シャドウベインの背景世界

MMORPG、Shadowbaneがもつ舞台設定の翻訳

サンダンサーの体験記(Sundancer Narrative)

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 本記録は不滅帝国のエルフ、ラレソンネル・ベンドラリモ氏によって、執筆されたものである。火炎戦役にあたって、ブレイドウィーバーとして従軍した氏は、羅刹たちに捕らえられ、短い捕虜生活を終えたあと、手記を書いた。

 

 退歩したエルフこと被追放者たちは、ウィザードのレストロン氏による、大規模な襲撃を受けて、逃げ出した。ブレイドウィーバーたちは、意気地のない彼らを見て、あざけ笑う。彼らの集落にて、乱立した物置小屋と天幕は燃え、煙が立ち上っている。いまいましい太陽が照りつけ、鍛冶場の中よりも熱い。
 視界がもやもやと揺らめく。砂丘が波打つ土地を抜け、進んでいくと、そこには一人のイレケイがいた。彼は上半身が裸で、肌の色は黒曜石のように、真っ暗だ。武器といえる物を身に付けておらず、肉体がとても鍛えられていることは、見てとれた。
 私たちは剣を抜き、このイレケイを取り囲んだが、彼は動じず、表情ひとつ変えない。

 

 私たちが間合いを縮めると、イレケイは不敵な笑みを浮かべた。ブレイドウィーバーたちは剣の舞で切りかかり、敵の出方を見た。すると、イレケイは急に動き出し、剣の踊り手たちに、身体動作の極致を示してくる。
 彼の動きは、目でとらえられないほど素早く、脳天に衝撃が走ったときは、何が起きたか分からなかった。彼は私の動作に対して、ひとつひとつを正確に予測し、やすやすと打ち込んでくる。私たちの全員が鋼鉄の嵐こと、トラナリオナエの技を駆使したが、彼はすべての攻撃をかわし、かすり傷さえ負わなかった。彼が武器にしたものは、拳と足だけである。しかし攻撃を受けた者は、破城槌で打たれたかのように、遠くへ吹き飛んだ。さらに、彼の体温は火のように熱く、彼に触れられた肌は、火傷をした。

 

 イレケイは悪魔のようなうなり声をあげながら、縦横無尽に攻撃を繰り出していた。だが、ふいに立ち止まり、つたない高等言語で、言葉を発した。
「死ぬがいい、寒冷人よ」彼は叫んだ。「おれはサンダンサーだ。だから、おれのチャルレエキャには混じり気がない。おれの炎を食らえ」
 イレケイの両手に炎が発生し、彼が拳を押し当てた場所は、それが何であれ、たいまつで火をつけるように燃えた。彼は素手で、呪力を宿す長剣をさばき、一撃でへし折る。これほどまで激しい戦いぶりは、見たことがない。彼の周りには、砂ぼこりが起こる。それだけ、彼の一挙一動が速いのだ。
 そして周辺から、彼の仲間たちによる、雄たけびが聞こえきてきた。私たちはサンダンサーの張った、危険な罠にかかっていたのである。目のまえにいる被追放者は、笑みをこぼし、私は自分の破滅を知った。

 

 灼熱砂漠の羅刹たちには、最初に拳道を極めた人物、火拳のハルウーバルに関する伝承が、今も受け継がれている。ウォーリアーだった男は、かつて何らかの理由で、自分の所属するヴィラクトゥを裏切り、部族民の全員を殺害したそうだ。その行為はイレケイにとって、最上位の掟に逆らうものだった。
 裏切り者となり、すべてのイレケイにうとまれた男は、自分の名前さえも奪われたという。さらに、イレケイでも行かないほど過酷な、砂漠の片隅に追いやられた。悲しみに暮れた羅刹は、死ぬことを望んだが、のちに、彼の魂は強さを獲得する。
 太陽金床の厳しい環境下で、彼は生存の方法を学んだ。さらにドレイクとサーペント、およびスコーピオンのように戦う方法も、身につけた。あるとき、彼は竜神の声を聞き、さまざまな知識を開示される。彼は荒涼とした砂漠で、苦行と瞑想に打ちこむことにより、魂の火、ハルイーカを研ぎすませた。
 その後、追放されていた男は、自分が罠にかけられ、裏切られていたことに気づき、故郷に戻った。変容したイレケイは武器を使わず、敵を見つけ次第に、拳と足で殺害していく。無名のイレケイは、自分に名前を与え、火拳を意味する、ハルウーバルと名乗った。報復が終わると、彼は砂漠の片隅に戻り、拳道の深遠を追求したそうだ。
 彼は最初のサンダンサーこと、ルアラルハリーンキャとして有名になり、多くのイレケイが、彼の手本にならっている。今日でも、頭髪をそった若いイレケイたちが、自分の血が宿す、火を呼び覚ますために、部族を捨てる。そうして彼らは、火舞踏の師匠を探すのだ。

 

 非砂漠地域の人びとに、神秘格闘家と呼ばれるサンダンサーは、イレケイのなかで最も謎めいており、危険な存在ともいえる。イレケイの部族間に争いは絶えないが、サンダンサーは、どの場所でも歓迎されるようだ。
 彼らは、小刀をもつ戦士として生まれ、最後には武器を持たなくなる。サンダンサーの言葉によると、イレケイが武器を捨て、肉体と霊魂だけに依拠すれば、彼らはドラゴンに近づく。それが、達人の域に達する方法だという。サンダンサーを目指すイレケイは、厳しい修行を重ねるが、最高の戦士になれる者は、一握りにすぎない。

 

用語一覧

 

《あ》:悪魔(Demon)
《い》:イレケイ(Irekei)
《う》:ウィザード(Wizard)、ヴィラクトゥ(Virakt)、ウォーリアー(Warrior)
《え》:エルフ(Elf)

 

《か》:火炎戦役(War of Flames)、寒冷人(Hateful One)
《け》:拳道(Path of Khar'ika)
《こ》:高等言語(High Speech)、黒曜石(Onyx)

 

《さ》:サーペント(Serpent)、サンダンサー(Sun Dancer)
《し》:灼熱砂漠(Burning Land)、神秘格闘家(Dervishe)
《す》:スコーピオン(Scorpion)

 

《た》:太陽(Sun)、太陽金床(Sun's Anvil)
《ち》:チャルレエキャ(Carreeka)
《と》:ドラゴン(Dragon)、トラナリオナエ(T'lanarionae)、ドレイク(Drake)

 

《は》:ハルイーカ(Khar'ika)、ハルウーバル(Khar'ubar)
《ひ》:火(Fire)、火拳(Fire Hand)、火舞踏(Dance of Fire)、非砂漠地域(Green Land)、被追放者(Outcasts)
《ふ》:不滅帝国(Deathless Empire)、ブレイドウィーバー(Blade Weaver)

 

《ら》:羅刹(Devil Man)、ラレソンネル・ベンドラリモ(Larethonnel Vendralimo)
《り》:竜神の声(Voice of the Dragon)
《れ》:レストロン(Lestron)