シャドウベインの背景世界

MMORPG、Shadowbaneがもつ舞台設定の翻訳

ドラノクの体験記(Drannok Narrative)

f:id:AzuhikoDaidaiboshi:20160724190302j:plain

 おまえは自分が何に変わったのか、本当に理解したのか。答えるまえに、じっくり考えてみろ。おまえはヴァンパイアだ。つまり夜の子供であり、闇に選ばれた者でもある。それらは事実だ。だが、おまえはまだ答えていない。おまえは何者か。さあ、答えてみろ。
 そのとおりだ。おまえは人殺しだ。おまえは夜の闇に潜む肉食獣であり、生きるために殺す。おまえは強いうえに不死身であり、不死の極致を体現している。だが、おまえは食事をしなければならない。

 

 飢渇はわたしたちを苦しめてきた。生者だけでなく脆弱な闇夜霊たちでさえも、これを呪いと呼ぶ。彼らは愚かだ。だが、わたしたちドラノクはそのように考えない。飢渇は弱みでもなく呪いでもない。これは、わたしたちの母であり父でもある、闇の与えてくれた最高の贈り物だ。
 ヴァンパイアの全員が、冥界に選ばれた人殺しとして、虚無の先兵を務めている。飢渇はわたしたちに決意を固めさせ、わたしたちが何者なのかを意識させる。それは、わたしたちが猛獣であるということだ。わたしたちは、気が向いたときにためらいなく殺す。生者たちの土地で拠点を築き、狼や獅子として、羊の上に君臨する。
 ドラノクたちは闇夜の支配者であり、死の戦士でもある。わたしたちは三番目に生まれたヴァンパイア、ドランゴルさまのことを知っている。冥界の餌食になったときに、彼は学んだ。おまえに背負う資質があるのなら、それを教えてやろう。

 

 おまえはドランゴルという名前に、奇妙な印象をもっただろう。では、偉大なる物語を聞くがよい。数千年まえまで、ドランゴルさまはヒトとして生きていた。ドランゴルさまの背中には、エルフから受けた傷がいくつもあった。なぜなら、当時のヒトは不滅帝国の奴隷として、全員が働かされていたからである。
 ドランゴルさまの主人たちは、彼に呪術をかけることで、角のある動物に変容させて、労働でさらに役立たせようとした。しかし、その努力は無駄になった。ドランゴルさまの強い意志が、呪術を跳ねのけたからである。そして、反乱をおこした奴隷たちは、ドランゴルさまが正気を失うまえに、彼を逃がした。ひとたび、ドランゴルさまを拘束していた鎖が壊れると、彼は一人で二十人のように戦った。主人たちの建物から出ていく道は、死体だらけになったという。
 ドランゴルさまは、反乱軍の指導者たちと合流した。のちに彼は、脱走した奴隷たちが、二番目となるヒトの王国を建てるときに、彼らを助けたそうだ。なお、その国家の名前は歴史から失われている。ドランゴルさまは武将として王国に仕え、多くの名誉を獲得した。

 

 ドラエセンを顧問とする初代国王は、人びとが身を潜めたまま、エルフへの恨みを忘れるべきだと布告した。しかし、ドランゴルさまはそれに従わなかった。ドランゴルさまは、涙を流しながらこう言った。仲間たちとおれの子供たち、さらに、おれじしんが受けたひどい仕打ちを、どうして忘れられるだろうか。
 ドランゴルさまは王国を去ったあと、彼を慕う者たちと集団を組織し、不滅帝国への抵抗を始めた。ドランゴルさまたちは、狼のように激しく戦い、戦闘のあとはすばやく原生林に隠れた。そして、ドランゴルさまは狼を紋章に定めた。彼は、以前までヒトを奴隷にしていたエルフたちに対し、恐怖を植えつけるためならどんな方法でもとった。
 ドランゴルさまは殺害されたばかりのエルフを食べ、自分の顔には、彼らの血で戦化粧をして、多くの戦場を駆けまわった。伝承によると、ドランゴルさまが帝国の片隅でみせた残虐さは、エルフの非道ぶりをも上まわったそうだ。
 のちにドランゴルさまを捕らえたエルフたちは、彼に壮絶な虐待をくわえて殺害した。そのころドランゴルさまの名前は、彼の後にした王国でさえ恐れられていたという。

 

 こうして、エルフはドランゴルさまを殺した。血まみれの狼は、観衆のまえで見世物として痛めつけられ、死んだのだ。この勝利によって、エルフたちを破滅させる種がまかれたのだが、彼らはそれに気がついていなかった。ドランゴルさまの遺体は、ひそかに持ち去られたのだから。
 二人目に生まれたヴァンパイアであり、ベルゴスチの父でもある人物、バエルゴールは影のなかで潜んでいた。かつての同族から命を狙われていた彼は、身を隠していたのだ。バエルゴールは、ドランゴルさまがエルフたちに対し、残虐行為をはたらく場面を何度も見た。そして、彼が見たものは闇もすべて見ていた。
 ドランゴルさまの魂が彼の体から去ったとき、それはソウルストーンのところへは行かず、闇の餌食になった。そして三日後の夜に、ドランゴルさまの体は起きあがり、彼はヴァンパイアに生まれ変わった。バエルゴールは、変容したばかりの戦士に声をかけ、虚無能を到来させるための、大いなる仕事の援助を求めた。その成果は、最近になって表れたのだ。大吸血鬼たちは数千年も待ちつづけたあと、自分たちのときと同じように、新しい闇夜霊たちを引き寄せた。
 いつしか、ドランゴルさまはバエルゴールにならい、自分の血族を立ちあげた。生まれ変わりのさいに、彼が獲得した秘技を共有する、闇夜霊の集まりだ。それについては、おまえもすでに知っているだろう。

 

 ドランゴルさまの知恵が示すとおり、わたしたちの中には、強大な猛獣が潜んでいるのだ。

 

 死の間際でさえ、ドランゴルさまは猛獣の魅力を忘れなかった。おそらく、エルフの失敗した呪文は、彼の内側にいた獣を動かしたのだろう。しかし、ドランゴルさまが闇と合流したとき、猛獣は解き放たれた。
 飢渇をおまえで満たさせろ。そうすれば、おまえは冥界がわたしたちの種族に授けた、すばらしい恩恵を見つけ、それを発揮するだろう。お前の両目は狼の暗い飢えで輝き、敵を恐怖ですくみあがらせるだろう。猛獣の激しさは、おまえをさまたげる者たちの魂をたたきのめし、虚無能をそれらに触れさせるだろう。
 猛獣の力がおまえを満たすのと同様に、戦場でおまえに付き従う者たちは、残忍に敵を食らい、獣のように戦うだろう。そしてついに、夜の子供たちのなかで、わたしたちドラノクだけが、肉体硬化の深奥を学んだ。剣も槍も、おまえがもつ、石膏のように白い肌に損傷を与えられない。
 光と闇の最終戦争が、おぼろげに迫りつつある。決戦のとき、ドラノクは最前線に立ち、すべての生物に死をもたらすだろう。じきに、生者たちは猛獣と目を合わせ、わたしたちの強さを知ることになる。

 

用語一覧

 

《う》:ヴァンパイア(Vampire)

 

《き》:飢渇(Hunger)、虚無(Oblivion)、虚無能(Oblivion

 

《そ》:ソウルストーン(Soulstone)

 

《た》:大吸血鬼(Eldest Vampire)
《と》:ドラエセン(Draethen)、ドラノク(Drannok)、ドランゴル(Drangor)

 

《は》:バエルゴール(Baelgor)
《ひ》:光(Light)、ヒト(Humankind)、人の子(Son of Men)
《ふ》:不滅帝国(Deathless Empire
《へ》:ベルゴスチ(Belgosch)

 

《め》:冥界(Void)
《も》:猛獣(Beast

 

《や》:闇(Dark)、闇夜(Night)、闇夜霊(Nightborn)