シャドウベインの背景世界

MMORPG、Shadowbaneがもつ舞台設定の翻訳

ハンツマンの体験記(Huntsman Narrative)

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枝角ある狩猟神よ、呼びかけを聞いてください
どうかわたしに、獲物を授けてください
わたしの矢を、まっすぐに飛ばさせてください
わたしの足を速く動かさせ、耳を鋭くさせてください
夜の闇の静けさのように
わたしを、獲物の居場所へ導いてください
わたしの潜伏と弓の狙いによって
仲間たちに、競技を楽しませてください
枝角ある狩猟神よ、わたしは祈ります
今日の狩りにご加護をください

 

ヴェルダント海のケンタウロス、オシキュル氏族に伝わる、太古の祈祷文より引用

 

 はるか昔、エルフにおける最古種族たちは、深い森の中に、水晶ならびに石膏でできた諸塔を建てた。一方で、最初のケンタウロスたちは、開けた草原を風のように駆け、全父の同胞、狩猟神ケーナリュンをたたえる歌をうたった。ケーナリュン神は、ケンタウロスたちに、弓の扱い方と狩猟を教えた。こうして、かれらは広大な草原を放浪して、狩猟の報酬を得ながら、王たちのように生きてきた。

 

 ケンタウロスたちは、馬人たちの父こと狩猟の神、ケーナリュンの伝説について、多くのことを知っている。
 二本の立派な鹿の枝角で、頭を飾りたてているケーナリュン神は、今も地界における原野で、鷹よりも早く走っている。旅のあいだ、ケーナリュン神は多くの姿をとる。伝説によれば、それらの姿は、有角狩人と聖馬ならびに銀鹿である。原野の野獣たちは、ケーナリュン神の強力な弓をおそれており、かれが角笛で召集をかけたときに、逃げ出すこともある。ケーナリュン神は、全父とともに無限冥界を横断し、地界を守っていた混沌軍団と戦った。その古い出来事は、ケンタウロスたちのあいだで今も伝えられている。
 全父は、地界において最初の野獣となる、複数の猟犬を形づくり、それらを狩猟神の忠誠に対する報酬として、かれに与えた。こうして、猟犬たちは、ケーナリュン神とかれの子供たちに仕えてきた。いつも狩猟神のそばで走った猟犬群は、小型馬と同じ大きさをもっていて、瞳に神秘的な輝きを宿していた。かれらの活躍は、多くの歌ならびに記録によって伝えられてきた。

 

 狩猟神の伝承で、もっとも古いうえに、もっとも強く関心をもたれているものは、白銀月ことサエデロスへの旅だ。
 最古開花がおきて野獣が誕生したあと、ケーナリュン神は、生まれたばかりの地界がもつ川で、大きな白銀魚を追った。魚のあいだで、もっとも悪賢かったこの白銀魚は、狩猟神から逃れるために、空へ向かって跳ねあがり、夜空を泳いだ。ケーナリュン神は追いつづけ、獲物にいくつもの火矢を射た。ケンタウロスたちの言葉によれば、白銀魚の残した輝く水と、夜空に刺さった狩猟神の諸矢によって、星ぼしが生まれたのだ。

 

 ケーナリュン神は、白銀魚を追って白銀月に着いたが、そこで魚は逃げてしまった。なぜなら、かれはそこで見たものが気になり、狩りをとり止めたからだ。
 ケーナリュン神は、月にあった巨大な氷の宮殿で、氷の柱の中に閉じ込められながら、銀の棺台の上で眠る美女をみつけた。眠っていた女性は、月の月光女神ことサエドローン女神であり、エルフたちに運命神とよばれていた。ケーナリュン神が、かれの立派な角笛を吹き鳴らすと、壮大な音によって氷は砕けた。サエドローン女神は眠りから目ざめ、ケーナリュン神に対し、救出してくれたことを感謝した。こうして狩猟神と月光女神が結ばれ、かれらの子供である、ケンタウロスたちが生まれたのだ。
 狩猟神と白銀女王は喜びながら地界を歩いたが、空虚な大地に不穏な影が広がりつつあった。残念ながら、運命神の眠りが、あまりにも早くさまたげられたからだ。サエドローン女神の夢は暗く恐ろしいものだった。その悪夢は、かの女が目ざめたときに姿と命をあたえられ、質量のない怪獣、貪食獣グラルロクールになった。
 活動を始めたこの幻獣は、白夜の平原を呪いのように横断し、ケンタウロスたちを惨殺しながら、恐怖をまき散らした。ケーナリュン神は弓と角笛をとって、猟犬たちを招集し、貪食獣を狩るために、自分の子供たちのもとを去った。サエドローン女神は悲しみに打たれ、月へ戻ったが、現在でも夫の帰りを待っている。このときから幻獣討伐はつづいている。この狩りは、ケーナリュン神がグラルロクールと対峙し、どちらかが死ぬまで戦う、地界の終わりまで継続するだろう。

 

 ケーナリュン神の不在により、ケンタウロスは自分たちの養成をまかせられた。そして、優れたハンツマンたちは、その名にふさわしい成果をあげたのだ。ハンツマンたちは、ケーナリュン神から受けた教えを、エルフと人の子に伝えた。このような理由から、世界じゅうの人びとのあいだに、ケーナリュン神の角笛に応え、かれの狩りに参加する者たちが存在する。
 狼と同じように、集団で狩りをするハンツマンがいる一方で、一人で獲物を追うハンツマンもいる。守護神であるケーナリュン神と同じように、弓を好む者たちがいる一方で、槍を愛用する者たちがおり、罠を使う者たちもいる。共同体への食糧供給を目的として、あるいは、獲物を追うことに興じるためであっても、ハンツマンたちは原野を自在に歩く。かれらは、どんな村や町よりも、人跡未踏の土地を心地よく感じる。

 

 狩りを成功させる条件とは、獲物をみつけて討ちとることだ。
 ハンツマンたちは獣の生態を熟知しており、索敵の技術にも長けている。ハンツマンたちのもつ鋭い目は、足跡だけでなく、折れた枝や散開した砂利もみつける。熟練したハンツマンが痕跡をみつければ、その獣はまず逃げられない。噂によれば、このようなハンツマンたちは、獲物のにおいを追尾することもできる。
 ハンツマンたちは潜伏行動に優れており、かれらは、飛行しているふくろうのように静かに動く。鹿は鋭い感覚をもつため、矢を当てるのは難しい。しかし、熟練したハンツマンは気づかれずに距離を縮めて、小刀で仕とめることができる。ハンツマンたちは、見た獣の状態を瞬時に見ぬく。群れている個この獣が、どれほど年をとっているか、あるいは弱っていたり病気を患っているか、などである。

 

 すべてのハンツマンがケーナリュン神の伝承を知っており、この狩猟神を守護神として崇敬している。狩猟において十分な技術をもち、有角狩人へ、価値ある奉納品を用意できた者たちは、かれの恩恵を受けられる。しかし、奉納品となる獲物は、獣のなかでもとりわけ大きなものだけだ。恩恵を受けられたハンツマンが呼びかければ、ケーナリュン神じしんによって、立派な猟犬が送られる。古い伝承によれば、他にもさまざまな恩恵があったようだ。
 最高のハンツマンたちはケーナリュン神に見いだされ、仲間のもとを去ったあと、幻獣討伐に加わる。ケーナリュン神の狩猟団に参加した、祝福されたハンツマンたちは、かれの聖猟犬たちと共に走る。そして、地界が終わるときまで グラルロクールの跡を追うのだ。

 

 天変地異がおきたことで、地界の終わりは目前となった。狩猟神が、最後に、かれの子たちと追従者たちの前に表れてから、長い年月がすぎた。恐怖は、ハンツマンたちの心にかみついている。
 時間枯渇はおきたのだろうか。ケーナリュン神はグラルロクールを仕とめたのか、あるいは負けて死んだのか。地界は崩壊したが、まだ幻獣討伐が継続しているのかは、ハンツマンたちもわかっていない。わたしは、狩猟神の獲物が遠くへ逃れ、暗い時世を楽しんでいるのではないかと思い、恐れている。事実は何も判明しておらず、現在において、ハンツマンたちは狩猟神を追うようになり、かれの消息を探している。

 

用語一覧

 

《う》:ヴェルダント海(Verdant Sea)、運命神(Fate Weaver)
《え》:エルフ(Elf)
《お》:オシキュル氏族(Othikyur Clan)

 

《か》:怪獣(Terror)
《き》:銀鹿(Silver Stag)
《け》:ケーナリュン〔狩猟神〕(Kenaryn the Hunter)、月光女神(Shining Goddess)、幻獣(Dream Beast)、幻獣討伐(Long Hunt)、ケンタウロス(Centaur)
《く》:グラルロクール[貪食獣](Grallokur the Devourer)
《こ》:混沌軍団(Host of Chaos)

 

《さ》:最古開花(First Flowering)、最古種族(Firstborn)、サエデロス(Saederoth)、サエドローン(Saedron)
《し》:時間枯渇(End of Time)、白銀魚(Silver Fish)、白銀女王(Silver Queen)、白銀月(Silver Moon)、守護神(Patron)、狩猟の神(Lord of the Hunt)
《せ》:聖馬(Stallion)、聖猟犬(Hound)、全父(All-Father)

 

《ち》:地界(World)
《つ》:月(Moon)
《て》:天変地異(Turning)

 

《は》:白夜の平原(Plains of Twilight)、馬人たちの父(Father of Centaurs)、ハンツマン(Huntsman)
《ひ》:人の子(Son of Men)

 

《む》:無限冥界(Endless Void)

 

《や》:野獣(Beast
《ゆ》:有角狩人(Horned Huntsman)

 

《り》:猟犬群(Pack)