どの市場へ行っても、吟遊詩人はカンブリュワンの死を嘆き、彼の唱えた道徳論を賞賛している。カンブリュワンの功績は長く伝えられるべきだが、愚か者たちは過去を見てばかりで、現代の真理に気づいていない。ヒトの心魂に変化がなくとも、地界は変わった。
カンブリュワンは素晴らしい人物であり、偉大な王でもある。テンプラーとプレレイトの説法によれば、カンブリュワンは全父の化身だというが、その脚色は度が過ぎているといえよう。カンブリュワンも一介の戦士にすぎず、他の者たちと同じように死んだ。したがって彼が死ぬと、道徳論の価値も地に落ちた。
カンブリュワンは権勢を獲得し、王と国はひとつであるといわれたようだ。ならば現代の崩壊した地界は、彼の弱さを表しているのだろう。次代の王は、カンブリュワンよりも強くあらねばならん。
道徳論とヒトの本質は大きく異なる。なぜなら、俺たちは聖人でも神でもないからだ。原野の動物たちを見てみるがよい。狼が羊や牛に敬意を払うものか。狼は、仕留めた獲物の子供さえも襲う。
全父が土をこね、ヒトを作りあげたことからも分かるように、俺たちは地界の一生物にすぎない。強者が弱者を食らい、支配し、生き残るのは自然なことだ。
五大徳目のうち、三つは実現が不可能であり、一つはそもそも存在しない。譲渡は支配者が受けるものであり、謙遜は軽視される原因となり、慈悲は報復を招く。武勇だけが俺たちも賛同する美徳であり、これこそが本物の正義だ。
前時代に、ナイトがご大層に掲げた正義は、奴らでさえ実現させられなかった。現代においてもそれは変わらない。庇護の見返りとして、弱者には主人へ奉仕する義務がある。
戦争の勝敗が、軍事力だけに依拠することは明らかだ。なぜナイトたちはそれが分からないのか。道徳論には実体がなく、戦場では何の役にも立たん。騎士道と宮廷恋愛は詩人だけに必要なものであり、戦士とは何の関わりもない。
天変地異が起きた後、上級王の騎士たちは絶望し、拍車を捨てて引退した者も少なくない。自分の領地と称号を破棄し、道徳論を広める旅に出た者もいる。それらに該当しない騎士たちは、新しい時代を直視した。
俺たちは道徳論を捨て去り、悪徳論に従う。それは騎士にとって、新しい名誉と信条の規範といえる。結局のところ、実際に道徳と呼べるものは暴力しかない。ただそれだけが、男の出世と破滅を決める。
道徳的な騎士とやらは、俺たちをダークナイトと呼んで蔑むが、奴らと俺たちのあいだには、何の違いもない。カンブリュワンさえも同じだ。暗い時代の騎士として、ダークナイトという名前は、栄誉ある称号と受けとめよう。
高貴な血筋にも、大した価値はない。カンブリュワンが手に入れた王位は、戦場で勝ち取ったものだ。次の上級王も、血の海に浸らなければならない。
騎士たちが戦う競争の先には、最高の褒章が用意されている。おまえもダークナイトとして、大戦乱に参加するがよい。自分の力量と名誉を試し、運命の輪を逆回りさせろ。
ダークナイトよ、出陣の時だ。馬に乗り、勝利へ駆けろ。弱者を業火にくべてやろう。
悪徳論
戦乱が始まって久しく、戦士たちには、軍事力と名誉ならびに武勇が求められた。このような背景から、悪徳論が成立したのである。八つの教訓をよく覚え、常に心がけよ。
一、弱者には服従を強制せよ。
二、同格の戦士にも服従を強制せよ。
三、権力の行使には軍事力を媒介せよ。
四、敗者には止めを刺せ。
五、被庇護者には忠誠を誓わせよ。
六、戦争のみを騎士道の表現とせよ。
七、ささいな侮辱も許すな。
八、不名誉よりも死を選べ。
用語一覧(ダークナイトの物語)
《う》:運命(Destiny)
《か》:神(God)、カンブリュワン(Cambruin)
《け》:謙遜(Modesty)
《こ》:業火(Hellfire)、五大徳目(Five Virtues)
《し》:慈悲(Mercy)、上級王(High King)、譲渡(Generosity)
《せ》:正義(Justice)、聖人(Saints)、全父(All-Father)
《た》:ダークナイト(Dark Knight)、大戦乱(High Struggle)
《ち》:地界(World)
《つ》:土(Earth)
《て》:テンプラー(Templar)、天変地異(Turning)
《と》:道徳論(Code)
《な》:ナイト(knight)
《ひ》:ヒト(Man)
《ふ》:武勇(Valor)、プレレイト(Prelate)
用語一覧(悪徳論)
《あ》:悪徳論(Rule)
《ふ》:武勇(Valor)