シャドウベインの背景世界

MMORPG、Shadowbaneがもつ舞台設定の翻訳

エルフの伝承(Elf Lore)

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 白夜の子供たちよ、遠路はるばるよくぞ参られた。満天なる星空の下、これほど多くの若者たちが集まってくれたことを、私は嬉しく思う。歴史を直に見た者として、私はあなたたちにすべてを伝えねばなるまい。
 美しい花ばながむしり取られるように、私たちエルフの栄光は奪われてきた。三度の苦難を経た今、私たちは絶滅の危機にひんしているといえよう。残された記録はわずかであり、あなたちのような若者が、輝かしい過去を知らないのは無理もない。なぜ私たちエルフは、長大な歴史を書き記してきたのか。どうして重厚な文化が失われ、種族は死につつあるのか。決して忘れてはいけない。

 

 運命の残酷な気まぐれが不滅帝国を滅ぼしたとき、大勢の長老たちが亡くなり、彼らのもつ、後代に伝えるべき知識は永遠に失われた。人の子が編纂した歴史書には、事実が書かれていない。なぜなら私が体験した災難は、彼らの想像が及ばないほど、古い時代の出来事だからである。
 私は私たちの始祖、シーのひ孫であり、名前はテルダニエル・シランドラエという。白夜時代に生を受け、種族に訪れた最大の繁栄を享受した。今こそ私は、私たち最古種族の長い歴史を、当事者として語ろう。話は繰り返さないので、聞き漏らさないようにしなさい。

 

 エルフの歴史とはまさしく獲得と喪失の、そして歓喜と悲劇の舞踏である。地界における別の種族は、時の流れとともに進歩していったが、私たち最古種族はそうならなかった。反対に私たちの文明は退歩していき、もはやかつての栄光は見る影もない。
 歴史学者のトファリオンは、彼の本にこう記した。「遺物の理解だけが、本来の豊かな繁栄を解明する」と。彼は私にとって数千年来の友人であり、職場の同僚でもあった。キエラヴェンの砦を守備していたとき、城壁に、彼の首が投げつけられたのは無念である。ヒトに、「道徳のある勇士」と呼ばれていた男がそれを行ったのを、私は見た。何と馬鹿げたことか。トファリオンは意図せずに、自分の体で持論を証明してしまった。
 私たちエルフは、古来の知識と伝承に誇りをもっている。なぜなら、私たち全員が最も優れた歴史家でもあるからだ。最も古い記憶をもつ者は、五千年前の出来事を、昨日のことのように話すだろう。別の種族にいる「歴史学者」が、私たちとの討論を望むことは愚かである。

 

 最初のエルフたち、シーは地界が開花した直後に、ブライアラから生まれた。強く賢かったシーは、神がみに近いほど高い能力をもっており、私たちは皆が、彼らから枝分かれした存在である。古い歌と伝承によると、シーと彼らの子供たちは、二つある月の光を浴びながら、白夜王国を興した。そして至上の美と静寂を、思う存分に楽しんだようだ。
 過ぎ去りし時代において、神がみは私たちとともに生活しており、そのあいだ私たち最古種族に、多くの技能と知恵を授けてくれた。ウォリアンドラは歌唱と愛の音楽を伝え、サエドローンは賢者に呪術を手ほどきした。マローグは武装と戦術の手本を示し、ケーナリュンは弓と森の素晴らしさを述べた。シーたちの母、ブライアラは生育をうながす愛について教え、エルフは理想郷での暮らしを満喫したようだ。トゥーリンと全父の二人は、白夜王国にほとんど姿を見せなかったので、シーたちが彼らから学んだことは少ない。
 現存する資料には、華やかな時代を描写するものが多い。それらは白夜王国の壮大な諸都市と、石膏と水晶でできた、木よりも高い複数の塔を称賛している。私は今でも、どんな文章よりもはっきりと見事な光景を思い出す。当時の地界に、太陽と時間はその概念さえも存在せず、平和と美および薄暮が永遠に混在していた。エルフは、あふれんばかりの力に恵まれながら生まれ、地界を見事な姿へと形作ったのである。その美しさは、歴史上に類をみない。
 しかしあるとき、華麗なる時代に変化が起きた。

 

 白夜王国は神敵と時間によって滅ぼされ、今では見る影もない。地底の最深部では、いつからか大神敵ことドラゴンが寝ていた。この神敵が目覚め、石の牢屋から抜け出すべく、地上に向かって掘り進むと、地界の全体に大きな地震が起きる。地上のアエアインスも、無事では済まなかった。
 光り輝く諸都市は瓦礫となり、最初のシーだったギルリアンドールも巻き込まれ、命を落としたという。被害に遭ったシーとエルフの人数は、数えきれないほどだった。しかし、これは破滅の始まりにすぎない。
 ドラゴンの出現を見て、白夜王国の各地から、全兵力が報復のために集まった。この軍隊は、歴史上に類を見ないほど高い能力をもっていたが、ドラゴンの暴走を前にしては、まったくの無力だったといえる。ドラゴンには神がみさえもかなわず、この獣が吐き出した炎は、黄金月を飲み込んだ。月は太陽に変化し、このとき永遠の白夜が終わったのである。
 ケーナリュンと全父の活躍によって、ドラゴンは巣に追い払われたが、エルフが喪失したものはあまりにも多く、彼らは嘆き悲しんだ。私もこのなかにいたのだが、生き残ったことは幸運だった。いや、幸運とはいえないかもしれぬ。この後もエルフは、さまざまな困難に直面するのだから。
 こうして白夜時代は終わり、夜明時代が始まった。

 

 下等種族の知識人は、夜明時代という区分を無視して、この時代を存在しないものとする。まったく馬鹿げたことだ。人の子は横柄なので、ヒトおよび時間の起源よりも前の出来事には、関心をもたなかった。ヒトやケンタウロスの学者は、ドラゴンの暴走も太陽の誕生も体験していない。私たちエルフの長老だけが、最古の歴史を実際に目撃したので、エルフ以外の歴史学者には、何の価値もないといえる。
 黄金月が炎上したとき、地界の姿は永遠に変わった。月の宮殿にいたウォリアンドラは、苦悶のうちに命を落とし、神がみは仲間の死を悲しんだ。白夜王国は跡形もなく消え去った。大半のエルフたちが、太陽のいまいましい影響を逃れるべく、遠方に旅立ち、新しい故郷を探し求める。最初の時代にエルフの全盛期が終わり、興隆の見込みがないともいわれた。

 

 白夜時代の繁栄とは反対に、夜明時代において、エルフはつらい日びを過ごす。ドラゴンは逃げたが、最初の王は死に、彼の子供たちも全員が死んだ。地界の歴史上、最大といえる賢者と芸術家たちも、大勢が命を落とした。
 困難はそれだけで終わらない。エルフは民族も国家も一つだったが、ドラゴンの目覚めをめぐって、妖人王たちは激しく言い争い、ときには戦った。そして崩壊した諸都市と同じように、エルフたちの結びつきも消失した。エルフは四つの国家に分裂し、統一は不可能と思われたのである。
 とはいえ、のちにダールヘレグア人の王シルレストールが諸国を征服し、統一国家は不滅帝国と名づけられた。シルレストールは、白夜王国の古い領地が回復されたことを喜んだ。国民も帝国の繁栄を賞賛し、過去にドラゴンがもたらした絶望を、少しでも早く忘れようとした。

 

 エルフの呪術師たちは、観想により冥界を認識し、元素霊を呼び出す。元素霊に建てさせた都市は、以前ドラゴンに破壊されたものよりも、さらに見事な出来栄えとなった。地界の外側を探究することにより、体得した知識は多くの呪術を生み出す。
 いつしか不滅帝国の繁栄は、白夜王国と同等のものとなる。記憶からドラゴンの脅威が消えると、私たちは傲慢で辛らつになってしまった。

 

 夜明時代が進むと、皇帝シルレストールと強大な妖人王たちは、神がみがエルフへ干渉することに、不満をもった。とりわけ、放浪神こと全父への怒りは、特別なものといえる。彼らは、全父の過失がドラゴンを目覚めさせ、殺りくの原因になったと考えた。全父が、ドラゴンの再来を否定したにも関わらず、トゥーリンが最高の剣を作ってくれたという、矛盾もあったからだ。
 全父がどれほど手を尽くてしても、太陽の炎は消えない。 灼熱砂漠が誕生し、地界の全体も砂漠化すると恐れられた。エルフの指導者たちは、神がみを完全に見限り、新しい守護神を探し始める。呼びかけに応じたのは、冥界を隔てた先にいる獣主たちであった。エルフの賢者たちは、彼らとの取引で加護と知識を受け取り、呪芸の神秘が明らかとなる。
 私は、このときの興奮をはっきりと覚えている。夢にも思わないほど強大な力を獲得し、呪術の頂点に到達したのだから。

 

 そして私たちは、自分たちが全父の子供でないことを知った。エルフという種族がもつ本当の父親は、獣主のなかで最も狡かつな、胡狼(ジャッカル)の主だったことが判明したのである。 胡狼の主は放浪神の姿に変装して、ブライアラとのあいだにシーをもうけていた。
 この事実を知って喜んだエルフは、全父に長いあいだ欺かれていたことに対し、腹を立てた。ここに獣主啓蒙が始まる。不滅帝国の支配層は、全父の神殿を打ち壊して、下位の種族を擁する神がみの干渉を、断ち切ろうとした。
 残酷な真実も明らかとなる。霊的な経路の終点に到達することで、おそらく私たちは本来の姿を取り戻し、私たち自身も神がみになれるだろう。まだ誰も実現できてはいないが。つまり、私たちの生得権は盗まれていたのである。
 別にいる世界人類たちは、神がみに欺かれたままで、私たちの行動を強く非難し、裏切りだとののしった。愚か者たちは、幻視に関する説明を受けても理解できなかったのだ。

 

 ケンタウロスは責務および名誉という、時代遅れの考えに盲従していた。そして彼らケーナリュンの子供たちは、愛する全父のために、戦いを仕掛けてくる。このころの地界には、まだヒトがいなかったので、仲間を欠くケンタウロスは、大した敵ではなかった。不滅帝国は強大な軍事力をもっていて、彼ら兵馬たちを、やすやすと打ち破ったからである。
 最後には神がみも参戦した。この脅威に際して、エルフの呪術師たちは、アエアインスに獣主たちを呼び出し、全父およびケーナリュンと戦わせる。全父は天使の軍隊と共に奮闘し、帝国の大軍勢は敗北した。皇帝シルレストールは、鍛冶神トゥーリンによって殺害される。ドラゴンと戦うために、シルレストールが与えられた剣、シャドウベインは没収された。
 下等種族が、獣主征伐と呼ぶ戦争が終わると、獣主たちは従属を強いられたが、彼らの心はまだ折れていない。

 

 全父は私たち最古種族に対し、正当で愚かな信仰に帰依することを命じた。そして不滅帝国のエルフには、過去の行為を、過ちと認める者も現れる。彼らは全父の信仰に回帰し、父をたたえるための、新しい教会を建てた。しかし大多数のエルフが、内心では放浪神を良く思っておらず、それは父に許され、平和を得るための手段にすぎない。
 王朝は交代したが、時間が始まり、夜明時代が終わるまで、不滅帝国の人びとは平穏な生活を送った。獣主征伐の敗北で受けた屈辱は、筆舌に尽くしがたい。次に来る時代も困難なもので、真理の証明はますます難しくなる。

 

 昼中時代の始まりは、時間の始まりと同期しており、この区分は、エルフとヒトの双方が合意したものである。私たちはこの時代で、衝突と戦争を絶えず繰り返した。
 全父がもった最初の子供たちこと、ジャイアントは、北方におけるダールヘレグア人の土地を奪おうとする。戦争は激しいものであったが、最後には、私たちの呪術師が呪いをかけ、ジャイアントの力と繁殖力を消し去った。
 その後すぐに、私たちはトゥーリンの子供であるドワーフと出会った。彼らは、ルーン石という貴重品を探し求めて、不滅帝国に立ち寄ったのである。私たちは、快く取引に応じた。エルフは、ルーン石の秘密と治金技術を渡したが、ドワーフから受け取ったものは、粗末だったことを覚えている。
 それでも、エルフとドワーフは友好関係を築いた。しかしルーン石は絶大な力を内包しており、エルフの呪術師によって、引き出す方法が発見されると、両種族の対立が始まる。新しい技術が提供された後も、欲深いドワーフはエルフを疑い、ありもしない技術を要求してきた。そして、こちらの話も聞かずに腹を立て、戦争を仕掛けてきたのである。
 戦いが佳境に入ると、とち狂ったドワーフは麗人リルリアンドラを誘拐した。彼女はシーの数少ない生き残りで、美と愛の象徴として崇敬を受ける存在だった。ドワーフはリルリアンドラを人質にしたが、不滅帝国の軍勢は迅速に行動する。ドワーフが罰が受け、リルリアンドラが救出されたのだ。
 その後、ドワーフは地底と地上に繋がる道を封鎖し、天変地異が起きるときまで、本拠地とする地下に引きこもった。

 

 昼中時代では別の脅威もある。それは闘争でないにも関わらず、エルフを最も苦しめた。黄金月を覆う、ドラゴンの炎を消せなかった全父は、時間を創造する。こうして太陽は沈むようになり、地界は、太陽が放つ強烈な熱から救われた。
 しかし、放浪神こと全父の視野は狭く、私は、このときのいらだちを今でも覚えている。永遠がもつ無限の可能性は凍りつき、時間が容赦なく進行したのだ。日夜誕生の後に生まれた者たちは、当時のエルフが受けた苦痛を、理解できぬ。永遠一瞬が終わると、私たちがもつ永遠の命はなくなり、エルフは暇と経験に束縛された。
 ドワーフケンタウロスは頭が足りないので、時間の存在以前と以降の違いが、何も分からなかったようだ。時間が動き出す前の地界は、本当に壮麗かつ雄大であり、その美しい夜景を、言葉だけで伝えるのは難しい。
 時間の悪影響は種族の性質にまでおよび、私たちは怒りを覚えた。新しく生まれた子供たちの全員が、時間の奴隷であり、長寿に恵まれなかったのだ。彼らは数百年生きると、花のように枯れて、死んでしまう。
 時間によって、私たちは永遠を奪われたのだ。そしてそれを行ったのは、他でもない全父である。天変地異が起きたとき、私たちの復讐はようやく果たされた。

 

 ドワーフを追い払い、聖刻戦役が終わると、エルフは、全父が本当の子供とみなす種族に出会う。アルダン国の住人であるヒトとエルフの関係は、すぐに悪化した。エルフが、ヒトの誕生よりもはるかに古い歴史をもつことは、嫉妬を招く。そして彼らは、かつてエルフが起こした正当な行為を、大背教や獣主征伐と呼んで、侮辱した。
 彼らアルダン人の傲慢さは、数世紀にもわたる悪逆戦役を引き起こす。ティーターンたちと全父の力を背景に、初めて国家を立てたヒトは、両者に何もとがめられず、不滅帝国に襲撃してきた。全父がアエアインスを離れ、困難な冒険に旅立つと、私たちは素早く報復する。そして、私たちの栄誉は永遠に守られたのである。
 あるいは、そう信じていたかった。

 

 不滅帝国において最大の呪術師たちは、アルダン国のヒトに供儀呪詛をかける。多くのティーターンたちが苦しみながら死に、人の子はことごとく気が触れた。悪逆戦役においてヒトは私たちを侮辱し、凶行におよんだが、彼らへのしかるべき懲罰をもって、この戦争は終結したのである。
 とはいえ、ヒトの窮状に動揺する者たちもいた。なぜなら、呪いの効果は、私たちの予想をはるかに上回っていたからである。エルフは、ヒトが知性と理性を失い、滅びつつある姿を見て、彼らを支配下に置くことにした。
 こうしてヒトの生き残りは、私たちの奴隷となる。エルフが地界の正当な支配者として、ヒトに奉仕をさせたことは、権利の行使にすぎず、多くの者が賛同した。アエアインスの統治権を盗んだ彼らに、本来の立場を自覚させたのだ。
 全父の干渉によって、私たちの子孫が、時間の奴隷になったのだから、その仕返しに、私たちも全父の子孫を支配した。

 

 いつしかヒトは能力を回復し、彼らの一部が脱走する。大平原にて、生き残りとなる少数のケンタウロスは、ヒトにエルフへの憎悪を吹き込み、戦いへと駆り立てた。私たち最古種族は、この反乱に対し、即座に対処する必要があったのだが、うまく事は運ばなかった。なぜなら、灼熱砂漠には不滅帝国に組しないエルフたちがいて、醜く変容した彼らに対し、兵を割いたからである。
 砂漠のエルフがもつ、狂気と裏切りが明らかになると、彼らはドラゴンを目覚めさせ、地界を破壊しようと企んだ。反逆者となったハリーンヴィーリー人の名前は、被追放者を意味するイレケイと改められ、エルフは戦争を仕掛けた。
 火炎戦役は数世代の期間にわたって、地界を荒廃させる。しかし、イレケイは敗北の直前に、卑劣な手段をとった。イレケイのウィザードが魔界門を開くと、魔界の軍勢が出現する。この軍団は地界のあちこちを侵略し、大規模な破壊活動を行った。

 

 災厄戦役が猛威を振るうと、世界人類たちは嘆き悲しんだが、最も大きな被害を受けたのはエルフといえる。それは明白であり、決して忘れてはならない。私はおぞましい光景を目撃し、生きているのもつらかった。
 侵略者たちによる猛攻撃が始まり、不滅帝国の基盤は揺らいだ。数多くの都市が破壊、あるいは汚染される。ドラゴンの目覚め以来、思いもよらない人数のエルフが、命を落とした。
 絶望的な事態は、不可能さえも可能にする。エルフとケンタウロス、さらにジャイアントとヒトが、協力関係を築いたのだ。地界の危機に際して、私たちエルフが、過去に受けた蛮行を許したからこそ、皆が連携できた。
 私たちは地界同盟を主導し、同組織は魔神たちに立ち向かう。しかし、多くの種族が力を合わせても、魔界の勢力にはかなわなかった。
 戦争の最中、長く失われていたトゥーリンの剣が、地界に回帰したことは喜ばしい。だが、シルレストールの孫娘が権利を行使し、剣を取り戻したとき、彼女は魔物の手によって殺される。剣の所有権をもたないヒトは、エルフを妬み、同盟から離脱しようとした。
 最後には、全父が天使の軍団を連れて、二度目となる降臨を果たし、侵略者たちを追い払う。このように、災厄戦役は終わったのだ。

 

 それ以降の昼中時代では、一時的とはいえ、皆がつつましい平和を享受した。しかし時代の結末において、私たちは絶滅の危機にひんし、絶望に打ちひしがれる。なおヒトが、災厄戦役の終結をもって時代を区切り、その後を列王時代と呼ぶことは、彼らのうぬぼれといえよう。
 新しい王朝が不滅帝国を統治し、戦争の被害を受けなかった森の奥深くに、秘匿宮廷が設置される。エルフとヒトは友好的な関係を築き、不滅帝国と新しく生まれたエサイリア国のあいだには、短期間とはいえ交流があった。
 ヒトは視野が狭く、利己的であるため、彼らは同族同士で争い、数多くの国に分裂する。それでも私たちは、ヒトが暮らす小さな諸国とのあいだに、平和を維持した。数百年の月日が経ち、地界同盟は永遠に存続すると思われたが、暗い未来がやってくる。

 

 あるとき、ヒトが国境を侵害し、住民のまだらなエルフの森に、町を築く。それでも秘匿宮廷の王侯は、怒りを抑えた。その次はヒトの気狂いが、再び魔界門を開いてしまう。魔界からモーロックが脱出して、アエアインスに変形生物が作られたときも、私たちは文句ひとつ言わなかった。
 しかしそれは、地界同盟の成立千周年を祝う式典が、開催されたときまでのことである。宴会の際にアルバエティア国の王、コンラートがした自慢話は、エルフの尊厳を傷つけ、ここで我慢の限界が来たのだ。
 地界同盟は瓦解し、秘匿宮廷は領土を犯したヒトを、国内から追放する。そしてヒトの十王国は、暴力と殺りくで仕返しをしてきた。秘匿宮廷の王、ヴァルディマンソールは妖人軍団を動かし、ここに悲涙戦役が始まる。

 

 私は今でも、白夜王国とシルレストールの築いた帝国のことを、思い出す。かつて強大で壮麗な両国を建てたエルフは、獣主征伐に持ちこたえ、魔界の混沌軍団とも戦った。壮絶な歴史を経て、エルフは本来の権勢を失なったので、後継となる秘匿宮廷は、切れ端のようなものにすぎない。
 だが、勘違いしてはならない。衰退したとはいえ、昼中時代においても、私たちは、まだ神がみの力を体現していたからである。当時のエルフでさえも、下等なヒトをやすやすと圧倒し、十王国の軍隊を撃退した。
 勝利は、私たちのものになるはずだった。運命の残酷な手が介在しなければ、あの頃の国家が、今でも勢力をふるっていただろう。

 

 戦いと凶行がつづき、ヴァルディマンソールは、ヒトへの憎悪に身を焦がした。彼は、古い王たちが敗北したヒトを哀れみ、奴隷として生かした判断を、間違いだと考えたそうだ。エルフが昼中時代において、過去に犯した失敗を補うべく、ヴァルディマンソールはヒトの絶滅を誓った。
 慢心王コンラートの殺害が達成されると、妖人軍団は森の奥に引き返し、最後の戦いに備えて、軍事力を蓄える。ヴァルディマンソールは、ミノタウロスとのあいだにある、古い契約を更新した。彼らが加入した軍隊の勢いは、誰にも止められないだろう。
 ヒトの諸勢力は台頭した若い王、カンブリュワンによって統一される。この王は、悲涙戦役が終結したと誤解し、バルデマンソールに使節を派遣してきた。そして、同戦役で喪失した土地の、返還を求めてくる。
 以前に、ヒトから非礼を受けたヴァルディマンソールは、カンブリュワンに対してぶしつけな態度をとった。それはヴァルディマンソールの罠であり、上級王と呼ばれるヒトの王は、戦いに仕向けられたのである。ヴァルディマンソールの軍隊は二年間にわたって、ヒトの土地を踏みしだき、上級王も勇士たちも、エルフの報復になすすべがなかった。

 

 しかしレネリンド平原にて、シャドウベインが上級王に届けられると、すべては覆る。カンブリュワンは、一騎打ちでヴァルディマンソールを殺害し、エルフがもった最後の偉大な王国は、彼とともに滅びた。

 

 王殺しを手にしたカンブリュワンは、無敵だったといえる。悲しいことに、かつてエルフのために作られた運命の剣は、エルフの血でできた海に、その柄を浸したのだ。
 ヒトによって、多くの大都市が次つぎと破壊され、無数の芸術作品が失われる。すべての図書館が火災に遭い、賢者たちは殺された。ここに、古くから伝わる深遠な知識のきらめきが、永遠に消えたのである。
 白夜王国の面影が死滅して、私たちの住む地界から、文明といえるものはなくなった。この絶望的な状況下で、私たちは降伏を示したが、カンブリュワンは貪欲に血を求め、略奪も繰り返す。上級王の蛮行は、キエラヴェンにて、最後の城砦が落ちるときまでつづいた。
 いまいましい戦争自体は、カンブリュワンが死んで終わる。しかし宿敵の死をもってしても、エルフの心痛は消えなかった。不滅帝国の崩壊により、ブライアラ女神の心も壊れる。彼女の悲嘆が原因で、地界は破滅したのだ。したがって、ここで天変地異が起こり、争闘時代が始まる。

 現代においてエルフの人数はわずかであり、私たちは、戦争の嵐と災害が猛威をふるう、分裂した地界に散らばっている。ヒトは、いまだに私たちを憎んでいるため、エルフが生き残るのは大変だろう。少数となった妖人王は、彼ら同士で反目している。現在でも種族が統一され、新しい王国が建つ見通しは立っていない。
 エルフの呪術師は、数十年前に、ルーン門の仕組みを解明した。この建造物は旅行に役立つものであり、私たちを結びつけるだろう。あなたたちが今ここにいて、私の話を聞いているのは、彼らの成果によるものである。噂によると、近年たくさんのエルフが、大都市ディベアヤンドの廃墟に集まった。彼らは素晴らしい過去を懐かしみ、どのように雪辱を晴らすか、語り合っているそうだ。
 ここまでが、私の体験した歴史である。私はあなたたち若者に知識を授け、現代からまだ見ぬ未来へと導く。エルフが失ったものは本当に多く、想定をはるかに超えていた。しかし私たちは、決して自分が何者であるかを忘れない。

 

 高等種族である私たちは、永遠を歩く。かつては時間という概念すらなく、誰も火と恐怖、ならびに死を知らなかった。今や私たちは、美しい白夜と不変に輝く星ぼしをしのぶ。神がみとヒトの干渉によって、私たちの芸術作品は破壊され、生来の栄光と権威は奪われた。
 だがエルフは立ち止まらず、歴史はまだ続く。かつて私たちを苦しめ、運命をねじ曲げた神がみは、もはやどこにもいない。上級王が死に、絶滅の危機は去った。どれほど長く厳しい冬であろうと、いつかは芽生えの春がやってくる。

 

 我らエルフの春が。

 

用語一覧

 

《あ》:アルダン国(Ardan)、アルダン人(Ardan)、悪逆戦役(War of Spite)、アルバエティア国(Alvaetia)
《い》:イレケイ(Irekei)
《う》:ヴァルディマンソール(Valdimanthor)、ウィザード(Wizard)、ウォリアンドラ(Volliandra)、運命(Fate)、運命の剣(Sword of Destiny)
《え》:永遠一瞬(First Moment)、エテュリアー国(Ethyria)、エルフ(Elf)
《お》:王殺し(Kingslayer)

 

《か》:火炎戦役(War of Flames)、下等種族(Lowborn Race)、神(God)、カンブリュワン(Cambruin)
《き》:キエラヴェン(Kierhaven)、教会(Church)、ギルリアンドール(Gilliandor)
《け》:ケーナリュン(Kenaryn)、ケーナリュンの子供(Kenaryn's children)、元素霊(Elemental Spirit)、ケンタウロス(Centaur)
《こ》:黄金月(Golden Moon)、高等種族(Highborn)、胡狼の主(Jackal the Trickster)、混沌軍団(Hosts of Chaos)、コンラート[慢心王](Konrad the Boasting King)

 

《さ》:最古種族(Firstborn)、災厄戦役(War of the Scourge)、サエドローン(Saedron)
《し》:シー(Sidhe)、時間(Time)、ジャイアント(Giant)、灼熱砂漠(Burning Lands)、シャドウベイン(Shadowbane)、十王国(Ten Kingdoms)、獣主(Beast Lord)、獣主啓蒙(Great Enlightenment)、守護神(Patron)、呪芸(Arcane Lore)、上級王(High King)、シルレストール(Sillestor)、神敵(Terror)
《せ》:世界人類(Children of the World)、全父(All-Father)
《そ》: 争闘時代(Age of Strife)

 

《た》:ダールヘレグア人(Dar Khelegur)、大神敵(Terror of Terrors)、大背教(Great Betrayal)、大平原(Vast Plains)、太陽(Sun)、太陽の子供(Child of the Sun)
《ち》:地界(World)、地界同盟(Grand Alliance)、世界人類(World's Children)
《つ》:月(Moon)
《ち》:地界(World)
《て》:ティーターン(Titan)、ディベアヤンド(Diveryand)、テルダニエル・シランドラエ(Teldaniel Thilandrae)、天使(Archon)、天変地異(Turning)
《と》:道徳(Virtue)、トゥーリン(Thurin)、トゥーリンの剣(Thurin's Blade)、トゥーリンの子供(Thurin's child)、トファリオン(Tophalion)、ドラゴン(Dragon)

 

《に》:日夜誕生(Great Change)

 

《は》:白夜王国(Kingdom of Twilight)、白夜時代(Age of Twilight)、白夜の子供(Child of Twilight)、ハリーンヴィーリー人(Khalinviri)
《ひ》:火(Fire)、被追放者(Outcast)、ヒト(Man)、秘匿宮廷(Hidden Court)、人の子(Son of Men)、悲涙戦役(War of Tears)、昼中時代(Age of Days)
《ふ》:不滅帝国(Deathless Empire)、ブライアラ(Braialla)
《へ》:兵馬(Horse Lord)、変形生物(Twisted Breed)
《ほ》:放浪神(Wandering God)、北方(North)

 

《ま》:魔界(Chaos)、魔界門(Chaos Gate)、魔神(Dark Lord)、マローグ(Malog)
《み》:ミノタウロス(Minotaur)
《め》:冥界(Void)
《も》:モーロック(Morloch)

 

《ゆ》:勇士(Champion)
《よ》:夜明時代(Age of Dawn)、妖人王(Elf Lord)

 

《り》:リルリアンドラ[麗人](Lilliandra the Fair)
《れ》:列王時代(Age of Kings)、レネリンド平原(Field of Rennelind)
《る》:ルーン石(Runestone)、ルーン門(Runegate)