シャドウベインの背景世界

MMORPG、Shadowbaneがもつ舞台設定の翻訳

ブラッドプロフェトの体験記(Blood Prophet Narrative)

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 私が砂漠に来たのは、幻聴を鎮めるためだった。

 

 通過儀礼のとき以来、寝ても覚めても、複数の声が聞こえ、私を苦しめる。訳が分からないままやつれていき、ヴィラクトゥの長老たちは、私のことを気が触れたと断言した。彼らは武器を抜いたが、神秘歌手は場を治め、私の通過儀礼がまだ終わっていないことを、教えてくれた。
 私は、刀差したちの気が変わる前に、そこを離れた。空虚な砂漠に来ると、幻聴は、私がおびえていることを笑った。

 

 私は、ハリークルイストゥ女神の力によって、砂ががらすに変化した、黒砂漠に着く。がらすの砂漠を歩きつづけると、両足は傷だらけになったが、私の血が宿す、ハルイーカは燃えあがった。激痛で意識が遠のき、幻聴は聞こえなっていく。血塗れの足跡から蒸気が昇り、私には怖いものがなくなった。

 

 三日後、私はまだ砂漠をさまよっていた。静かな空の下で、地面に図像を描き、その中央で座禅を組んだ。十日後、空腹感は消え失せ、喉の渇きはやわらいだ。毎日、太陽母神の熱に体を焼かれたが、座ったまま耐えぬいた。二十日後、幻聴はふたたび聞こえてきた。今度の声は、幻をともなっていた。

 

 マンティコアが姿を現したのだ。私を苦しめていた声は、彼のものだった。この怪物は、私の弱さをあざ笑い、うなるような声で、部族を捨てた私に、帰りを待つ者はいないと言ってきた。彼は私を哀れみ、とげのついた尻尾を差し出して、死をすすめてくる。
 私は拒否し、彼に立ち去るように、言い放った。すると、マンティコアは姿を消し、私のハルイーカは熱く純粋になる。自分の内側に、これほどの強さが眠っていたとは、思いもよらなかった。

 

 肉体はやせ細り、唇は裂け、肌は黒ずんだ。記憶はあいまいだが、おそらく数日が経つと、今度はサーペントが現れる。この蛇がささやく声も、私を長いあいだ苦しめていたものの、ひとつだった。
 サーペントは、通過儀礼でやつれた私を哀れみ、食料を渡そうとしてきた。私は、彼が嘘を言っていると感じ、食料を遠ざけるように言う。彼は言うとおりにしたが、突然、私の手にかみついてきた。私の血液は、すぐに冷たくなった。記録でしか知らない、死んで固まった水や、星ぼしのあいだにある、暗闇のように。私は叫び声がかれるまで、苦痛にのたうちまわった。

 

 いつしか私の火、ハルイーカは氷を克服し、体はほぐれた。そして私は、変容に働きかける、神的炎の力を見たのだ。例えば砂ががらすに、木が炭に、泥がれんがに、肉が食料に変化するのは、火の力によるものである。
 魂の火によって、体の傷はふさがり、毒はとりのぞかれた。力を発見したが、まだ喜ぶことはできない。砂漠のような修行が、実を結ぶまでは。

 

 そして、一匹のはえがやって来て、彼の声と羽音が聞こえた。彼は、自分の正体を死だと言い、長いあいだ、私を苦しませてきたと告げた。この虫は、私の強さをほめたたえ、これ以上、私の魂と張り合わないと決めた。私が生まれたときから、彼は私を、狂気におとしいれようとしていたのだ。だが、私はようやく勝利し、自由になった。
 はえは、多くのことを教えてくれた。知られざる呪文に、強大な力を生む歌、さらに過去と未来について。彼は私に、水をすすめてきた。私の体力を回復させ、ヴィラクトゥに戻らせるために。故郷では、私の英知が皆に賞賛されて、私が新しい指導者になるように、懇願されるそうだ。
 私は笑って、水を断った。はえは羽音を鳴らしながら言う「失礼な奴め。おまえは、自分が誰か分かっているのか。わしが誰なのかも、答えろ」

 

 私はまた笑い、言った。「私はちっぽけだ。あなたがもつ子供の、一人にすぎない。あなたが授けてくれた力も知識も、私ごときにはふさわしくない。しかし私は、あなたの火を宿しているから、あなたに献身しながら、生きていく。
 太陽の源泉ことクルイグオハリーンよ、私は、あなたが何枚も被る仮面の下に、あなたの素顔を見る。あなたは、私が宿す聖なる力に、火をつけた。だから私は、あなたの御名を永遠にたたえよう。

 

 ドラゴンは笑い、通過儀礼が終わった。はえの姿は消え、砂漠さえもなくなり、目のまえにいたのは、絶大な力をもつドラゴンだけだ。かつてヘンナンガルロラヒの平原で、預言者ダリバストールがドラゴンを見たように、私も偉大な神的の巨体と、限りない恐ろしさを目撃した。そしてダリバストールと同じように、私も恐怖を抱かなかった。
 私の両目は開かれ、竜火ことハルイークルイストゥが、両手に燃えあがり、全身の傷と苦痛がなくなった。

 

 かつて私は、下位階級のイーリーハンとして部族を去った。だが竜神に選ばれし者となり、ハナルチュフアラールことブラッドプロフェトとして、部族に戻ったのだ。私がブラッドプロフェトとして火をともし、導く部族は、数世紀のあいだ暗闇を歩いてきた。今や、ドラゴンは私たちを導き、彼の火は、私たちの力を補充してくれている。

 

 私が砂漠に来たのは、幻聴を鎮めるためだった。

 

 そして、聞く方法を知ったのだ。

 

用語一覧

 

《い》:イーリーハン(Irikhan)
《う》:ヴィラクトゥ(Virakt)

 

《か》:刀差し(Blade Wielder)
《く》:クルイグオハリーン(Kryquo'khalin)、黒砂漠(Black Plain)

 

《さ》:サーペント(Serpent)
《し》:神敵(Terror)、神的炎(Holy Fire)、神秘歌手(Eldest Singer)

 

《た》:太陽の源泉(Holy Source of the Sun)、太陽母神(Holy Mother)、ダリバストール[預言者](Darivastor the Prophet)
《つ》:通貨儀礼(Testing)
《と》:ドラゴン(Dragon)

 

《は》:ハナルチュフアラール(Khanarch'alarl)、ハリークルイストゥ(Khalikryst)、ハルイーカ(Khar'ika)、ハルイークルイストゥ(Kharikryst)
《ひ》:火(Fire)
《ふ》:ブラッドプロフェト(Blood Prophet)
《へ》:ヘンナンガルロラヒ(Hennan Gallorach)

 

《ま》:マンティコア(Manticore)
《み》:水(Water)

 

《り》:竜火(Magic Fire)、竜神に選ばれし者(Dragon's Chosen)