シャドウベインの背景世界

MMORPG、Shadowbaneがもつ舞台設定の翻訳

ジャイアントキラーの体験記(Giantkiller Narrative)

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 ドワーフがもつ最古で最大の都市、ハガンドゥール石窟の地下12階には、歴史石窟がある。これは、その場所で南の壁に設置された、40枚目の板における10番目の記録である。

 

 そして、元祖鍛冶師こと石の父、トゥーリン神は、かれの子供たちに、工房における仕事の中断を命じた。地底から出て、空が屋根となる無壁世界へ行くためである。ドワーフの全員が、地底の上にある開けた大地と、星ぼしが財宝のように輝く、天空を一度も見たことがなかった。そのため、トゥーリン神に追従した者たちは、それらに驚嘆した。
 トゥーリン神とドワーフたちは、一部が崩壊していた、壮大な山やまに着いた。山頂のふもとでは、砕けた石が積み重なっており、それらのすべてには、強力な力をもつ文字が彫られていた。トゥーリン神は、それらの石をルーン石と名づけ、ドワーフたちに石の秘奥を説いた。そして、石の力を失わせないために、すばやく収集し、ハガンドゥール石窟で保管することを命じた。さらにトゥーリン神は、運命の断崖を破壊した、ジャイアントの裏切りについて話した。かれらの行為によって、無数のルーン石が、地界のすみずみにまで散乱していたからだ。
 トゥーリン神が自分の子供たちに全土を調査させ、ハガンドゥール石窟に石を集めようとしたことには、理由があった。なぜなら、鍛冶神は、かれの主人である全父の手がけた設計を、完成させたかったからだ。そして、トゥーリン神に選ばれたおれたち、地底の家来たちは命令に従った。
 おれたちは、働きながら石に彫られた文字を読んで、その知識を学んだ。分裂するまえの断崖には、地界の運命が始まりから終わりまで、すべて書かれていたから、おれたちの仕事は長いものだった。だが、トゥーリン神に選ばれた者たちはひるまず、夜でも歌いながら働いた。

 

 数年後、おれたちの歌声をたどって、ジャイアントたちが、山頂における吹雪のような勢いで現れた。大地は、ジャイアントたちの行進で大きく揺れ、怒りからくるかれらの声は、恐ろしいものだった。
「山にいる未発達な子供たちよ、おまえたちは何者だ」。ジャイアントの族長は、雷のような声で聞いてきた。「なぜ、おまえたちは石をもっていくのか。それらは、わしらが父からもらったものだ」ハガンドゥール石窟の石窟長、ドルンバル・デルヴェルは答えた。「ジャイアント殿、わたしたちは石の父、トゥーリン神の子である。トゥーリン神の命令による石の回収は、全父の意思にもとづくものであることを、ご理解いただきたい」。ジャイアントが激怒すると、山腹では雪崩がおきて、空は暗くなった。「盗人め」。ジャイアントは叫んだ。「わしはジャイアントの王、ユムル。全父の御手により作られ、最初に生まれたジャイアントである。壮大なサガを彫りあげたのは、わしらの手だ。それゆえ、ルーン石とそれが宿す力は、わしらのものだ」
 ユムルとかれの一族は、ドワーフたちに襲いかかり、見つけしだいにかれらを殺害した。ドルンバルは大きな斧で割かれ、ヒンゴルンは砕かれて地面に転がった。鍛冶聖ケルドロン、フィンド・トゥルーアクス、ヴァシュタルン・グラナイトブロウは…。

 

(一覧では、さらに、91人の名前が挙げられている。このつづきは、南の壁にある48枚目の板に、12番目の項目として掲載されている)

 

 星ぼしの下で働いていた者たちのうち、グットームだけが生きのびた。かれはトゥーリン神の諸石窟に戻り、人びとに警告した。

 

 こうして、ドワーフたちが死ぬことは発見された。そして、百回ちかくも襲撃され、殺されつづけた。このように一生が終わることは、時間以前と白夜時代ならびに、ドラゴンが目ざめたときでさえも、経験したことはなかった。トゥーリン神の子供たちは絶望した。悲しみはおれたちから会話を奪い、おれたち土の子は、新しい歌となる哀悼歌を作った。

 

 でも、ドワーフたちの心は折れておらず、任務を投げ出そうとはしなかった。スラングダン・ストーンショルダーズは、フォージマスターたちの製作した武具の置かれた、保管庫に行った。そして、そこから、強力な武器をいくつも取りだした。トゥーリン神が現れたとき、ドワーフたちは不思議に思った。なぜなら、そのころのかれらは、鍛冶と研磨のことだけしか知らず、戦争や戦士という単語さえもっていなかったからだ。
「おれたちの父、トゥーリン神はドラゴンの再起に備え、これらの武器を作ることを命じた。だが、今のおれたちは、地界において別の危機があることを学んだ。おれたちは武器を作った。そして今、おれはそれを使う。トゥーリン神の意志にもとづいて、おれじしんと仲間たちを守るためだ。おれは義務をわきにおいて、もうひとつの役目をとる。おれの行為がトゥーリン神を怒らせるならば、その罪はおれがすべて引き受けよう」
 スラングダンによる炎のような言葉を聞いて、ドワーフたちはひるんだが、ウォーリアーはつづけた。
「今日、おれは新しい名前を名のる。その名は、石窟で永遠に響くだろう」。とスラングダンは叫んだ。「おれのことは、スラングダン・ジャイントキラーと呼べ」
 他の者たちはスラングダンにつづいいた。500人のドワーフたちが、ミスリルの兜とアダマントの鎧を着て、じょうぶな槌とするどい斧を持った。そして、ジャイアントたちは、ドワーフたちの襲来に震えあがった。

 

 こうして、最古戦争こと聖刻戦役が、北方の凍てつく大地で始まった。トゥーリン神の民は戦闘と戦争の技芸を学び、工芸に使われたてきた両手は、殺人に使われるようになった。そして、永遠に生きるはずだったかれらは、死ぬことも学んだ。おおくの新しい詩が哀悼歌にくわえられ、英雄たちの死が惜しまれた。当時のジャイアントたちは強大であり、おおくの小人要塞と石窟が、かれらの大きな手によって破壊され、がれきになった。
 しかし、ジャイアントキラーたちは、ジャイアントたちと互角に戦い、自分たちよりも大きな敵と戦う方法を学んだ。そして、ジャイアントたちは、トゥーリン神の民を恐れるようになった。こんにちのジャイアントたちは、ジャイアントキラーのあげる、報復の雄たけびに震えあがるのだ。

 

用語一覧

 

《あ》:哀悼歌(Song of Mourning)
《い》:石の父(Father of Stones)
《う》:ヴァシュタルン・グラナイトブロウ(Vashtarn Granitebrow)、ウォーリアー(Warrior)、運命の断崖(Cliffs of Fate)、運命(Destiny)

 

《か》:鍛冶神(Shaper)、元祖鍛冶師(First Shaper)
《く》:グットーム(Gutthorm)
《け》:ケルドロン[鍛冶聖](Keldron the Forge Master)
《こ》:小人要塞(Dwarfhold)

 

《さ》:最古戦争(First War)、サガ(Saga)
《し》:時間以前(Times Before)、ジャイアント(Giant)、ジャイントキラー(Giant Killers)
《す》:スラングダン・ジャイントキラー(Thrangdan Giant-Killer)、スラングダン・ストーンショルダーズ(Thrangdan Stoneshoulders)
《せ》:石窟(Hall)、聖刻戦役(War of the Stones)、石窟長(Thane)、全父(All-Father)

 

《つ》:土の子(Sons of Earth)
《と》:トゥーリン(Thurin)、トゥーリン神の子(Son of Thurin)、トゥーリン神の石窟(Hall of Thurin)、ドルンバル・デルヴェル(Dorumbar Delver)、ドワーフ(Dwarf)

 

《は》:ハガンドゥール石窟(Haganduur)、白夜時代(Age of Twilight)
《ひ》:ヒンゴルン(Hingorn)
《ふ》:フィンド・トゥルーアクス(Findo True Axe)
《ほ》:北方(North)

 

《む》:無壁世界(Wide World)

 

《ゆ》:ユムル(Ymur)

 

《れ》:歴史石窟(Hall of Histories)
《る》:ルーン石(Runestone)