おれが怖くないようだな。なぜ、おまえはおれを見た。おまえの夢に、激しい叫び声ばかりがでてきたのか。戦いへの衝動で、おまえの血が燃えあがったのか。おまえは呼声を聞いたのだ。おまえの目を見てわかった。憤怒の子、バーサーカーにならなければ、おまえは破滅するだろう。
数百年まえに、ヤルマの軍勢が南方地域へ侵攻したあと、略奪で嫁にした女たちは、血の半分が北方人の子供たちを産んだ。その後、子供たちのなかに、怒り狂う者たちが出てきた。初めのころ、この憤怒は、血液から生じた病気か、あるいは悪魔の仕業だと考えられた。人びとは何もわからなかった。だが、おまえはバーサーカーの伝承を聞いて、真実を学べ。
サガを知っているか。太陽が生まれるまえに、すべての父、ヴォルダンが運命の断崖に彫りあげたヴェルトヴュアダングサガは、すべての原因だ。ヴォルダンは、世界樹の根元にいた、蛇神ヨルドマングンディルと取引をして、ルーン知識を学んだ。そのとき、かれは過去と未来のすべてを見た。
蛇の主は代償について警告したが、ヴォルダンは気にとめなかった。そして、その代償がおれたちだ。
蛇の毒は全父の血中で煮えたち、かれに狂気と英知をもたらした。血に残った毒により、ヴォルダンは幻視を見たが、この幻視は、かれが、ダニアを形作るときさえも現れた。ダニアとは、南方人がティーターンと呼ぶ、始祖たちのことだ。全父が、ダニアたちへ命を与えるために、それらに自分の血をかけたとき、蛇の主の毒もかれら全員に注がれた。
こうして、ヒトがもつ魂のすべてに獣が住みついた。かれらのなかには、動物の魂とともに生まれ、獣の姿を身につけて、月に向かってほえる者たちがいる。獣化者たちはおれたちの同族だが、同じではない。かれらは、獣の肉体にヒトの魂をもっている。おれたちバーサーカーは、憤怒の扱いかたを覚え、ヒトの肉体に獣の魂を作用させる。
血への渇望はおれたちを苦しめるが、それには単純な起源がある。おれたちバーサーカーを引き寄せる、幼児期の終わりに感じるものは、呼声として知られている。この声はおまえに呼びかけ、おまえの内側を見るように頼みこんでくる。声の正体は野獣であり、この獣は、悪意と憎悪をもちながら地界を見る。呼声は怒りから生まれるが、それに耳を貸さず、無傷でいられるかどうかは人による。
ひとたびバーサーカーが呼声に屈すれば、呼声は憤怒に変わり、栄誉ある熱狂をもって、強烈な怒りが解き放たれる。バーサーカーの長所は増幅し、かれは苦痛を感じなくなって、敵をたたき、引き裂いて殺すためだけに生きるようになる。
とはいえ、憤怒はすべてのヒトに秘められていて、それは内側で眠っている。呼びかけを聞き、飢えに苦しめられる者は非常に少なく、百人のなかで一人いるとは限らない。
それで、おまえは呼声を聞いたのだろう。呼声に耐えたいのなら、長いあいだ孤独に歩む準備をして、いくつかの人間らしさを捨てろ。人びとはおまえを恐れるようになるが、おまえは、優れた騎士たちさえ驚かす妙技を得るだろう。
だが、用心しろ。今している激怒と統御と意志の話は、憤道の要点だ。憤怒への服従は、短時間で、火のようにおまえを燃やしつくすだろう。憤怒に長くもちこたえたら、呼声はおまえに狂気をもたらす。けっして、憤怒を飼い慣らしたり、繋ぎ止めようとはするな。その代わりに、おまえは、憤怒の乗りこなしかたを学ばなければならない。
ひとたび、おまえがバーサーカーの生きかたを選んだのなら、戻り道はない。死さえも、おまえを解放しないだろう。よく考えろ。
おまえは恐れていないし、そうしてはならない。すぐにおまえは憤怒を感じ、血の海につかるだろう。
用語一覧
《あ》:悪魔(Demon)
《い》:インヴォア人(Invorri)
《う》:ヴォルダン(Vorrdan)、ヴェルトヴュアダングサガ(Weltwyrdangssaga)、運命の断崖(Cliffs of Fate)
《さ》:サガ(Saga)
《し》:獣化者(Skinchanger)
《せ》:世界樹(World Tree)、全父(All-Father)
《た》:太陽(Sun)、ダニア(Danir)
《ち》:地界(World)
《つ》:月(Moon)
《て》:ティーターン(Titan)
《な》:南方人(Southlander)、南方地域(Southland)
《は》:バーサーカー(Berserker)
《ひ》:火(Fire)、ヒト(Man)
《ふ》:憤怒(Rage)、憤道(Path of Rage)、憤怒の子(Child of Rage)
《へ》:蛇の主(Serpent)
《ほ》:北方人(Northman)
《や》:野獣(Beast)、ヤルマ(Hjallmar)
《よ》:呼声(Calling)、ヨルドマングンディル[蛇神](Jordmangundir the Serpent)
《る》:ルーン知識(Runelore)