シャドウベインの背景世界

惜しくもサービスが停止されたオンラインRPG、Shadowbaneに関する世界設定の翻訳

列王時代(Age of Kings)

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 遠い過去は、時間という霧に覆われている。だから、後ろへ戻るのは後回しにしておいて、まずは、視界が開けている時代から始めよう。ひとつまえの時代であり、暗い結末を迎える列王時代におきた、シャドウベインの三回目となる出現について、伝えることにする。
 人時代とも呼ばれるこの時代では、歴史の浅いヒトが最盛期を満喫し、かれらの十王国が堂どうと立ち並んでいた。徳の炎こと、上級王であるカンブリュワンも時代の象徴であり、かれは権力のためではなく、正義のために戦った。人達の子孫たちを統合したものは、カンブリュワンの道徳律と、かれに仕える勇士たちであった。
 栄華を極めた列王時代は、戦争の時代でもあった。カンブリュワンは、戦場を制して王冠を勝ち取った。その後は、長期にわたって、オークと北方人だけでなく、ジャイアントととさえも、血みどろの戦いを繰り広げた。しかし、これらの戦争は、悲涙戦争に比べれば、それほど深刻なものとはいえない。この壮絶な武力衝突は、上級王とかれの宿敵である妖人軍団の、双方を破滅させたのである。

 悲涙戦争は、カンブリュワンが王位を得るまえに、三度も猛威を振るった。その二十年間におきた偉業および悪業の数は膨大であり、何十巻にもおよぶ記録に残されている。
 ある人びとは、エルフたちの強烈な怒りを上級王国に招いたのは、カンブリュワンの愚かさだったと主張する。別の者たちは、エルフの王ことヴァルディマンソールを原因とみなす。カンブリュワンの壮麗な宮廷を見たときに、かれは、嫉妬と悪意を沸きあがらせたのかもしれない。託宣者たちおよび精霊たちこと呪文を操る両者が、エルフの王に恐ろしい預言をささやいたと、唱える者たちもいる。この説が正しければ、かれは、大転換をもたらすカンブリュワンの殺害を目的に、剣を振りあげ、血みどろの戦争を始めた。その悲惨な戦争は、全父の御心にもとづき、エルフたちへの罰としておこされたと、大勢の人びとが信じている。なぜなら、過去の諸時代におけるエルフたちは、大きな裏切りを重ねてきたためである。
 どれかが正しい答えなのかもしれないが、真実は誰にもわからない。その恐ろしい戦争を目撃した者たちのなかで、結末を見た者たちは非常に少なく、その多くが大転換によって死亡した。陰惨な闘争のなかで、逸話と年代記が大量に生まれたが、今回は紹介を省いておこう。
 ただし、カンブリュワンが、どのようにシャドウベインを手にいれたのかは、よく聞いて覚えてほしい。この剣は、諸王の剣、王生み、王殺しとも呼ばれたものである。そして、その物語は、カンブリュワン諸勇士のなかで最も高貴な人物と関係がある。元祖聖騎士ことカエリク・ブラックハマーは、単独で聖剣探索を成し遂げることになる。

カエリク・ブラックハマーの伝承
〈第二の聖剣探索〉

 カエリクは、小さな鍛冶屋を営むゴエリンの息子として生まれ、天使のもののような心および魂の、純粋な両者に恵まれた。かれは、幼少期を父親の工房で過ごし、終わりの見えない戦乱のために、武器を作りつづけていた。七歳の夏に、カエリクの人生は永遠に変わった。戦場へ向かって行軍していた、カンブリュワンとかれに仕える諸勇士を、村で目撃したためである。鎧で光り輝く戦士たちが、自分と同じヒトであることを知って、カエリクはとても喜んだ。そして、将来はかれらに加わると誓った。五年後に、カエリクは自分で鍛えた鎧を身に着け、鉄槌だけを武器として、王を探す旅に出た。
 カエリクは、道中で、傲慢な騎士ことロヴェンノル卿に出会った。この勇士は、従者が、両肩を王に剣で叩いてもらい、騎士になるためには、五十回の勝利が必要だという、冗談を言った。ロヴェンノルに促されたことによって、カエリクは、鉄槌と不屈の徳だけで、騎士および軍閥総統を五十人も打ち負かした。カエリクは、敗北させた騎士たちに約束を結ばせ、かれらはカンブリュワンがいる宮廷へ向かい、王であるかれに忠誠を誓った。
 五十人の敗北者を送ったあとに、ようやく、カエリクは、カレドルン王国にいるカンブリュワンのもとに着いた。カンブリュワンは、その場でカエリクを騎士に叙し、かれを勇士の一人に任命した。騎士になったカエリクは剣を取り、名誉および栄光を多量に帯びながら、王に仕えた。黒槌という、ロヴェンノル卿がカエリクにからかいで与えた姓は、大きな名誉をともなう称号になった。そして、カンブリュワンに仕える、最も勇敢な騎士たちの多くが、この少年を模範として努力をおこなった。

 カエリク・ブラックハマーは、カンブリュワンが上級王の地位に就いたときも、かれの側にいた。二十年ものあいだ、最も信頼を置かれる勇士として、王に仕えていたのである。カエリクは、武勇に優れていたために、上級王国の全土で有名になり、かれはたちまち伝説になった。手ごわい敵を相手にしても、カエリクは、戦闘および馬上槍試合で一度も負けなかった。なぜなら、かれが備える徳は、筋力と忍耐力の、天使がもつ無限の両者をもたらしたためである。
 しかし、カンブリュワンの治世は長くはつづかず、運勢はかれを苦しめた。上級王としておこなった統治の十年目に、沈静化していた悲涙戦争が、増幅させた激しさとともに再燃したためである。同年は、列王時代の一〇七六年目でもあった。
 二十年のあいだ、エルフの王ことヴァルディマンソールは機会を待ち、冷たい玉座に座りながら兵力を集結させていた。ヴァルディマンソールの術者たちは数か月の活動をおこない、強力な諸呪文を復元した。それは、エルフが作りあげた邪悪な創造物こと、北端に住むミノタウロスを、古代と同様に隷属させるものである。エルフの鍛冶屋たちによる見事な武具は、ヴァルディマンソールの軍団を無敵に近くした。
 ヴァルディマンソールは、かれの軍団を、突然に上級王国へ解き放ち、その猛攻はヒトの居住圏に衝撃を与えた。エルフ王の邪悪な軍事力に対しては、カンブリュワン諸勇士でさえも無力であった。しかも、巧妙な策略によって、カンブリュワンの権勢は傾かされた。妖術および裏切りがエルフたちの武器であり、上級王国は敗北を重ねた。カンブリュワンは事態が最悪になることを恐れ、周囲へどなり散らすようになった。人びとが苦しまされ、国土が荒廃したために、カンブリュワンは深い絶望に襲われた。呪術と知恵の、賢者ゼリスタンが用いる両者でさえ、閉塞した状況を打破できなかった。多くの騎士たちが辛辣になったが、カエリクは希望をもちつづけた。
 上級王としての統治における十五年目に、カンブリュワンは、メリッサール市で冬の宮廷を設置した。かれの騎士たちは、行軍と戦闘の、一年ちかい両者で疲弊していた。しかし、冬至における聖ローンの祝祭で、宮廷に大きな驚異がおきて、希望が生まれることになった。

 聖ローンの殉教日の前夜に、カンブリュワンと全員の勇士たちが会場で卓を囲んだが、かれらの表情は暗かった。宴会が静かに始まったときに、扉および窓の全部が、ひとりでに強い勢いで閉められた。そして、大暖炉の炎が消えて、会場は暗闇に包まれた。
 勇士たちは、奇襲および裏切りを恐れて立ちあがり、剣を抜いた。伝承によれば、このときの勇士たちは、天使たちがうたう歌のような、美しい音楽を聞いた。暗闇の中で強烈な光が発生し、カンブリュワンと勇士たちは目がくらんだ。少しずつ目を開けたかれらは、宙に浮いた剣の幻から、光があふれ出てきている光景を見た。この見事な剣の柄は金と白銀でできており、暗い色の刀身は不気味だった。剣の幻はカンブリュワンの頭上に現れたため、かれは誰よりも光を浴びた。そして、高貴かつ澄んだ声が、音楽を背景に聞こえてきた。

「全父の御心たる王よ、ヒトの滅び迫るとも嘆くまじ。国土に災難受けたるも、汝らが影に抗う手段は無し。されど闇秘むる光の輝きいづこにあり。白刃を見よ、ここに示すは死の影と時間の彼方に落ちき運命の剣、シャドウベイン。築きしものの守り望みなば、剣の獲得をはかれ。帰したシャドウベインは地界に希望を与え、敵皆打ち滅ぼさん。
 だが侮ることなかれ、剣ははるか遠くにありて道は暗く進み難し。至るは死すれども生きる者たちの土地、されど戻る人物はかつて有らざりき。類まれな兵士が探索に赴くがよし、勇と徳なくば必ず命終の来るゆえ」

 幻が少しずつ薄らいで消えたあとに、強風が会場の全体に吹き荒れて、複数の窓が元通りに開き、暖炉の炎はふたたび燃え始めた。幻を目撃して気分が高揚したカンブリュワンは、勇士たちに対して、探求の際につき従うか尋ねた。勇士たちの全員がカンブリュワンの要求に応じときに、北風のような古くて力強い声が響いた。
「お聞きください、陛下」。カンブリュワンの相談役を務める老人こと、ゼリスタンは言った。「上級王国の全体が、エルフの諸軍団から激しい攻撃を受けています。決戦を控えた今に陛下が遠乗りをおこなうことは、望ましくないかと存じます」
 カンブリュワンは不本意ながら忠告を受けいれ、かれの名の下に、探索を決意した勇士たちが出立することには、許可を出した。勇士たちの全員が剣を掲げ、先ほどと同じように、誰一人の例外なく探索を誓ったが、ゼリスタンは妨げた。
「高貴な勇士たちよ、早まるな。シャドウベインという剣には不吉な話がある。ひとつ前の時代に、シャドウベインには強力な呪いがかけられた。男であろうと女であろうと、シャドウベインを携える者は、その刃により命を落とすであろう。探索の失敗は死を意味する。よく考えよ。
 陛下のお側にとどまって戦うことは、決して不名誉ではない。なぜなら、陛下の御身にもしもの事があれば、シャドウベインの探索じたいが意味をなくすからだ」
 ゼリスタンの重たい言葉を聞いて、多くの勇士たちが掲げていた剣を降ろし、探求を断念した。しかし、三度にわたり、三度とも立ちつづけた勇士たちがいた。不屈騎士ゲリアント卿、マーディオック・ワイアームスレイヤー卿、ロヴェンノル・オブ・アルヴァエティア卿。名前および栄誉が劣る五人の勇士たち。最後の九人目はカエリクであり、かれはカンブリュワンの前にひざまずいて、剣の探索で国を離れるための、許しを請うた。
「そちが行くのは寂しい。余の王国は、そちの助けがあって完成したものだ」とカンブリュワンは言った。「だが、余は喜んでそちを送り出そう。探索を成し遂げる者がいるとすれば、それはそちだけであろうからな」
「すべては全父の御心のままに」とカエリクは答え、長い旅の準備を始めた。

 こうして、カンブリュワンに仕える最高の騎士たちこと、九勇士たちは、馬を駆って聖剣探索へ乗り出した。長い探索からは複数の物語が生まれ、それらの多くには、恐ろしさと輝かしさの両者が伝えられている。探索者たちの諸行為は、現代の暗い世の中においてさえも、すべての人びとに知られている。
 しかし、一人を除いて、旅立った勇士たちの全員が失敗した。かれらのなかには、心が折れてカンブリュワンの側へ戻る者たちがいた。ジロワーズ卿とロヴェンノル卿を含む、数人の騎士たちは命を落とし、カンブリュワンはかれらの死を長く悔やんだ。
 失敗した勇士たちの物語については、別の機会に話すことにしよう。結局、カエリク・ブラックハマー卿だけが、長く厳しい複数の試練に耐えて、恐ろしい探索を終わらせることになる。かれが聖騎士になり、シャドウベインの獲得に成功するのである。

 旅路は長く困難なものであり、暗影軍団の冥后ことイスリアナが治める、死の霧の中に失われた、恐ろしい領地にまでつづいた。なぜなら、シャドウベインが同地に置かれていたためである。
 カエリクは地界の果てにまで馬を駆り、災厄戦争によって荒廃した土地を通過した。同地には、混沌から生まれた怪物たちが潜んでおり、カエリク卿の強さを厳しく試した。カエリクは三つの試練に耐えた。ひとつは、ムールヴェ城における力の試練であり、もうひとつは、苦難修道院における信仰の試練であった。忠誠の試練では、探索を継続するために、かれがもった最愛の恋人である、エロイーズの側を離れさせられた。
 ようやく、カエリクは、恐ろしい怪物たちが充満している、人達の子孫たちに知られていない暗い領地にまで、馬を進めた。この場所で、カエリクの馬上槍は壊れてしまい、かれの軍馬は殺害され、そのうえ剣は折られ、盾は裂けてしまった。カエリクは、迷いながらも長いあいだ荒地を放浪し、暗い霧がかれの体を覆う、暗影の土地に足を踏み入れた。
 この土地では、亡者たちがカエリクを待ち構えていた。かれらは、想像が難しいほどの怨念をともないながら、カエリクに襲いかかった。しかし、ナイトであるカエリクは、かれがもつ姓の由来である槌を振るいながら、立ちつづけた。怨念に魂を冷やされながらも、カエリクの徳が衰えることはなく、かれは、亡者たちの軍勢をかきわけながら進んでいった。

 しかし、カエリクは、戦うたびに傷を負って衰弱し、立ち止まってしまった。なぜなら、暗黒道路を歩いていくための力が、尽きてしまったためである。カエリクが限界に達したときに、暗闇の中で光が輝いた。貴天使ことテルラネルが、包囲されたカエリクの面前に来たのである。テルラネルの顔には星ぼしの光が輝いており、かれの両翼がおこす風は、滅びた土地に訪れた春の夢のようであった。
「善き騎士よ。最も神聖で、誰よりも義に厚い人達の子孫よ。わたしはおまえを助けに来た」と、テルラネルは言った。
「わたしは、この恐ろしい場所から治癒の家へ、おまえを連れ戻すことができる。そうすれば、おまえは、カンブリュワンが危険に晒されたときに、かれを救えるだろう」
「断る」とカエリクは答えた。「陛下への誓いを破るくらいなら、一万回の死を選ぶ。あなたが本物の天使であり、わたしを惑わして滅ぼそうとする幻でないのであれば、聖剣探索を終わらせる力を授けてくれ。ふたたび陛下に奉仕して、消耗した地界に希望の火を灯すために」
「おまえの望みをかなえよう」と、テルラネルは言った。「おまえは探索を終えられるだろう。しかし、戦いのなかで求めてきた、おまえが手にいれることになる剣は、おまえじしんも死なせる。そのことを覚えておけ」
 カエリクは微笑みながら答えた。「わたしは上級王への奉仕を誓い、自分の命を捨てた。陛下から仰せつかった任務を完遂したいのだ。勝利をもたらすために剣をお届けできるならば、喜んで二万回の死を遂げてみせよう」

「最も高貴な者よ、それがあなたの選択か」とテルラネルは答えた。すると、カエリクの魂は優美および聖性で満たされて、かれは、最も暗い領土で道標のように輝いた。カエリクの力は倍増されて、怪我は全快し、かれは、天使の力が血管の中に流れる、最初の聖騎士になった。
 魂をもたない闇の使用人たちは、カエリクの義憤に立ち向かえなかった。カエリクの槌は、ファントムとレイスおよびワイトの、三者が大勢いる軍団を打ち倒した。最後には、運命の剣ことシャドウベインが、浅い墓穴の中に放置されていたことを発見した。カエリクは剣を拾いあげて、冥后を殺害し、かの女の恐ろしい諸呪文を永遠に消失させた。
 カエリク・ブラックハマーは、地界の境界を馬で越えて、死者の国へ進入した。そして、かれは、シャドウベインを携えながら徒歩で戻ってきた。

 残念ながら、カエリクがおこなった探索はあまりにも長すぎた。カエリクは、エロイーズおよびかの女の家族を、急いで探しに戻ったが、間に合わなかったのである。カエリクが不在だったあいだに、エロイーズとかの女の家族は殺害されていた。かれらの血まみれな遺体は、木から吊るされていて、カラスたちについばまれていた。
 泣きながら、カエリクは恋人を木から下ろし、無垢な血液で赤く染まった、婦人用の頭巾を腰に巻いた。カエリクは忠誠の試練を乗り越えたが、最愛の恋人を喪失したのである。カエリクは、自責の印として、エロイーズの赤い頭巾を帯へ転用し、最期の日まで身に着けた。
 カエリクは恋人の死を悲しんだが、かの女の悲運を無駄にしてはいけないことに、気がついた。カエリクは、困難な探索を成し遂げてシャドウベインを獲得した。しかし、カエリクと上級王のあいだには、まだ数百リーグもの距離があった。誰もいない荒野で、カエリクは全父および天使たちに対して祈り、自分へ馬を派遣してほしいと懇願した。カエリクは二日間にわたって歩いたが、三日目にかれの祈りは聞き届けられた。

 カンブリュワンは、ヴァルディマンソールの軍団によって窮地に立たされ、支援を必要としていた。なぜなら、呪術をかけられて狂気に陥り、力を増幅させたミノタウロスの兵士たち全員が、かれに差し向けられていたためである。探索のために馬を駆った九勇士のうち、五人は無残に殺害され、三人は心が折れて戻ってきた。カエリクの消息は不明であり、カンブリュワンは最悪の事態を恐れた。
 カンブリュワンは、かれの大規模な軍隊を何度も前進させた。しかし、ミノタウロスたちは断崖絶壁のように立ちはだかり、兵士たちは、崖に打ち寄せる波のように跳ね返された。雷および暴風が過ぎ去ったあとでも、依然として崖が残存していたのである。
 カンブリュワンは、最後の兵力を、高地のレンゲスト市にまで後退させた。同地は、エルフの滅びた都市ことヴォディラノン市から、三マイルほど離れた場所であった。エルフたちとかれらの不潔な召使いたちは、高地を包囲して退路を塞ぎ、喜んだ。なぜなら、勝利の時が近いと考えていたためである。逆境に立たされながらも、カンブリュワンは断固とした態度を保ち、果敢に指揮をとったため、皆が魂を鼓舞された。自営農民や兵士および勇士の全員が、次の戦闘で死ぬ覚悟ができていた。しかし、エルフたちの勝利には、高い代償を支払わせようと決意していた。

 明け方になっても、両軍はレネリンド平原で対峙していた。雄鶏の鳴き声が夜明けを告げると、日の出の太陽よりも明るく輝く星が、低空に現れて視認された。その星を見たエルフたちは歓喜した。なぜなら、暁の星は、かれらに吉兆とされていたためである。そして、ヴァルディマンソールの軍団は力づよく歌い始め、カンブリュワンの兵士たちは震えあがった。
 ヒトの兵士たちは恐怖で畏縮したが、カンブリュワンはひざまづいて全父へ祈った。それを見て、ヒトの兵士たちも同じように祈り始め、偉大な王であるカンブリュワンに奉仕しながら、潔く死ぬことを望んだ。平原は静まり返り、カンブリュワンの破滅が近づいているように思われた。
 しかし、フクロウのように鋭い両目をもつゼリスタンが、軍団の前へ出て、空のほうへ指をさした。
「上級王の兵士たちよ、喜べ」と、ゼリスタンは叫んだ。「勝利へ向かって走れ。救われるときが来た。シャドウベインがやってくる。シャドウベインがやってくる」
 全員が指し示されたほうを見ると、星が星でなかったことが明らかになった。そこには、白く大きな両翼を羽ばたせながら、風よりも速く平原へ向かってくる、見事な銀色の馬がいたのである。祝福を受けていた馬に乗っていた人物は、聖騎士たちの一人目こと福騎士カエリクであった。かれの手には、剣であるシャドウベインが握られており、その柄は、朝の星ぼしよりも強く輝いていた。
 エルフの軍隊はあっけにとられ、自分たちの悲運が頭によぎり、カンブリュワンは兵士たちに突撃を命じた。こうしてレネリンド会戦が始まり、悲涙戦争の行方は永遠に変わることになった。

 カンブリュワンは、敵方の衛士であるブレイドウィーヴァーたち、ならびに、ミノタウロスたちに囲まれた。そして、その中心で、ヴァルディマンソールと対決することになった。カンブリュワンの剣は、ヴァルディマンソールの長い曲刀に絡めとられ、ミノタウロスの大きな両手で折られてしまった。
 カエリクはカンブリュワンの救出に向かったが、エルフの弓兵たちは、雷のように速い多数の矢を放ち、羽のある馬は殺害された。羽のある馬および乗り手であるカエリクが、平原へ落下していくときに、かれはシャドウベインを投げた。それは、審判彗星として、火の矢のように飛んでいった。しばらくの間、両軍の兵士たちがシャドウベインの軌道に注目したため、戦いは中断された。
 カンブリュワンが空へ手を伸ばし、全父の名前を唱えると、剣はかれの手の中に収まった。シャドウベインの柄は千個の太陽のように輝き、黒い刀身が全部の影を飲みこんだことで、平原には光だけが残存した。その途端に、エルフの術者たちによる諸呪文は、完全に無効化された。ミノタウロスは狂気に駆られた。なぜなら、かれらの意思を縛りつけていたエルフの呪術が、しおれた絹のように擦りきれて、消滅したためである。
 カンブリュワンはシャドウベインで切りかかり、最期を悟ったヴァルディマンソールは涙を流した。ヴァルディマンソールは、優れた曲刀であるイムドララールを構え、攻撃を防ごうとした。しかし、シャドウベインは曲刀を裂き、そのまま、かれの頭を胴体から分断した。エルフたちの全員が、泣きながら平原から逃げだした。ミノタウロスたちも潰走し、恐怖、もしくは、元の主人たちへの怒りに突き動かされて、暴れまわった。

 カンブリュワンはレネリンド平原での戦いに勝利し、エルフの妖人王国は永遠に滅亡した。カエリクは、地面に落下したときに大怪我を負ったが、程なくして回復し、上級王の横で戦った。
 ヒトたちの全員がシャドウベインの回帰を喜び、この剣を、王者生み、暁の星、聖騎士の剣、道標の刃と名づけて賛美した。エルフたちは恐怖におののき、シャドウベインを、シルレストールの剣、イスリアナの破滅、報復の剣と呼んで、逃げだした。
 悲涙戦争はまだ終結していなかったが、エルフが戦場でカンブリュワンに勝つことは、二度とおこらなかった。それでは、シャドウベイン伝説における、暗くて痛ましい結末について聞いてくれ。

惨禍の日
〈上級王の死と地界の崩壊〉

 諸伝承によれば、昔にシャドウベインは暗闇の中に消え、大戦の戦局を覆すために、二回におよび英雄の手へ渡った。シャドウベインを手にいれると、カンブリュワンは勝利に勝利を重ね、かれには、さらなる栄光と崇拝が注がれた。
 元祖聖騎士ことカエリク・ブラックハマーも賛美され、カンブリュワンに次ぐ名声をあたえられた。何十人もの騎士たちが、カエリクを模範として生活し、先導者であるかれを模倣して、赤い帯を着けた。このようにして、聖騎士が身に着けていた恥の証は、名誉の象徴となり、現代の帯騎士会にも着用されている。しかし、高潔な騎士たちが努力を重ねても、カエリクに並ぶ優美をもてることはなく、真の聖騎士はかれだけに限られた。

 カンブリュワンの軍隊が、最終的な勝利へ向かっていたときでさえ、カンブリュワンは過去の影に悩まされた。三回にわたって、ゼリスタンは、シャドウベインを海へ投げいれ、この剣の危険な呪いを避けるべきと、カンブリュワンに勧めた。しかし、カンブリュワンは三回とも拒否した。
「この剣は、善ではなく、悪を破壊するために作られた」と、カンブリュワンは、ウィザードであるゼリスタンへ言った。「呪いは男と女を殺すようだが、余はそのどちらでもない。余は王である」
 ゼリスタンはそれ以上の進言を止めたが、かれの心には大きな不安が重くのしかかった。そして、このウィザードの懸念は、あまりにも早く的中することになった。

 他の影も拡大しつつあり、勝利の直前であったにもかかわらず、カンブリュワンの宮廷は新しい対立で分断された。上級王に膝を屈する前までは、軍閥総統であった、高慢な騎士たちは、カエリクに対して憤慨していた。なぜなら、平民の出自であるかれと栄光が、切り離せない関係になっていたためである。
 高慢な騎士たちは、カエリクの信心ぶかい訓示に怒りを覚え、戦争が終結したときに、帯騎士会に栄光が分与されることを恐れた。カエリクに馬上槍試合や戦闘で負けた騎士たちは、この聖騎士が不正および詐欺をおこなうと、密かに言いふらした。しかも、かれらは道徳律の価値を疑問視し始めた。
 カンブリュワンは闘争を鎮静化させたが、聖剣探索で生まれた不和が深い根を下ろした。そして、カンブリュワンが召し抱えた人物の一人が、全父の子供たちに二度と名前を語られない、悪人として、善に背を向けた。騎士たちのなかで最も邪悪な人物が、持ち前の高慢さで地界を破壊してしまう、背信者になったのである。

 カンブリュワンが最終的な勝利の準備をしていたときでさえ、背信者はエルフたちと陰謀を企てていた。遠く離れた吹きさらしの北方には、エルフたちがもった最後の大規模な砦があった。このキエラヴェン砦は、上級王の諸軍隊に攻囲されて、陥落が近かった。
 戦闘は凄惨であり、伝承によれば、ここでカエリクは殺害された。ある者たちは、カエリクは偶然に戦死したと言う。一方で、別の者たちは、嫉妬ぶかい騎士の一味が裏切り、かれを白兵戦の渦中に孤立させて、謀殺したと噂する。ゼリスタンは、シャドウベインの呪いが実現した可能性を認めた。
 聖騎士ことカエリクは死亡したが、ヒトたちは戦闘に勝利し、エルフたちがもった最後の砦は破壊された。

 攻囲のあとに、カンブリュワンは、森の中を駆け抜けながら、エルフの敗残兵たちを追跡した。年寄騎士ゲリアント卿だけでなく、悪行で自分の名前を消す騎士も、カンブリュワンの側にいた。ゲリアントは背信者の内心を疑っていたが、カンブリュワンは、家来の誰かが裏切るとは思いもしなかった。
 計画どおりに、背信者は二人に林道を通過させ、一本の非常に古いオーク樹がある、開けた場所にまで導いた。そこでは、エルフの暗殺者が、致死の呪力が付与された矢を持ちながら、潜伏していた。ゲリアントは、暗殺者の弓が、カンブリュワンを狙っていることに気がつき、かれのほうへ身を投げて押しのけた。
 主人の身代わりなったゲリアントは、矢を受けてしまい、死の冷気がかれの心臓を止めた。カンブリュワンは、忠実な家来に守られたときに、体勢を崩して、シャドウベインを地面に落としてしまった。そして、ここで背信者は好機を捉えた。
 背信者は、運命の剣ことシャドウベインを拾いあげ、それで、背後からカンブリュワンの胴体を刺した。鎧の背面と体と鎧の前面を貫通するほど、この一撃は強烈であった。このときに、カンブリュワンは巨木に打ちつけられてしまい、かれの心臓から流れ出る血は、樹を伝って地面へ染みこんだ。こうして、カンブリュワンは裏切られて死亡し、シャドウベインの呪いがふたたび実現したのである。

 剣の書からの引用によれば、惨禍刺突は地界を粉砕し、大転換をもたらした。カンブリュワンが、シャドウベインで打ち付けられたオーク樹は、最初の木こと世界樹であった。心材部まで刺されたこの木は、地界の原初に、全父が、ブライアラ女神を目覚めさせた場所である。したがって、この事件は大転換の原因となった。
 全父の神聖な勇士である、特別な王の血液が森の中へ染みこみ、さらに世界樹へ飲まれると、木は石に変化した。空は暗くなり、大地は震え、すべてが分離した。天国と地獄の両門戸は急速に閉まり、太陽の色は病的な深紅へ変わり、シャドウベインの柄でさえ輝きを失った。年寄騎士ゲリアントの両目からは苦い涙が流れ、かれは死に、暗い現代では見られない、本当の死を遂げた最後の人物となった。
 このようにして列王時代が終わり、現在の争闘時代が始まったのである。

 ここでシャドウベインの伝説は終わる。しかし、多くの疑問が残された。完璧な剣であるシャドウベインは、どのようにして呪われたのか。なぜ、エルフたちは、シャドウベインをこれほどまでに恐れていたのか。どのようにして、光り輝くシャドウベインが、冥后イスリアナの両手へ渡ったのか。

 これらの疑問に対して複数の解答が編まれ、もうひとつの物語が形成された。真実を知るためには、ひとつ前の時代へ戻る必要がある。人達の子孫たちのなかで、最初にシャドウベインを発見して振るった人物は、ベレガンド・ブレイドシーカーである。かれの物語を、あなたは聞くべきだろう。

 

shadowbanelore.hatenablog.jp

 

用語一覧

 

《あ》:暁の星(Mornig's Star / Morningstar)、暗影(Shadow)、暗影軍団(Unholy Legion)、暗黒道路(Dark Road)
《い》:イスリアナ[冥后](Ithriana the Lich Queen)、イスリアナの破滅(Ithriana's Bane)、イムドララール(Imdralar)
《う》:ヴァルディマンソール(Valdimanthor)、ウィザード(Wizard)、ヴォディラノン市(Vodiranon)、運命の剣(Sword of Destiny)
《え》:英雄(Hero)、エルフ(Elf)、エロイーズ(Heloise)
《お》:王(King)、王殺し(Kingslayer)、王生み(King Maker)、オーク(Orc)、帯騎士会(Knights of the Sash)

《か》:カエリク[福騎士](Caeric the Blessed)、カエリク・ブラックハマー卿[聖騎士](Sir Caeric Blackhammer the First Paladin)、カレドルン王国(Caledorn)、元祖聖騎士(First Paladin)、カンブリュワン[上級王](Cambruin the High King)、カンブリュワン諸勇士(Cambruin’s Champions)
《き》:キエラヴェン砦(Kierhaven)、北風(North Wind)、貴天使(Archon of Grace)、九勇士(Nine / Nine Champions)
《く》:苦難修道院(Perilous Abbey)、黒槌(Blackhammer)、軍閥総統(Warlord)
《け》:ゲリアント[年寄騎士](Gerriant the Old)、ゲリアント卿[不屈騎士](Sir Gerriant the Brave)、剣の書(Book of Swords)
《こ》:ゴエリン(Goerin)

《さ》:最初の木(First Tree)、災厄戦争(War of Scourge)、惨禍刺突(Woeful Stroke)、惨禍の日(Day of Woe)
《し》:時間(Time)、地獄(Hell)、死者の国(Lands of the Dead)、死の霧(Mists of Death)、ジャイアント(Giant)、シャドウベイン(Shadowbane)、シャドウベイン伝説(Legend of Shadowbane)、十王国(Ten Kingdoms)、上級王(High King)、上級王国(High Kingdom)、諸王の剣(Sword of Kings)、シルレストールの剣(Sillestor's Blade)、ジロワーズ卿(Sir Giroise) 、審判彗星(Comet of Doom
《せ》:正義(Justice)、聖騎士(Paladin)、聖騎士の剣(Paladinsword)、聖剣探索(Quest for the Sword / Quest for Shadowbane)、精霊(Genie)、聖ローンの祝祭(Feast of St. Lorne)、聖ローンの殉教日(Martyrdom of Saint Lorne)、世界樹(World Tree)、ゼリスタン[賢者](Zeristan the Wise)、全父(All-Father)
《そ》:争闘時代(Age of Strife)

《た》:大転換(Turning)、太陽(Sun)、託宣者(Oracle
《ち》:地界(World)
《て》:テルラネル(Teluranel)、天国(Heaven)、天使(Archon)
《と》:冬至(Midwinter's Day)、道徳律(Code)、道標の刃(Beacon Blade)、徳(Virtue)、徳の炎(Fire of Virtue)

《は》:背信者(Traitor, The)、春(Spring)
《ひ》:悲運(Fate)、ヒト(Human)、人時代(Age of Men)、人達の子孫(Son of Men)、悲涙戦争(War of Tears)、昼中時代(Age of Days)
《ふ》:ファントム(Phantom)、ブライアラ(Braialla)、ブレイドウィーヴァー(Blade Weaver)
《へ》:ベレガンド・ブレイドシーカー(Beregund Bladeseeker)
《ほ》:報復の剣(Sword of Vengeance)、北端(Utter North)、北方(North)、北方人(Northman)

《ま》:マーディオック・ワイアームスレイヤー卿(Sir Mardiock Wyrmslayer)、魔界(Chaos)
《み》:ミノタウロス(Minotaur)
《む》:ムールヴェ城(Castle Mourvais)
《め》:メリッサール市(Mellissar)
《も》:亡者(Dead)

《や》:闇(Dark)
《ゆ》:勇士(Champion)
《よ》:妖人王国(Elvish Kingdom)、妖人軍団(Elvish Host)

《れ》:レイス(Wraith)、列王時代(Age of Kings)、レネリンド会戦(Battle of Rennelind)、レネリンド平原(Field of Rennelind)、レンゲスト市(Rengest)
《ろ》:ロヴェンノル・オブ・アルヴァエティア卿(Sir Rovennor of Alvaetia)

《わ》:ワイト(Wight)