「火と太陽のごとく燃えざらば生きたらず」。この古いことわざは、イレケイの文化と思想をよく表している。荒地での生活は困難の連続であるため、略奪を行いながら、移動生活を送る者たちだけが、生存を可能とする。強者は弱者を餌食とするので、弱者たちは、賢明に危機を回避しなければならない。
弱さは死につながる。イレケイは、生まれたばかりの子供を厳密に審査して、資質のない子供たちを、砂漠に置き去りにする。部族同士の争いと砂漠の捕食者たちにより、イレケイの文化は残忍で軍事的なものになった。大多数のイレケイがウォーリアーであり、イレケイの子供たちすべてが、話すよりも先に、小刀の基礎的な扱い方を学ぶ。
イレケイは、自分たちをエルフとみなさなくなったが、端麗人のもつ傲慢さは、変わらずに引き継いでいる。その横柄な態度は、場合によってはエルフさえも上まわる。イレケイこと火の子供たちは、砂漠に住んでいるが、それは強制されたからではない。イレケイをのぞく世界人類は、砂漠で生きていくことができない。しかし、火の子供たちは厳しい環境で繁栄を築き、彼らの優越性を証明した。
「ドラゴンが目覚めるとき、もっともたくましい者たちだけが、竜の猛威に耐えられる」。すべてのイレケイが、自分たちの価値を証明することを、崇高な義務だと考えている。砂漠は日び、イレケイの力と意志を試しており、彼らは肥沃地で暮らしてこなかった。この理由により、イレケイは他の世界人類とは違い、自分たちが脆弱にならなかったと考える。
ハルイーカの概念は、イレケイがもつ思想の中核といえる。ハルイーカという単語は、エルフ語もふくめて、別の言語には翻訳できない。「魂の火」か「血液」、「心」および「不屈」などが充てられるが、それらでは不完全である。ハルイーカとはハリークルイストゥ女神の火であり、この聖なる火によって、イレケイは、エルフから高位の存在に変容した。そして、すべてをかけて生き残るために、力と耐久性を呼びこんだのである。
戦いと過酷な試練によって、イレケイは、自分のハルイーカを燃やすことができ、死はハルイーカを消失させる。なお天変地異がおきてからは、死が魂の火を弱めても、消失させることはなくなった。イレケイでない者たちは、魂の中に火がなく、肉体は冷たく弱い。
大部分のイレケイが、曲刀で戦うことを好むが、一部のウォーリアーたちは陽光道の修行をする。この特殊なウォーリアーたちは、サンダンサーと呼ばれる。彼らは何も武器をもたないが、ハルイーカを利用して、その火をまとわせた両方の拳は、戦いで驚異的な威力をもつ。
イレケイは生来の遊動民であり、オアシスからオアシスへ移動し、廃墟から廃墟へ移動する。すべてのイレケイがヴィーラクトゥの成員であり、この部族は、同盟した諸氏族と複数の家族集団で構成されている。イレケイの部族民どうしにおける絆は、彼らの文化でもっとも重んじられる。どの羅刹も、自分の所属するヴィーラクトゥの成員を、意図的に加害したり裏切ることはない。大半のヴィーラクトゥアル(イレケイ語でヴィーラクトゥの複数形)には、数十人しか成員がいない。しかし、もっとも巨大な諸部族の規模は、数千人にもおよぶ。
すべてのヴィーラクトゥには、同盟か宿敵とみなす部族がある。とはいえ、諸部族がもつ交易での結びつきや婚姻同盟、ならびに友好関係と敵対関係は、砂漠の波紋と同じように一定ではない。ヴィーラクトゥの運営手段は強盗であり、部族は弱い者たちから物資を奪い、彼らを捕虜にする。物資はヴィーラクトゥに利用され、捕虜はジョヴウースこと奴隷として、労働を強制される。イレケイは、奴隷になるよりも死を選ぶため、フィールハニームだけが奴隷となる。
イレケイの建物は砂岩を資材としており、複雑で神秘的な文字が彫られ、見事な装飾が施される。建造物の周囲には、日よけの画布と絹布が張られ、低位のイレケイが住む、いくつもの大きな天幕が置かれる。古い時代にエルフが築いた、白夜王国の廃墟は、今も砂漠に点在している。それらはイレケイに神聖視されており、保持されているだけでなく、羅刹のもつすべての都市で、中核にされている。
砂漠の外にいる地界の人びとは、すべてのイレケイが粗野で敵の血肉を食らう、非文明的な種族だと考える。このような噂は偏見にすぎず、実際のイレケイは、豊かな歴史と伝承ならびに、見事な芸術からなる高度な文化をもつ。
イレケイは、太陽が容赦なく照る砂漠で暮らしているため、彼らの男女は互いの能力を認めており、平等性をもつ。イレケイは、詩と物語ならびに音楽を好んでおり、彼らの祭礼には目を見張るものがある。イレケイの社会では、挨拶と食事から宣戦布告にまでおよぶ、厳格で複雑な儀礼が重んじられている。
すべてのイレケイが、自分たちをハルイーカの産物とみなしており、彼らがもつ名誉の概念は、高度に発達している。慣習と伝統を破ることは脆弱さの証であり、羅刹のあいだでは非常識な行為となる。言うまでもなく、フィールハニームは無価値とみなされるため、彼らが、イレケイと同じ待遇を受けられことはない。流水人に対するものであれば、嘘と計略、ならびに暴行は問題視されない。むしろ弱い種族をだまし、残忍な行為をはたらくことは、イレケイのあいだで名誉とされている。
戦争は、イレケイが名誉を目的としない、唯一の機会といえる。ハンジャルラカルこと熾烈戦争は、イレケイの、もっとも古い伝統のひとつである。戦争は決闘と混同されない。しばしばイレケイの諸都市でおこる、ウォーリアーどうしの危険な戦いには、厳格な慣例がある。別のヴィーラクトゥに対して、慣例で定義された、侮辱か犯罪に該当する行為があった場合、ハンジャルラカルが始まる。
宣戦布告にともなう儀礼をへて、熾烈戦争が開始されると、もはやそこに規則はない。この戦いは、肥沃地の住人に対するものと同様か、それ以上に凄惨である。膨大な数のヴィーラクトゥが、熾烈戦争で消滅してきたが、イレケイは、この残忍性をなくそうとはしない。通例、数か月で熾烈戦争は終り、争いが持ちこされることはない。その後、部族間の交易が再開されるが、同盟が結ばれる場合もある。
イレケイにとって、戦争は、ぶどう酒の摂取ならびに歌の鑑賞と同じで、楽しめるものである。それは、厳しい環境下で生きる彼らにとって、気晴らしにすぎず、英気を養う手段でもある。天変地異がおきたあと、イレケイのあいだで、熾烈戦争が行われることは少なくなった。その代わりとして、熾烈戦争はフィールハニームに対し、頻繁に呼びかけられるようになった。
用語一覧
《い》:イレケイ(Irekei)、イレケイ語(Irekei)
《う》:ヴィーラクトゥ(Virakt)、ヴィーラクトゥアル(Virakt'al)、ウォーリアー(Warriors)
《え》:エルフ(Elves)、エルフ語(Elvish)
《さ》:サンダンサー(Sun Dancers)
《し》:ジョヴウース(Jov'uus)、熾烈戦争(Blood Wars)
《せ》:世界人類(Children of the World)
《た》:太陽(Sun)、端麗人(Fair Folk)
《ち》:地界(World)
《て》:天変地異(Turning)
《と》:ドラゴン(Dragon)
《は》:白夜王国(Twilight Kingdom)、ハリークルイストゥ(Khalikryst)、ハルイーカ(khar'ika)、ハンジャルラカル(Khan'jallakar)
《ひ》:火(Flame)、火の子供(Sons of Flame)、肥沃地(Greenlands)
《ふ》:フィールハニーム(fir'khanim)
《よ》:陽光道(Shining Way)
《ら》:羅刹(Devil Men)
《り》:流水人(rain-bleeders)