたちは誰も耐えられなかった。初めは、わたしたちは殺されなかった。わたしは生かされた。なぜなら、死ぬことによって、わたしがキングスクロス市へ送還されて、世界へ警告することを、死者たちが恐れたからだ。
 わたしは、どれだけのあいだ、自分が暗闇のなかにいたのかわからない。拷問されたうえに、ヴァンパイアたちの血液を飲ませられたのは、わたしの口を割るためだった。バエルゴールじしんがわたしを痛めつけて、わたしの信仰を嘲笑し、かれは話をしてきた。おぞましい話をだ。
 バエルゴールは話してきた。往古のアルダン領国に大損害をあたえた、暗影戦争における、真の原因を。さらに、無名人祖によって作成され、空腹冥界を遠ざけた、奥義的な複数の罠についてを。バエルゴールは話してきた。イスリアナが、裏切りでシャドウベインを獲得したときに、かの女に何が起きたのかを。さらに、かの女の諸領地が、どのように、ほんとうに暗影の下へ落下したのかを。バエルゴールは話してきた。銀の乙女であるイスリアナが、どのように冥后へ変化したのかを。

 冥后じしんが、かの女の暗い諸呪術でわたしを殺害した。冥后は、わたしの魂を、かの女のおぞましい呪文へ供給して、この荒廃した領地を、アエアインスの地表へ帰着させた。捕らえられて死んだ現在のわたしは、ほんとうの死を迎えられない状態であり、虚無の勝利に対する無言の目撃者だ。

父の秘密とは何ですか。

 破滅だ。アルダン領国を飲みこんだ破滅は、暗黒期および暗影戦争を解き放ち、パンダリオーン神を打ち負かした。虚無は、長いあいだ御父がわたしたちに隠していた、秘密だった。しかし、現在ではそれが明らかにされた。ヌルが住む、空腹である冥界こと虚無は、ドラゴンそのものと同程度に強く恐ろしく、同神敵の火がもつ熱さと同程度に、冷たい。
 五千年のあいだ、哲学者たちは宇宙に注目して、秩序と混沌だけを見ていた。しかし、かれらは欺かれていた。虚無が待っていたのだ。虚無がわたしたちの全員を待っていたのだ。

 時間が、冥界の飢えを、初めてアエアインスへ引き寄せた。全父が太陽を動かすために始動させた、時間は、御父が犯した最大の失敗を帳消しにした。虚無が目ざめた昔に、エルフたちは闇を手なづけようとし、アルダン領国のヒトたちは闇を遠ざけた。全父でさえ闇を止めることはできなかった。御父は闇と休戦を結んだが、それは大転換で終了した。
 現在では宇宙の均衡が崩れ、暗黒期に希望を与えてくれた、生命の樹の複数が、世界と冥界の中間にある障壁にかじりついている。そして、樹が保存している全部の魂で、障壁を弱化させているのだ。なぜ、わたしたちは、これほどまでに欺かれていたのか。

 シェイドたちは破滅の前兆にすぎなかった。冥界は、シェイドたちの目をとおして外部を視認し、かれらの青白い手で、暗い構造を作りあげた。わたしは、怪物たちがこの荒地に建てた冥界門を、目撃した。わたしは、冥后ことイスリアナを見た。イスリアナは生きていたのだ。
 シャドウベインによる噛みつきでさえ、イスリアナを倒せなかった。わたしは、イスリアナの青ざめた仮面の下にあるものを、見た。破滅だ。破滅があった。誰も虚無の力には耐えられない。諸神はわたしたちを見捨てたのだ。今すぐに引き返し、最期までの慰めをみつけろ。
 もしくは、義務があるなら、暗い塔の中にいて、同建物の所有者でもある、冥后を探せ。イスリアナはおまえに微笑みかけて、おまえの諸魂を完全にむさぼるだろう。そうなれば、おまえは、大切にしているものが壊される光景を見ながら、わたしのような悲運を免れるだろう。

会話を終える。

 

用語一覧

《あ》:アエアインス(Aerynth)、アベロン兄[被害僧](Brother Abelon the Fallen)、アベロン・オブ・メルヴァント(Abelon of Melvaunt)、アルダン領国(Ardan)、暗影(Shadow)、暗影戦争(War of Shadows)、暗黒期(Dark Years)
《い》:イスリアナ(Ithriana)
《う》:ヴァンパイア(Vampire)、宇宙(Universe
《え》:エルフ(Elf)

《か》:カエルウィント修道院(Abbey of Caerwynt)、神(God)
《き》:虚無(Oblivion)、キングスクロス市(King's Cross)
《く》:空腹冥界(Hungry Void)
《こ》:混沌(Chaos)

《し》:シェイド(Shade)、時間(Time)、シャドウベイン(Shadowbane)
《せ》:生命の樹(Tree of Life)、全父(All-Father)、全父教会(Holy Church)

《た》:大転換(Turning)、大トイルランス大陸(Tyrranth Major)、太陽(Sun)
《ち》:秩序(Law)
《と》:ドラゴン(Dragon)

《ぬ》:ヌル(Null)

《は》:バエルゴール(Baelgor)、パンダリオーン(Pandarrion)
《ひ》:光(Light)、ヒト(Man)

《む》:無名人祖(Nameless Titan)
《め》:冥界(Void)、冥后(Lich-Queen

《や》:闇(Dark)

《る》:ルーン門(Runegate)