良い戦士たちは、戦いに勝つ方法が二つあることを知っている。軍事力か悪知恵だ。二人の戦士にとって真理であることは、二つの軍隊にとっても同じだ。
軍事力は城壁を打ち倒し、都市の全体を破壊するが、しばしば戦術の悪賢い側面は、戦争を始まるまえに終わらせる。コマンダーが軍事力を欲したなら、かれは、複数の巨獣隊といくつものトレブシェットを用意する。さらに、バトルメイガスと大勢の兵士も準備する。
だが、コマンダーが悪知恵を欲したなら、おれが来る。サボテュアであるおれは、剣を抜かなくても戦局をくつがえせる。
「中核がなければ瓦解する」と詩人は言った。まったくそのとおりだ。心棒と輻(や)と輪ぶちのすべてが分離しうる。
石の小刀から攻城兵器まで、適切に取り扱われた装置は故障しない。一切の事物は壊れうるので、戦場で休憩をとるときも、けっして油断してはならない。どの歯車をいじればいいか知っていれば、ちょっとした工夫で、トレブシェットとマンゴネルが木材の山に変わる。それが、おれたちサボテュアのできることだ。
技師の知識と暗殺者の慎重さをもって、おれたちは機械を解体する。熟練したサボテュアは、シティの防衛軍を混乱させられるうえに、攻撃側の陣地に損害をあたえることもできる。
戦争に用いられるもっとも偉大な機械でさえ、おれの技を防げない。おれは、シージスパイアを停止させる方法を知っているからだ。
おれが聞いた話によると、シージスパイアを作ったエルフたちは、動力となる呪術に脆弱性をもたせたらしい。だからアーチメイジたちは、かれらの意志でシージスパイアを停止できるそうだ。もしも、すべてのシティがシージスパイアを設置したなら、エルフは巧妙にそれらを操作したのだろう。
見事な計画だ。その秘密が明らかになっていなければだがな。ディヴェアヤンド市のアーチメイジたちは、工作員ではなかった。このエルフたちがシージスパイアの秘密を発見したとき、かれらはその脆弱性を修正した。
だが、それは全体にはおよばなかった。少しのクイックシルバー材と呪文を使えば、すぐにシージスパイアの動作は鈍くなる。長くはないが、そのあいだの都市は防備が薄れる。このときに軍隊がおもいっきりぶちかまして、地界を変えるんだ。
なんだって。呪文を知りたいのか。悪いな。それは商売上の秘密だ。見習いの期間を終えれば、話してやる。
もちろん、バリスタやシージスパイアを無効化する方法を知っていても、対象から一マイル離れていれば意味がない。おれたちサボテュアには機械の知識があるが、それでもローグを辞めたわけではない。陣地やシージスパイアに近づき、技術を発揮するには、泥棒がもつ猫のような歩き方と、工作員の知恵が必要だ。優れたサボテュアなら、スカウトによる監視さえものともせず、敵の拠点を風のように動き回る。
使えるサッパーが手を貸してくれれば、おれは絹のなめらかさをもって、シティへ潜入できる。汚れ仕事が終わったあとは逃げるが、うまくいかないときもある。生命樹へ戻る道には、暗いものもあるんだ。仕事がうまくいったのなら、死んでも構わないさ。大勢のためだからな。
おれたちはすばらしい時代に生きている。百年ほどまえに神がみはいなくなり、そのうえ、おれたちのような生物は死ななくなった。戦争が目的をなくしたと思うのか。違う。現代では、どの時代よりも大量の血が流されている。戦争はそこらじゅうにあり、すべての軍隊がサボテュアを必要としている。
いくつもの新しいレルムが成立し、軍人たちは、おれたちが処理しきれない量の仕事をもってくる。正統男爵や正統総統を自称する連中は、工作活動のような、汚い手段を使っていないと言い張る。だが、日の出が毎日みられるのと同じように、君主たちは大金を支払い、雇用したサボテュアを懐に隠している。なんて賢いのだろうか。
用語一覧
《あ》:アーチメイジ(Archmage)
《え》:エルフ(Elf)
《か》:風(Wind)、神(God)
《き》:巨獣隊(Brute Squad)
《く》:クイックシルバー材(Quicksilver)
《こ》:コマンダー(Commander)
《さ》:サボテュア(Saboteur)
《し》:シージスパイア(Siege Spire)、シティ(City)、陣地(Bulwark)
《す》:スカウト(Scout)
《せ》:正統男爵(Baron)、正統総統(Warlord)、生命樹(Tree)
《ち》:地界(World)
《て》:ディヴェアヤンド市(Diveryand)
《と》:トレブシェット(Trebuchet)
《は》:バトルメイガス(Battle Mage)、バリスタ(Ballista)
《ま》:マンゴネル(Mangonel)
《れ》:レルム(Realm)
《ろ》:ローグ(Rogue)