シャドウベインの背景世界

MMORPG、Shadowbaneがもつ舞台設定の翻訳

ストリゴイの体験記(Strigoi Narrative)

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 吸血ヒルよ、おまえは闇を食べた。そして、闇はおまえを食べた。そのとおりだ。おまえは強く美しい。だが、だまされるな。大吸血鬼たちはおまえのことを、大いなる運命に選ばれた、高貴な種族だというだろう。ほらふきどもめ。あの愚か者たちは、生きる理由をみつけるために、自分に嘘をついてまで信仰を捏造した。
 おまえは高貴な存在ではないし、死の半神半人でもない。おまえはわたしと同じだ。寄生しながら生きる、あまりにも邪悪な吸血ヒル。いつ死ぬかもわかっていない。おまえはわたしと変わらない。おまえはヴァンパイアだ。それを忘れるな。意味がわからないようだな。わたしの言っていることは、他のヴァンパイアと違うからな。どうやら、おまえは事実を知らないようだ。
 わたしは四つめの血族、ストリゴイの一人だ。ヴァンパイアたちは、わたしたちのことを猛獣とよぶ。だが、その呼び名はわたしたちにとって、あまりにも立派すぎる。わたしたちは、死肉を食らう腐った獣にすぎない。
 ヴァンパイアのなかでストリゴイだけが、わたしたちの種族がおかれた、本当の状況を把握している。数千年まえ、ストラエグリンドさまがわたしたちに与えた知識は、今も受け継がれているのだ。

 

 もちろん、わたしはわたしとおまえの内側には、死滅能があることを知っている。この闇はわたしたちの魂を、餌食である羊たちに比べて、はるかに強力なものにしてくれている。
 他のヴァンパイアたちによるおとぎ話では、ネクロマンシー術術と冥界がたたえられているが、事実は伝えていない。失敗した呪術が冥界の興味を引いて、それを飢えさせたことにより、わたしたちの種族は生まれた。そして現代では、すべての生物が、別の大きな問題によってゆがんだ。天変地異はそれらに永遠のもたらした。
 温かく血のかよう羊たちは、わたしたちと変わらない。彼らはすでに死んでいるが、それを認められない。ベルゴスチとゴルゴイに事実を言ってみろ。彼らは、おまえの内臓を食べてしまうだろう。彼らは怒るとともに恐れる。ストリゴイの言葉が事実であることを、知っているからだ。
 ベルゴスチとゴルゴイの言葉にはうんざりしたか。ならば、わたしの話を聞け。わたしは嘘をつかないからな。

 

 わたしたちストリゴイは何者なのか。わたしたちの全員が、大吸血鬼たちの言葉を信じない闇夜霊といえる。ストラエグリンドさまが最初に反旗をひるがえし、わたしたちに道を示した。
 ストラエグリンドさまがまだアルフボーンとして生きていたころ、彼女は呼吸をおこない、汗をかく生き物だった。そして、彼女は他の交雑児たちと同様に、狂気をはらんでいた。ストラエグリンドさまは反骨的な人物であり、両親であるエルフとヒトがもつ、どちらの生き方も選ばなかった。伝承によると、ストラエグリンドさまは原生林で、荒あらしく自由きままな獣のように暮らした。
 災厄戦役で、魔界の軍勢がアエアインスの全土にはびこったとき、ストラエグリンドさまは、逃げることなく立ち向かった。そして、彼女の目に宿る闘志は、高位の悪魔にさえ関心をもたせた。悪魔は、気まぐれでストラエグリンドさまにとどめをささず、軍勢の一員として奉仕させるために、彼女を勧誘した。ストラエグリンドさまは、喜んで提案を受けいれた。
 ストラエグリンドさまは、アルフボーンである彼女を拒絶し、虐げてきたエルフたちに対し、何百倍もの報復をおこなった。エルフの隠れ家をつぎつぎと暴き、悪魔の軍勢に襲わせたのだ。ストラエグリンドさまは、褒美として高貴なエルフの遺体をいくつも与えられた。そして、彼女はそれらの肉を食べ、温かい血をぶどう酒のように飲んだ。
 ストラエグリンドさまの、同族と世界人類に対する犯罪行為は残虐を極めており、そのためからか、彼女は楽に死ねなかった。当時の呪縛は本来の威力をもっていたため、混血はストラエグリンドさまに死をもたらした。
 しかし、その死は始まりにすぎなかった。以前のヴァンパイアたちと同様に、冥界はストラエグリンドさまの魂を手にいれ、彼女の肉体に力を注いだ。ストラエグリンドさまは、邪悪そのものである不死者、ヴァンパイアとしてよみがえったのだ。
 他の諸血族は、彼らの始祖が冥界に触れたときに、すばらしい知識を獲得したとほのめかすだろう。しかし、そんなものはどこにもない。ストラエグリンドさまは、他の大吸血鬼たちが気づかなかった事実を目撃した。だから、わたしたちストリゴイは、秘密の知識など受け継いでいない。もしも、聞き耳を立てているヴァンパイアがいるなら、大声でそれを言ってやろう。
 おまえも知りたいのか。では話そう。覚えておけ。わたしたちはただの不死者にすぎない。

 

 ストラエグリンドさまは、バエルゴールによる呼びかけを聞いて、大吸血鬼たちが、影のなかで隠れている場所へ向かった。そこで彼らは、災厄戦役を観察しながら、壮大な陰謀を張りめぐらしていた。大吸血鬼たちはストラエグリンドさまを、血族のひとつに引きいれようとしたが、彼女は興味をもたなかった。
 ストラエグリンドさまは大吸血鬼たちの傲慢さを笑い、彼らの高等な目的をばかにした。ストラエグリンドさまは大吸血鬼たちに背を向け、小数の賛同者たちを連れて、戦争で荒廃した地界へ帰った。ストリゴイの中核をなした少数の賛同者たちは、彼らを引き連れる、半狂乱の獣から多くのことを学んだ。
 わたしたちとともに狩りを始めよう。わたしは、わたしたちのもつ技術をすべて教えられる。おまえの内側にある怒りを解き放てば、血液は火のように燃えあがり、目に止まらない速さで、爪をふるえるようになる。自分が、ただの死人にすぎないことを忘れるな。おまえの感覚は鋭いから、死んだばかりの新鮮な肉体を嗅ぎつけ、みつけることができる。
 仲間に加わり、他にある三つの血族に背を向けろ。彼らの嘘に毒されるな。わたしたちには、崇高な目的も大いなる運命もない。わたしたちは生者を食べるように呪われた、ただの死者にすぎない。それを忘れるな。
 これらの質問に答えてみろ。他の大吸血鬼たちの掲げる、大いなる目的が実現したとき、わたしたちはどうなるのか。はたして、わたしたちは闇に選ばれた貴族なのか。すべての生物が死に、それらの血液が冷えてしまったら、わたしたちは何をむさぼればよいのだろうか。まちがいなく、わたしたちは同族どうしで食べあうだろう。
 おまえは、わたしたちに父と母とよばれる夜が、わたしたちの仕事がおわったときに、本当に報酬をくれると思っているのか。将来わたしたちが餌食にされるのなら、むしろ幸運といえる。いづれにせよ、待つのは飽きた。このしおれた地界は、百年まえに終わるべきだったのだ。いっそのこと、わたしたちで地界を殺し、飢渇を終わらせよう。そうすれば、わたしたちは本当に死ぬことができる。

 

用語一覧

 

《あ》:アエアインス(Aerynth)、悪魔(Demon)、アルフボーン(Aelfborn)
《う》:ヴァンパイア(Vampire)運命(Destiny)
《え》:エルフ(Elves)

 

《こ》:交雑児(Half-breed)、ゴルゴイ(Gorgoi)

 

《さ》:災厄戦役(War of the Scourge)
《し》:呪縛(Curse)
《す》:ストリゴイ(Strigoi)
《せ》:世界人類(Children of World)

《た》:大吸血鬼(Elder)


《ち》:地界(World)
《て》:天変地異(Turning)

 

《ね》:ネクロマンシー術(Necromancy)

 

《は》:バエルゴール(Baelgor)、半神半人(Demigod)
《ひ》:火(Flame)、ヒト(Human)
《ふ》:不死者(Undead)
《へ》:ベルゴスチ(Belgosch)

 

《ま》:魔界(Chaos)
《め》:冥界(Void)

 

《や》:闇(Darkness)、闇夜霊(Nightborn)