シャドウベインの背景世界

MMORPG、Shadowbaneがもつ舞台設定の翻訳

ラットキャッチャーの体験記(Rat Catcher Narrative)

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 ああ、分かっている。俺から下水道の匂いがすることはな。見ての通り、体中が汚物まみれさ。人びとにいつも何を言われているか、それも知っている。この町では、俺と仲間たちが行くことを許されて、休める小屋はひとつだけだ。
 爪のあいだにまで糞がはさまっているがな、俺の心は純粋で清潔さ。罵られても気にしちゃいない。なぜなら俺は高貴な男で、立派な仕事をしているからさ。俺と仲間たちは、ラットキャッチャーとしてこの大都市を守っている。とはいえ、俺たちの成果が評価されることはない。

 

 俺たちは毎日ろうそく付きの兜を被り、厚手の手袋をはめて、暗い地下へ降りる。下水道をはいずり、害獣を巣ごと駆除するんだ。俺たちが、常づね健康と命の危険にさらされることで、町の住民は病気と飢餓を心配しなくなる。
 馬鹿な奴らは俺たちのことを悪く言うが、彼らは何も分かっちゃいない。公共の場所において、ラットキャッチャーという名前は、口に出すのも嫌がられる。だが、俺たちの仕事は不可欠なものだから、喜んで引き受けよう。
 この業務を創設したのは、上級王カンブリュワンだった。驚いたかな。歴史書にはそのことが書かれているから、読んでみるといい。

 

 戴冠式が終わり、カンブリュワンが上級王になった後、彼は軍隊を招集し、エルフと戦う準備を進めていた。バードゥルフ・オブ・ブレルラメアは、王に仕えた勇士である。少ない記録によると、彼は勇士団のなかで最も強く、勇敢な騎士の一人に数えられたようだ。
 バードゥルフは精強な騎士だったが、非常に謙虚な人物でもあった。彼は栄誉よりも献身を優先したため、人びとの記憶から忘れられたのだろう。戦争のときが近づき、バードゥルフも胸を高鳴らせていたが、彼には違う役目があった。
 出発の前日に、カンブリュワンはバードゥルフに言う。「バードゥルフよ、こたびの戦にはそちを連れていけぬ」王は続けた。「だが気を落とすでない。そちにはもっと重要な任務がある。
 そちは町にとどまり、見張りをせよ。余が戻るまで、敵方の隠密も野生の動物も、決して中に入れるでないぞ。下水道のねずみ一匹さえもだ。もしも町に病気が蔓延すれば、余が戦に勝とうとも、すべてが無駄になるからな」
 バードゥルフは、新しい任務を快く引き受けた。

 

 こうして、ブレルラメア出身の忠実な騎士が選ばれ、彼が上級王の命令に従ったわけだ。兜に角灯を取り付けたバードゥルフは、下水道に降りて、熱心に害獣を駆除した。部下たちと共に、高貴な戦いを行う彼の姿は、別の諸都市においても手本となったそうだ。
 バードゥルフが自分を犠牲にして、歌のなかで賞賛されなくなったように、俺たちも善き人びとのために、尊厳を犠牲にする。俺たちは、自分をののしる人びとのために働くが、それが立派な仕事であることを忘れはしない。俺たちがいなくなれば、害獣が市場の食べ物を食い荒らし、住民は生活できなくなるだろう。
 ねずみが病気を運ぶことは、ラットキャッチャーの先人たちが最初に発見した。古い時代ほど、現代に病気が広まっていないのは、彼らのおかげといえる。すばしっこい小さなねずみは、人の肉を突然かみちぎるだろう。犬と同じ大きさのねずみは、揺りかごの赤子をさらう。俺たちが警戒を怠れば、屋外と屋内の両方で、すぐに被害が出るだろう。
 だが俺たちが戦うのは、普通のねずみだけではない。下水道には、人型のねずみことスクレルも潜んでいるし、ずる賢い彼らの人数は、日増しに増えている。スクレルほど最悪なものは他にないが、昼間にこのことを話すのはよそう。人びとの耳に入ると、彼らが脅えるからな。
 ラットキャッチャーには、腕力と器用さだけでなく勇気も求められる。半マイルにわたり汚物に塗れた道を、はいながら突き進まなければならない。その先には、スクレルの巣があるからだ。
 おまえが暗く汚い道の奥に進むと、小さなねずみに発見される。そのとき彼らは、来訪者を恐れると同時に、敬意を払うだろう。日の下で生きる人びとには、俺たちの苦労が理解できないし、する気もないだろう。感謝の気持ちももたない。だがそれでも構わないさ。

 

 そろそろ太陽が沈むな。さあ、俺が仕掛けた罠を見に行こう。害獣どもよ、準備はいいか。 バードゥルフ兄弟会がやって来るぞ。

 

用語一覧

 

《え》:エルフ(Elf)

 

《か》:カンブリュワン(Cambruin)

 

《し》:上級王(High King)
《す》:スクレル(Skrell)

 

《た》:太陽(Sun)

 

《は》:バードゥルフ・オブ・ブレルラメア(Bardulph of Brellamere)、バードゥルフ兄弟会(Brothers of Bardulph)

 

《ゆ》:勇士(Champion)、勇士団(Shining Company)

 

《ら》:ラットキャッチャー(Rat Catcher)