シャドウベインの背景世界

MMORPG、Shadowbaneがもつ舞台設定の翻訳

デュエリストの物語(Duelist Narrative)

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 広場でおれを見ていただろう。おまえは一週間まえに来たから、試合を三回は見たはずだ。石畳に落ちたおれの血は、まぐれ当たりの突き返しを受けたときの、一滴だけだ。おまえは痩せていて、腹を空かせている。剣の先端を使うことで、幸運と栄光を獲得したいのだろう。
 おれに挑みに来たのか。冗談だ。もしも、おまえに才能があり、訓練に励むのであれば、おれの剣術を学ぶことができる。ちょうどよいところに来たな。おれの指導が終わったときには、おまえは、地界において、最高といえる剣士の一人になっているだろう。

 

 おれは、輝く騎士たちや、怒りで我を忘れるベルセルクたちを、戦闘および戦争で見てきた。敵を切り裂く剛健なドワーフたちを見たうえに、おれは、盗賊たちおよび傭兵たちを始末させられた。おれは、剣を振るう僧侶こと、ジイエンなんとか(※1)を見たことさえある。おれは、あらゆる種類のウォーリアーたちと戦った。かれらのなかには優れた者たちもいたが、デュエリストの達人たちに比べれば劣る。
 おれは、200回におよぶ決闘をおこない、相手たちの多数が死んだ。おれの霊魂に誓って、ほんとうのことを言う。おれは一度も負けたことがない。おれの体についた傷は三つだけであり、それらは同じ刃によるものだ。他の199人は、おれに対して、かすり傷さえ負わせられなかった。

 

※1:原文では「jen 'ed die or somesuch」。ブレイドマスターの別名こと、ジイエンオータイ(Jen'e'tai)を意味していると思われる。

 

 タリポント人の諸自由都市では、数世紀にわたり決闘がおこなわれてきた。昔の都市貴族たちは、街にある複数の広場を抗争で赤く染めたが、のちに、代理人で紛争を解決しようと考えた。こうしてデュエリストたちが生まれ、レイピア剣の達人たちは、正当性をもたらすための契約を結んだ。当時の決闘は、厳密な習慣および礼儀作法にもとづいて規定され、意義を深めていった。
 最上級の諸名家においては、デュエリストの達人を専属代闘士として雇用し、保持することが一般的だった。専属代闘士たちは王のように暮らし、かれらは家宝のように寵愛された。おれの父は専属代闘士だったが、かれが仕えていた家はなくなった。
 この剣を見ろ。すべての優れた剣に名前があるように、これにも名前がある。この剣は輝き薔薇と呼ばれている。なぜなら、かの女が突いた跡には、赤い花が咲くからだ。おれの前に立ってみろ。そうすれば、かの女の棘を感じるだろう。よく見ておけ。これほど優れた剣は他にはない。

 

 古き良き時代においては、貴族と商人および豪農が、デュエリストを雇うことにより、紛争を広場で解決しようとした。見るだけで確執を把握できた。つまり、告発者を支持するデュエリストは、赤いチュニック服を着ていて、帯の色は議題を示した。そのデュエリストが左手にもつ剣の丈は、主張の言葉として、攻撃と敗北および死を相手へもたらした。もちろん、当時においては、死ぬまで戦うことは珍しかった。現代では、生死が問題になることはない。諸都市の外と同じようにな。
 デュエリストたちは、形式についての十分な知識をもっている。だが、おれは、合図と儀礼の、古い両者に精通した者たちには、しばらく会っていない。心配するな。おれがすべてを教える。おれの父はよく言っていた。必要とされていて知られていないことよりも、知られていて必要とされていないことのほうが、優れていると。

 

 それで、おまえは、剣術がどういうものか見ていたか。おれは、おまえが思い浮かべる騎士たちよりも強い。なぜなら、騎士たちは、土地を与えられたことで太って弱くなり、無価値な鎧で肌を守っているからだ。亀や蟹のように鉄で体を覆うことが、勇敢だといえるだろうか。どこに技がある。誇りも名誉もない。剣をもった敵がいても、機転と機敏さだけを頼りに、広場を歩いてみろ。これこそが勇気であり、技でもある。

 

 現在でも、複数の自由都市で数十の剣技が教えられており、おれはそれら全部を使える。ロヴァイレ市で教えられている剣喧嘩こと、二本フルーレ剣のハッランティン行進や、十年まえに流行した影短剣のことだ。鎧の隙間をみつけて刺し、騎士の肝臓から出血させたうえで、気づかれないまま離れる方法を、おまえも覚えることになる。決闘には技術と訓練が必要だから、おれは、剣を振るう死のように、おまえに教えてやる。

 

 その粗末な剣を抜け。おまえに何ができるのか、見せてみろ。

 

用語一覧

 

《う》:ウォーリアー(Warrior)

 

《か》:輝き薔薇(Shining Rose)、影短剣(Shadow Dagger)
《け》:剣喧嘩(Blade Brawling)

 

《し》:自由都市(Free City)
《せ》:専属代闘士(House Champion)

 

《た》:タリポント人(Tariponto)
《ち》:地界(World)
《て》:デュエリスト(Duelist)
《と》:都市貴族(High Family)、ドワーフ(Dwarf)

 

《に》:二本フルーレ剣のハッランティン行進(Harrantine March of Two Foils)

 

《へ》:ベルセルクBerserk

 

《れ》:霊魂(Spirit)
《ろ》:ロヴァイレ市(Rovayle)