…したがって、全父が地母神ことブライアラを生じさせ、地界の再生を始めるまえに、複数の事象が連鎖したと推測できる。しかし、それらの事象については、何も明らかになっていない。ブライアラの目ざめるまえ、地界はどこにもなく、地界は歴史をもたなかった。少なくとも、われわれがそのように知覚できるものは。われわれは、全父がブライアラの生まれた場所まで、移動してきたことを推定できる。とはいえ、父はどこから来たのだろうか。
フリランデロン※1の哲学者たちは、事象に対する直近の原因と発生の原因、さらに本質の原因について話した。ブライアラの誕生は、地界の存在に対する直近の原因であり、彼女に対する全父の干渉は、発生の原因といえる。しかし、全父は何を目的としてそこにいたのか。彼じしんの魂を、ブライアラに染みこませることを望んだからか、あるいは、それはあらかじめ終わっていたのか。白夜時代いぜんの事象について、思索をめぐらせ、答えを出そうとすることに意味はない。事実が確かめられることはないからである。地界が作られた、それだけが、われわれの認識できる真実といえよう。先行する時代での事象は、残念ながら不可知であるが、そうでない可能性もある。明らかでないものは、まったくわれわれに知るよしがないか、あるいは推測できる。しかし、最高位の呪術でさえ、地界の始まりより古い、起源の謎を解明することに失敗した。一方で、全父の起源については、迷信と神話の産物といえる、複数の情報があるため、そのままにはしておけない。
注1:フリランデロンという単語は、この文章だけに見られる。学者たちは、単語の意味を場所か人物と考え、議論している。人物としては、哲学の学園を開設した、エルフの哲学者が候補にあげられている。悲涙戦役と天変地異によって、フリランデロンが伝えてきた知識は、すべて損失してしまった。
妖人帝国に口承と書物で伝えられてきた、『地界の謎めいた原初について』。ハロルム・クオルティウス・ヨルマンドゥスにより、十六巻のうち一巻から引用。
固有名詞一覧
《き》:起源の謎(Veil of Origins)
《せ》:全父(All-Father)
《ち》:地界(World)、地母神(Green Mother)
《て》:天変地異(Turning)
《は》:白夜時代(Age of Twilight)、ハロルム・クオルティウス・ヨルマンドゥス(Hallorum Quortius Jormandus)
《ひ》:悲涙戦役(War of Tears)
《ふ》:ブライアラ(Braialla)、フリランデロン(Hrillanderon)
《よ》:妖人帝国(Elvish Empire)